成果概要

誤り耐性型大規模汎用光量子コンピュータの研究開発1. 時間領域多重汎用光量子コンピューティングに関する研究開発

2022年度までの進捗状況

1.概要

量子コンピュータの実用化に向けさまざまな物理系で研究が進んでいます。多くの物理系では、実用的な量子計算の実行に非常に複雑な量子プロセッサが必要な点が課題です。一方で、光量子コンピュータはコンパクトな量子プロセッサで実用的な量子計算を実行できます。このような量子プロセッサはすでに実証済みであるため、今後は量子ビットを生成する光源が主な開発要素になります。量子ビットの生成システムとして、これまでに量子任意波形発生器(Q-AWG)を提唱しました。Q-AWGは、任意の光量子状態を任意のパルス波形で出力する汎用量子光源です。Q-AWGは高い汎用性を持つことから、実用的な光量子コンピュータの基幹光源となるのはもちろん、実用化に至るまでに生じる多様な課題を解決することが可能です。Q-AWGはまさに「究極の量子光源」であり、実現すれば光量子コンピュータの開発は大きく加速するでしょう。

光量子コンピュータの概念図。量子プロセッサと量子任意波形発生器(Q-AWG)からなる。
光量子コンピュータの概念図。量子プロセッサと量子任意波形発生器(Q-AWG)からなる。

2.2022年度までの成果

当該年度には、目的に応じて量子光のパルス波形を自在に制御する新手法を開発し、Q-AWGの基礎技術を確立しました。さらに本手法により、光量子プロセッサの作動に必要な特殊なパルス波形を持つ量子ビットを生成しました。これまでは、任意のパルス波形を実現することや、量子光の損失を抑えつつパルス波形を制御することが困難でした。そこで当該年度では、非常に周波数広帯域な量子もつれ光を介して間接的にパルス波形を制御する新手法により、これらの課題を解決しました。広帯域量子もつれ光の生成には、前年度に開発した光パラメトリック増幅モジュールを利用しました。また、生成する量子ビットに強い量子性を与えるために、超伝導ナノワイヤ単一光子検出器を利用しました。これらのデバイスは光通信技術と深い関わりがあり、当該年度は異分野融合による量子技術開発の加速が顕著だったと言えます。

(A) 光パラメトリック増幅モジュール
(A) 光パラメトリック増幅モジュール
(B) 超伝導ナノワイヤ単一光子検出器
(B) 超伝導ナノワイヤ単一光子検出器

本手法で生成した量子ビットは、バランス型タイムビン波形と呼ばれる特殊なパルス波形を持ちます。この波形は光量子プロセッサの作動に必要とされながら、本手法以前は実現方法が知られていませんでした。今回の成果により量子プロセッサに量子ビットを入力することが可能になり、光量子計算のデモンストレーションを行う展望が開けました。さらにバランス型タイムビン波形は、両端に裾野を引かない特徴的な形状を持っています。これにより量子ビットの間隔を従来方式よりも狭くでき、量子プロセッサに大量の量子ビットを入力可能になります。現在利用している光パラメトリック増幅モジュールの潜在能力を最大限に活用すれば、最大で10億個もの量子ビットが入力できます。これは大規模化が課題とされる他の物理系を圧倒するスケールであり、量子コンピュータの実用化に向けたゲームチェンジャーとなる成果と言えます。

量子プロセッサの作動に必要かつ量子ビットの多重化に適したバランス型タイムビン波形の実現
量子プロセッサの作動に必要かつ量子ビットの多重化に適したバランス型タイムビン波形の実現

3.今後の展開

今後はQ-AWGと量子プロセッサを融合し、光量子コンピュータの実機開発やクラウド化などの実利用に向けた開発を進めます。それと同時にQ-AWGを高度化し、誤り耐性の高い量子ビットの生成を目指します。これら二つの方針により、誤り耐性型大規模汎用量子コンピュータの実現が着実に近づくでしょう。さらに、本研究のように光通信の優れた技術プラットフォームを積極的に活用することで、上記の技術開発はこれまでにない急激さをもって進展すると考えられます。