成果概要

誤り耐性型大規模汎用光量子コンピュータの研究開発2. 超伝導光子数識別器に関する研究開発

2022年度までの進捗状況

1.概要

GKP量子ビットの生成のためには、高次の非線形光学過程の実現が必要となります。本プロジェクトでは、超伝導光子数識別器を用いた測定誘起型でこれを実現します。具体的には、スクイーズド光とビームスプリッターにより量子もつれを生成し、量子もつれの一部で超伝導光子数識別器を用いて所定の光子数を検出することで、GKP量子ビットを生成します。このGKP量子ビットが生成されるのは、所定の光子数が検出された瞬間なので、これを任意のタイミングで使うためには、量子メモリーも必要となります。本研究開発課題は、このための光子数識別器の開発を行っており、光量子コンピュータのクロック周波数1GHz相当の動作帯域を目指して高速で光子数情報を取得可能な検出器の開発を行っています。

通信波長帯の単一光子計測が可能かつ、多数の光子数を識別可能なダイナミックレンジの広い光センサとして、超伝導転移端センサ(Transition Edge Sensor: TES)があります。TESは、図に示すように、超伝導体の薄膜に電流を流しつつ適切に温度制御することにより、常伝導状態から超伝導状態に移行する途中の領域である超伝導転移端に保持し、この状態で近赤外光子が薄膜に吸収された際に生じる温度上昇を電流変化として読み出すことで、光子入射により吸収されたエネルギーに比例した信号を得るものです。本研究開発課題では、光量子コンピュータに対応したTESの高速動作を実現するために、電流変化をもたらす原因となる温度変化がセンサ全体で瞬時に生じるようにセンサのサイズを極小化したデバイスを製作します。センサのサイズを小さくすると同時に熱容量も小さくなるため、温度上昇も大きくなり、S/N比の向上と信号の高速化と光子数の同定にも寄与します。

2.2022年度までの成果

下左図に、本研究において製作した8μm角のTESの写真を示します。TESはシリコン基板上に形成し、光学部品のサイズに合わせた外形になるように加工し、セルフアラインメントで光ファイバとの位置合わせができるようにします。このようにして製作したTESの光入射による応答は立ち上がり時間16.2 nsを示し、信号帯域として、20MHz以上が得られることを確認しました。

TESは、原理的に吸収したエネルギーに比例する大きさの電流変化を生じます。単一の波長の光子を計数する場合は、光子数に応じた離散的なエネルギーが入力されるために、信号強度を横軸にとったヒストグラムを作成すると、入射した光子数に応じたピークが生じます。下図はこれを示したものですが、多数の近赤外光子を弁別して計測できていることがわかります。

3.今後の展開

シミュレーション計算においては、立ち上がり時間300ps、信号帯域1.2GHzが予想されており、素子の微細化をさらに進める予定です。フォトリソグラフィによるセンサ製作では素子の微細化が難しいため、Focused Ion Beam (FIB)を用いたセンサ形状の加工を進めています。FIBでは、微細な構造を任意に形成することが可能であるため、センサ設計の自由度が大きくなり、アレイ構造などの複雑な構造をもつ素子製作が可能となり、高速化に資することが期待されます。また、信号読み出しに関しては、現状の超伝導量子干渉素子(SQUID)による読み出し回路では信号帯域の制約があるため、より高速な回路の開発を行っています。