成果概要

誤り耐性型大規模汎用光量子コンピュータの研究開発[1] 時間領域多重汎用光量子コンピューティングに関する研究開発

2023年度までの進捗状況

1. 概要

量子コンピュータの実用化に向けさまざまな物理系で研究が進んでいます。多くの物理系では、実用的な量子計算の実行に非常に複雑な量子プロセッサが必要な点が課題です。一方で、光量子コンピュータはコンパクトな量子プロセッサで実用的な量子計算を実行できます。このような量子プロセッサはすでに実証済みであるため、今後は量子ビットを生成する光源が主な開発要素になります。量子計算を行う量子もつれとしてクラスター状態を用います。クラスター状態はスクイーズド光を用いて生成します。本プロジェクトでは、共振器構造を持たない導波路光パラメトリック増幅器(OPA)を開発してきており、広帯域スクイーズド光の生成が可能です。導波路光パラメトリック増幅器をファイバー光学系に組み込み、光強度損失を低減し、数THzの帯域で8dBを上回るスクイーズド光の生成が可能となっています。数THzの広帯域の側帯波に周波数間隔100 GHz程度の櫛状のスペクトルを持つLO光を約100個入れることは、クロック周波数40GHz、100コアのスーパー量子コンピュータとも言えるものです。これをクラウドコンピュータとして用いていこうとしています。
非ガウス操作のための技術として、光パラメトリック増幅用光導波路モジュール・ユニットとビームスプリッターにより量子もつれを生成し、量子もつれの一部で超伝導光子数識別器を用い所定の光子数を検出することにより、低近似魔法状態を生成し、Gottesman-Kitaev-Preskill(GKP)量子ビットの生成を試行しています。

2. これまでの主な成果

数100THzのキャリア周波数を持つ光量子情報処理システムは、情報の読み出しを行うホモダイン測定器によって帯域がわずか数100MHzに律速されてました。そこに5G通信技術を用いることにより数10GHz帯域のホモダイン測定器を実現いたしました。それでも効率が低く、強度損失に脆弱な量子光への応用は困難です。量子光に光位相敏感増幅を補助的に用いて、ロス耐性を向上させ、5Gホモダイン測定器を用いて70 GHz帯域までの量子もつれ状態の生成と検証を行ないました。また6 THzの光源、6 THzの位相敏感増幅器、66 GHzのホモダイン測定器で、生成レート0.9 MHzで波束幅が1ns以下の状態の生成を行いました。この生成レートは、用いた超伝導光子検出器のタイミングジッタが大きな律速であって、系の66GHzの帯域がなおも1GHzに制限されているためです。
超伝導ナノストリップ型光子検出器(SNSPD)は高い検出効率を有し、高速動作可能な光子検出器であり、この超伝導ナノストリップ型光子数識別器を使用し非ガウス型量子状態の生成に成功しました。超伝導検出器の性能による制約を取り除ければ、GHz帯、あるいはTHz帯域の状態生成はOPAによって実現できることがわかりました。
本手法を初めて量子トモグラフィに応用し、シュレディンガーの猫状態の生成を行いました。古典的な状態であるコヒーレント状態の重ね合わせ(シュレディンガーの猫状態)の近似状態が生成されたのです。さらにパルス光のスクイーズド真空場の時間-周波数モードの性質を理論的に解析し、低光学損失のパラメトリック増幅器、超伝導転移端センサの4光子測定、位相ロックシステムを用いて、世界初の4光子引き去りによる非ガウス型状態生成の実験に成功しました。生成された量子状態は1GHzの帯域を有しており、従来の非古典的量子状態生成の約100倍の広帯域化に成功しています。
誤り耐性型量子計算を実現する有望な手段は、光進行波中にGKP量子ビットを生成することです。光子数測定を利用して光GKP量子ビットの生成を世界で初めて実証した結果を図に示します。図中のピーク構造すなわちピークの数および鋭さがGKP状態の質を特徴づけるものです。同じ方法を反復することでピークの数が増えて、質の高いGKP状態を実現できると期待されます。

図 生成した誤り訂正のための電磁場の分布構造観測結果
図 生成した誤り訂正のための電磁場の分布構造観測結果

3. 今後の展開

平均光子数が少ないため荒い近似のGKP量子ビットの生成レートは数Hzであり、まだ非常に低いので実用化への課題となります。光子数測定器の量子性を効率よく利用し、GKP量子ビットの生成レートを100万倍以上改善することに取り組んでいます。