成果概要

身体的共創を生み出すサイバネティック・アバター技術と社会基盤の開発1. 身体性と社会性の認知拡張技術 (認知拡張研究グループ)

2022年度までの進捗状況

1.概要

状況や環境に応じて
自分の可能性を
自在に引き出せる身体

身体とこころ、身体と社会的能力の相互作用を解き明かす研究に取り組み、生身とは異なる身体特性を持ったサイバネティック・アバター(CA)の使用によって利用者が自らの潜在能力を本来以上に発揮したり、多様な身体的経験や価値観を得て他者への共感や協調といった社会性を高めたりすることができる条件を明らかにします。この知見に基づいて、適切な身体特性を持ったCAを活用して利用者が状況や環境に応じて自分の望む能力を自在に発揮でき、誰もが社会の中で自分らしいあり方で活躍できることを支援する認知拡張技術を実現し、目標1が目指す「身体の制約からの解放」に貢献します。

鳴海 拓志(東京大学情報理工学系研究科)

社会性拡張のための身体性制御技術の開発
鳴海 拓志(東京大学情報理工学系研究科)

嶋田 総太郎(明治大学)

身体性・社会性変容の認知脳科学的機序の解明
嶋田 総太郎(明治大学)

新山 龍馬(明治大学)

身体性変容を具現化する実世界アバター構成技術の開発
新山 龍馬(明治大学)

2.2022年度までの成果

  • (1) 多角的な観点からCAの身体特性が利用者の認知能力や社会性に与える影響を解明して認知拡張技術を開発
  • (2) 身につけられる柔らかいウェアラブルCAロボットを開発
  • (3) 教育、ダイバーシティ研修、障害者遠隔就労等の場面でCAによる認知拡張技術の実践的な社会活用を展開

(1)では、CAの身体特性が利用者の認知能力や社会性に与える影響を様々な観点から検証し、適切な身体特性を持ったCAを使いわけることで、新しい身体能力獲得の支援や、記憶力の増強、ひらめきの促進等の認知拡張を実現する技術を開発しました。また、自身のCAと他者のCAの持つ身体特性を対比させることで自己認識の変化が強化され、上述のような認知拡張効果がより増強されることを世界で初めて報告しています(図1-1)。さらに、医者の外見をしたCAの使用前後で性格特性の一種である開放性が向上することを示す等、CAの使用が性格特性を変えることも明らかにしています(図1-2)。

(2)では、認知拡張効果を実世界でも柔軟に利用可能にするため、柔らかい素材で構成されたロボットを作るソフトロボット技術を活用し、軽量で身につけやすく、必要なときだけ膨らんで使用できるウェアラブルCAロボットを開発しました(図2)。

(3)では、認知拡張技術を実践的に社会展開してきました。例えば、大学で講師がCAを使うオンライン講義を実施し、CAの外見を変えながら講義すると記憶の手がかりが増えて受講者の成績が向上することを示しました(図3-1)。また、認知拡張効果を使って子育てにまつわるアンコンシャスバイアスの解消を図るワークショップを設計し、複数の会社でダイバーシティ研修として実践し、誰もが働きやすい職場作りを支援できることを実証しました(図3-2)。さらに、外出困難者が自分らしさを表現できるCAで接客に従事できる拡張アバター接客をサービスインし、認知拡張効果によって働きやすさだけでなく、就労意欲やwell-beingも高まることを明らかにしました(図3-3)。

(1-1) 他者のアバターとの対比が認知拡張効果を増幅させる
(1-1) 他者のアバターとの対比が認知拡張効果を増幅させる
(1-2) 医者アバターの使用が開放性を向上させる
(1-2) 医者アバターの使用が開放性を向上させる
(2) 身につけられ必要なときだ現れるウェアラブルCA
(2) 身につけられ必要なときだ現れるウェアラブルCA
(3-1) 教師が外見を変えながら講義すると学習効果が向上
(3-1) 教師が外見を変えながら講義すると学習効果が向上
(3-2) アンコンシャスバイアスワークショップの展開
(3-2) アンコンシャスバイアスワークショップの展開
(3-3) CAによる自己表現を取り入れた拡張アバター接客
(3-3) CAによる自己表現を取り入れた拡張アバター接客

3.今後の展開

(3)では、社会の様々な場面でCAによる認知拡張技術を使用した場合に、利用者が高い能力を発揮したり、他者理解を深めたり、well-beingを高められることがわかってきた一方で、長期的にCAを使用した場合に認知拡張効果が強化・減衰するのか、どの程度利用者自身のものとして定着するのかは明らかになっていません。また、CAの継続的な利用が利用者にどの程度の身体的・認知的負荷を与えているのかについても詳細は明らかになっていません。今後は長期的な効果や、身体や脳への影響をより詳しく明らかにすることで、社会の中で継続的に使いやすい認知拡張技術を開発していきます。