成果概要
誤り耐性型大規模汎用光量子コンピュータの研究開発[4] 光量子コンピュータの社会実装に関する研究開発
2024年度までの進捗状況
1. 概要
光量子コンピュータでは、時間領域多重を用いることでコンパクトな系でスケーラブルな量子計算を実現できます。そのため量子コンピュータ実現の有力候補と考えられます。課題推進者1のグループと協同して、光量子コンピュータの開発と社会実装を目指し研究開発に取り組んでいます。
光量子コンピュータの開発要素は、大規模な汎用量子計算のためのシステム構築と、誤り耐性を獲得するための補助状態の生成に分けて考えられます。本研究では、大規模汎用量子計算のためのプラットフォームを構築しています。また、光量子コンピュータの社会実装に向けて、クラウド上で光量子コンピュータを運用するためのシステムの構築も行っています。
2. これまでの主な成果
課題推進者1のグループで研究されてきた時間領域多重の技術を利用することで、他の方法では現状不可能な大規模クラスター状態を生成しています。特に、これまで実装されたクラスター状態よりも効率的に計算リソースとして使用可能な構造のクラスター状態を生成しました。
これまでの研究により、実験室環境を大幅に改善・安定化することに成功したため、フリースペース系で系を構築できるようになりました。これは実験室環境の温度安定性が高まったためフリースペース系でも長期的安定性が見込めるようになったためです。さらにフリースペース系の方がモジュールを光ファイバーで連結していく方法よりも低損失であります。以上のことから、より質の高いクラスター状態の生成が可能になりました。
今年度までに、図1の通り実際に光量子コンピュータ初号機のクラウド公開システムを構築しました。当実機は、フリースペース系で100MHzのクロックで動作し、101量子モードを入力とするアナログ量子コンピュータとなります。この初号機は連続的な変数に対する線形演算をプログラマブルに実行でき、特に時間領域多重手法により、原理的には任意ステップの演算が可能です。また、クラウド公開に必要なシステムを理化学研究所内に構築し、さらに、クラウド上で実機を実行するためのフレームワーク、ユーザー認証システム、量子回路を実機のパラメータに変換するコンパイラ、ソフトウェア開発キット等を開発しました。これにより光量子コンピュータのクラウド公開システムの構築を達成することができました。

本光量子コンピュータでは、扱える測定の種類と精度が扱える量子操作の種類と精度に対応しています。現状のシステムでは決定論的に加減算・定数倍操作のみが可能です。任意の量子計算が可能な光量子コンピュータでは「掛け算」操作を行う必要があり、決定論的な非線形操作に相当する非線形測定が必要不可欠です。我々は図2の構成で基本的な非線形測定の実現に成功しています。この構成では、測定対象と補助量子光を重ね合わせ、その片方の出力をホモダイン測定します。その測定結果に対して非線形計算を行い、その結果に応じて、もう片方の光の位相を回転させてからホモダイン測定を行います。このシステムでポイントとなるのは高速なデジタル信号処理であり、我々はフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)にルックアップテーブルと呼ばれる計算表を用いることでこれを達成しました。この非線形操作を量子コンピュータに組み込み、「掛け算」可能な光量子コンピュータ構築に向けた研究を行っています。

3. 今後の展開
本光量子コンピュータに非線形操作の機能を実装します。これにより、光量子コンピュータが「掛け算」を実行できるようになります。この改良により、光量子コンピュータの応用範囲が格段に広がります。そして、最適化問題やニューラルネットワークといった、光量子コンピュータを使った応用研究を行っていきます。