成果概要
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誤り耐性型大規模汎用光量子コンピュータの研究開発[6] Ti系超伝導体による高検出効率・高計数率光子数識別器に関する研究開発
2025年度までの進捗状況
1. 概要
誤り耐性型汎用光量子コンピュータの実現には、GKP(Gottesman–Kitaev–Preskill)量子状態の生成が不可欠であり、そのためには非ガウス型の量子操作を可能とする実験系の構築が必要です。この実験系を実現するための構成要素のひとつとして、光子数識別器が挙げられます。光子数識別器は、非ガウス的な量子状態である光子数状態を射影操作により測定可能なデバイスであり、多光子射影測定を通じて高次の非線形光学過程を引き出すために不可欠な要素技術です。
図1に、本研究で用いた誘電体多層膜による光吸収キャビティの設計概念および作製したTES(超伝導転移端センサ)の顕微鏡写真を示します。
本研究開発では、誤り耐性型汎用光量子コンピュータに必要な光子数識別器について、通信波長帯において高検出効率・高速動作・光子数識別能力を同時に満たす検出器基盤を確立することを目的として研究開発を行いました。
超伝導現象を用いたエネルギー分散型超高感度フォノンセンサを基盤とし、光子数情報を高効率かつ高速に量子測定可能なデバイス技術および評価技術を確立しました。
特に、チタン系超伝導体と誘電体多層膜による光吸収キャビティを組み合わせることで、高検出効率と高速応答を両立する光子数識別器を実証しました。また、検出効率など量子光センサとして重要な性能について、国家標準トレーサブルな評価体系を確立し、国際的に妥当な性能保証を可能としました。
2. これまでの主な成果
(a) 高効率高速TESの設計と作成
通信波長帯において高検出効率を実現するため、誘電体多層膜を用いた光吸収キャビティの設計を行いました。設計には、Ta₂O₅およびSiO₂の単層膜を作製し、多角度分光エリプソメトリにより複素屈折率を導出した結果を反映しました。これに基づき、TES背面に反射ミラー(金)を含む全16層の誘電体多層膜を配置するとともに、TES前面には3層の無反射層を設け、光吸収特性を最適化しました。各誘電体多層膜の厚さは200~300 nm程度とし、設計段階においてほぼ99.7 %の光吸収特性が得られることをシミュレーションにより確認しました。これらの設計に基づき、高信頼性の光キャビティ構造を有するTESデバイスを作製しました。

(b) 高効率高速TESの評価
作製したTESを用いて光子数識別性能の評価を行いました。図2(a)に、平均光子数3 photons/pulse(波長1.5 µm)のコヒーレント光を照射した際の応答信号波形を示します。最適化したTi/Au系TESにより、立ち上がり時間27 ns、減衰時定数32 nsという高速応答を実現しました。また、図2(b)に示すように、波高値から構築した光子数スペクトルにおいて、検出した光子数に応じた明瞭な光子数状態識別が可能であることを確認しました。本デバイスは、繰返周波数10 MHzの条件下においても光子数分布の再構成が可能であり、高速動作条件下での光子数識別を実証しました。さらに、国家標準トレーサブルな評価系を用いた検出効率評価により、通信波長帯におけるシステム検出効率99.0 ± 0.60 %を達成しました。

(c) 高計数率条件に対応する信号処理基盤の確立
高速化に伴う信号パイルアップの課題に対し、TES読み出し信号に対するFPGA実装のリアルタイム信号処理手法を導入しました。TESパルス波形に最適化したトラペゾイダルフィルタを用いることで、連続動作下においても安定したパルス高さ抽出を可能としました。これにより、デバイス物理としての高速TESの開発に加え、高計数率条件下でも安定動作する計測アーキテクチャを確立し、実用的な光子数識別基盤を構築しました。
3. 今後の展開
本研究により、非ガウス状態生成に必要な高検出効率・高速光子数識別器の実験基盤を確立しました。本成果は、誤り耐性型汎用光量子コンピュータに必要な多光子射影測定を実行可能な検出器技術として位置づけられます。 今後は、本研究で確立した技術基盤をもとに、さらなる高速化(GHz級動作)や多素子化への展開、ならびに新原理に基づく光子検出技術の開発へと接続することで、次段階の研究開発および応用展開を進めます。