成果概要
誤り耐性型大規模汎用光量子コンピュータの研究開発[1] 時間領域多重汎用光量子コンピューティングに関する研究開発
2024年度までの進捗状況
1. 概要
量子コンピュータの実用化に向けさまざまな物理系で研究が進んでいます。多くの物理系では、実用的な量子計算の実行に非常に複雑な量子プロセッサが必要な点が課題です。一方で、光量子コンピュータはコンパクトな量子プロセッサで実用的な量子計算を実行できます。このような量子プロセッサはすでに実証済みであるため、今後は量子ビットを生成する光源が主な開発要素になります。量子計算を行う量子もつれとしてクラスター状態を用います。クラスター状態はスクイーズド光を用いて生成します。本プロジェクトでは、共振器構造を持たない導波路光パラメトリック増幅器(OPA)を開発することで、広帯域スクイーズド光の発生を可能として来ました。導波路光パラメトリック増幅器をファイバー光学系に組み込み、光強度減衰を抑制し、数THzの帯域で量子雑音の低減が8dBを上回るスクイーズド光の発生が可能となっています。数THzの広帯域の側帯波に周波数間隔100 GHz程度の櫛状のスペクトルを持つ局発光を約100個入れることは、クロック周波数40GHz、100コアのスーパー量子コンピュータとも言えるものです。これをクラウドコンピュータとして用いようとしています。
光パラメトリック増幅用光導波路モジュール・ユニットとビームスプリッターにより量子もつれを生成し、量子もつれの一部で超伝導光子数識別器を用い所定の光子数を検出することにより、非ガウス操作が可能となり、低近似魔法状態を発生し、Gottesman-Kitaev-Preskill (GKP)量子ビットの生成を試行しています。
こういった光量子ビットの単位時間あたりの生成量すなわち生成レートを高め、低近似だった魔法状態の近似を高めるため非古典性の強い量子状態も高いレートで作り出す研究を遂行しています。
2. これまでの主な成果
本研究プロジェクト内で共同開発した光パラメトリック増幅器(OPA)を用いて、60GHzという世界最高速度の光量子もつれの生成を実現しました。量子計算や量子通信などリアルタイムな情報処理を伴う量子技術には不可欠な光量子もつれのリアルタイム量子測定も含めて、従来の1000倍以上の高レートで実現しています。
ここで用いたOPAは高精度安定作製技術が重要な役割を果たしていて、複数台の高速測定システムの位相同期手法を新たに開発し、2者間の量子もつれ状態の高速リアルタイム測定に世界で初めて応用することができたのです。
さらにこの技術を活かして、シュレディンガーの猫状態と呼ばれる非古典性が強い量子状態を複数用いたGKP量子ビットの生成研究をしています。従来の光学系ではシュレディンガーの猫状態の生成レートはkHzオーダーでしたので、この状態を複数用いるGKP量子ビットの生成レートはさらに低く、量子計算速度を制限していました。


そこで本研究ではホモダイン測定器の前にOPAを量子的な位相敏感増幅器として用いて、測定系を100MHzから70GHzに高速化(700倍)し、高速な光量子状態の生成を実現しました。このOPAを補助的に用いた高速ホモダイン測定技術は、本研究で初めて非古典的な量子状態生成へと応用されたものです。図1に生成したシュレディンガーの猫状態のWigner関数を図2にその波束形状を示します。この状態の生成レートは約1MHzに達しており、つまり従来のシュレディンガーの猫状態生成と比べて1000倍程度増加しています。
3. 今後の展開
GKP量子ビットの生成レートが高められることで、誤り耐性型光量子コンピュータの実用化を期待できるようになり、さらに電気信号への変換を行わない「全光学式」光量子コンピュータ実現へのアプローチとなることを期待できます。