成果概要

誤り耐性型大規模汎用光量子コンピュータの研究開発3. 導波路光パラメトリック増幅器および光量子導波路回路に関する研究開発

2022年度までの進捗状況

1.概要

本研究開発テーマは、量子テレポーテーションチップの実現を目指します。これにより、光量子状態の質を高め、光量子情報処理を安定化し、目標6並びに本プロジェクトの目標である誤り耐性型大規模汎用光量子コンピュータの実現に貢献します。目標達成に向けては、光を操作するためのデバイス特性の向上が重要です。本テーマでは、光通信向けに極限まで性能を向上させてきた導波路型PPLN(周期的分極反転ニオブ酸リチウム)技術とPLC(石英系平面波回路)技術を光量子情報処理に適用して目標達成を目指しています(図1)。これらの技術をもとにスクイージングレベル10dBのスクイーズド光の生成や忠実度8.3の光量子テレポーテーション回路の実現を目指しています。

図1光量子情報処理に用いる光通信向けデバイス技術
図1光量子情報処理に用いる光通信向けデバイス技術

2.2022年度までの成果

  • ①PPLN導波路型スクイザで10THz級の透過帯域と8dB超のスクイージングレベルを達成
  • ②損失0.5dBのPLC型ユニバーサルスクイザを作製
  • ③PPLN導波路位相感応増幅器で帯域43GHzのリアルタイム測定を実証

各成果の詳細は以下の通り:①はPPLN導波路型スクイザの低損失化により導波中の変換効率を極限まで高め、共振器構造を不要にして周波数依存性を低減し光の伝送帯域と同等の10THz級の帯域を世界で初めて実現し、さらに、8dBを超えるスクイージングレベルも達成しました(図2)。②は量子テレポーテーション回路にスケールアップ可能なPLC型ユニバーサルスクイザ回路で損失を徹底的に低減し0.5dB程度に損失を抑えられることを確認しました(図3)。③では射影測定の基本となる直交位相振幅検出において、帯域制限やノイズ源となる後段の電気のアンプの代わりに、PPLN導波路の位相感応増幅器を前置増幅器として用いることで43GHz帯域で量子状態の計測が可能であることを世界に先駆けて示しました(図4)。

図2 PPLN導波路モジュール特性
図2 PPLN導波路モジュール特性

図3 PLCによるユニバーサル回路と透過特性
図3 PLCによるユニバーサル回路と透過特性

図4 PPLN導波路前置増幅直交位相振幅測定系
図4 PPLN導波路前置増幅直交位相振幅測定系

3.今後の展開

2022年度までの成果をさらに発展させ、目標とするデバイス特性の実現を目指します。一方、可能な限り早期に量子コンピューティングを実証するという観点から、現時点ではPLCを用いた集積回路による量子コンピューティングの実証は困難であると判断して、PPLN導波路モジュールを空間光学系や光ファイバ系と組み合わせて、プロジェクト内の他の研究開発テーマと連携して光量子コンピュータの実証系の実現に貢献していきます。

参考文献)
1) T. Kashiwazaki, et al., Appl. Phys. Lett. 119, 251104 (2021)
2) T. Kashiwazaki, et al., Appl. Phys. Lett. 122, 234003 (2023)
3) A. Inoue, et al., Appl. Phys. Lett. 122, 104001 (2023).