成果概要
身体的共創を生み出すサイバネティック・アバター技術と社会基盤の開発[1] 身体性と社会性の認知拡張技術(認知拡張研究グループ)
2023年度までの進捗状況
1.概要

状況や環境に応じて
自分の可能性を
自在に引き出せる身体
身体とこころ、身体と社会的能力の相互作用を解き明かす研究に取り組み、生身とは異なる身体特性を持ったサイバネティック・アバター(CA)の使用によって利用者が自らの潜在能力を本来以上に発揮したり、多様な身体的経験や価値観を得て他者への共感や協調といった社会性を高めたりすることができる条件を明らかにします。この知見に基づいて、適切な身体特性を持ったCAを活用して利用者が状況や環境に応じて自分の望む能力を自在に発揮でき、誰もが社会の中で自分らしいあり方で活躍できることを支援する認知拡張技術を実現し、目標1が目指す「身体の制約からの解放」に貢献します。

社会性拡張のための身体性制御技術の開発
鳴海 拓志(東京大学情報理工学系研究科)

身体性・社会性変容の認知脳科学的機序の解明
嶋田 総太郎(明治大学)

身体性変容を具現化する実世界アバター構成技術の開発
新山 龍馬(明治大学)
2.これまでの主な成果
- (1) 多角的な観点からCAの身体特性が利用者の認知能力や社会性に与える影響を解明して認知拡張技術を開発
- (2) 身につけられる柔らかいウェアラブルCAロボットを開発
- (3) 教育、ダイバーシティ研修、障害者遠隔就労等の場面でCAによる認知拡張技術の実践的な社会活用を展開し作業効率やwell-beingの向上に繋がることを確認
(1)では、CAの身体特性が利用者の認知能力や社会性に与える影響を様々な観点から検証し、適切な身体特性を持つCAを使いわけることで、能力獲得の支援や記憶力の増強、ひらめきの促進等の認知拡張を実現する技術を開発しました。さらに、CAの使用が利用者の性格特性を変えることも明らかにするなど(図1-1)、使用に伴う影響を明らかにしています。また、複数人でCAを使用する際に、自他のCAが異なる特性を持つよう設定した上で協調や対比を促すと、上述のような認知拡張効果をさらに強められ(図1-2)、個人だけでなく集団としての生産性向上にも繋がることを確認しています。
(2)では、認知拡張効果をいつでもどこでも利用可能にするため、柔軟素材で構成されたソフトロボットを活用し、衣服のように軽量で身につけやすく、必要なときだけ膨らんで使用できるウェアラブルCAロボットを開発し、展示やワークショップで収集した意見から受容性の高いデザインを示しました(図2)。
(3)では、認知拡張技術を社会活用し、その効果を確認しました。例えば、一定時間でCAの外見が変わるオンライン講義では記憶の手がかりが増えて受講者の成績が向上することや(図3-1)、認知拡張効果を使って子育てにまつわるアンコンシャスバイアスの解消を図るワークショップを設計し、実際のダイバーシティ研修での活用を通じて誰もが働きやすい職場作りを支援できること(図3-2)を実証しました。さらに、外出困難者が自分らしさを表現できるCAで接客に従事できる拡張アバター接客をサービスインし、働きやすさだけでなく、well-beingや将来への希望を高められることを明らかにしました(図3-3)。






3.今後の展開
社会の様々な場面でCAによる認知拡張技術が活用可能になるように、引き続きCAによって拡張可能な認知能力の幅を増やし、それらを活用してwell-beingを高めるための条件を明らかにしていきます。同時に、CAの継続的な利用が、利用者にどの程度の身体的・認知的負荷を与えているのかを身体や脳への影響の観点から詳しく明らかにしたり、利用者の生きがいやアイデンティティを含む長期的な観点の自己変容にどのような影響を与えているのかを明らかにしたりすることで、社会の中で継続的に使いやすく、より良く生きることに繋がる認知拡張技術を開発していきます。