光と電波の境界領域であるテラヘルツ電磁波(0.1-10THz)が注目を集めています。この周波数帯では、時間領域分光という手法が用いられています。テラヘルツ電磁波パルスの電場の時間応答を直接測定し、そのフーリエ変換からスペクトル情報を求めるというもので、強度のみしか検出できないこれまでの赤外分光法と比べて、位相情報も得られるのが特徴です。我々は、電波領域でお馴染みのアンテナを使って、さらに周波数の高い赤外光の電場を直接検出する手法の開発を進めています。パルス電磁波を用いた測定は、NMRでは既に標準的になっていますが、ラジオ波と違って赤外光電場を直接検出することは不可能で、超高速レーザーでアンテナ回路の開閉を行う(光伝導アンテナと呼ばれる素子を使います)ことが必要となります。いわばストロボ写真を撮るように、電場の瞬間値を記録していく方法です。図1は時間幅10fsの超短パルスレーザーを用いた最新の実験結果で、図中に示す通り、12fsの幅をもつ超高周波成分が含まれています。実際、そのフーリエ変換を行うと、図2のように100THzの超高周波成分まで検出することに成功していることが分かります。これはアンテナを用いた電磁波の電場検出測定としては、最も周波数の高い実験です。ここでは、広帯域赤外光パルスを発生させるために、厚さ30のGaSe結晶で光整流と呼ばれる非線形光学過程を生じさせていますが、この結晶の吸収が5-10THzの範囲に存在するため、図2で低周波領域の信号が弱くなっています。他の光源を使うことにより、少なくとも0.1-100THzの3桁にも及ぶ周波数範囲にここで使用した光伝導アンテナの感度があることを確かめました。
上で使用したのは、低温成長GaAsという基板の上に、長さ30のダイポール型アンテナを作製した光伝導アンテナでした。我々は、さらに微細加工技術を使ってより小さなアンテナを作製したり、より時間応答の速い基板材料を用いることで、100THzよりさらに高周波の赤外光、究極的には可視光の電場の検出を目指しています。小さなアンテナを作ることは同時に、光の回折限界を超えた超高空間分解能を実現することにも繋がります。この新規技術は、時間幅10fsを切る超短パルスレーザーを用いますので、超高時間分解能をもつ測定が可能な上、超高空間分解能まで有し、赤外から可視の広い範囲に感度をもつ従来にない検出法として分光技術に画期的な発展をもたらす他、情報通信技術などへの広い応用が期待されます。
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