安全と安心の科学
村上陽一郎
集英社新書 2005年
安全の名のもとに人間がつくりあげた科学的人工物、社会的構造物が、われわれの安全をおびやかす可能性を、とくに医療と原子力を題材に解説している。人間工学のヒューマン・エラー論やフェイル・セーフの設計論のほか、個人の責任の追及とは別の「システムとしての事例蓄積」の重要性、人間によるリスク認知の特徴、PSA(確率論的安全評価)による起こりうる事態のシナリオ分析など、各分野からの方法論が紹介されている。組織論、システム論としても興味深く、安全文化の導入の必要性とともに、「組織内で従業員の間に安心が広がるときが最も危険」「安全は達成された瞬間からその崩壊がはじまる」など、示唆に富む指摘が読者を次の思考に誘う。科学技術と社会の相互作用考える人にはぜひ読んでおいてほしい一冊である。
(藤垣裕子:東京大学大学院総合文化研究科 教授