ラジオ波(RF)や光等電磁波の操作技術は多様な科学技術の基礎として現代社会に大きく寄与しています。 これらの技術, 例えば携帯電話や光通信等, は位相がより良く定義された電磁波をより高い周波数で実現することによってその利用価値を格段に高め, 社会のイノベーションの起爆剤となってきました。 従ってより周波数の高い真空紫外光領域においてもレーザー同等の低位相雑音の発振源を用意することが数十年来期待されていますが, 真空紫外光は光学材料を通過せず真空中のみを伝播するためレーザー共振器を用意することは非常に困難であり, レーザーと同程度に低雑音な発振源はこれまでありませんでした。 しかし最近開発されつつある外部受動キャビティーによるパルスレーザーの高強度化及びその高調波発生技術は , Hz オーダーの位相コヒーレンスを持つ真空紫外光への道を開きつつあります。ここでは近赤外のレーザーパルスを能動素子を持たないキャビティー内に蓄積して強度を上げてその高調波として真空紫外光を得るため , 基本波パルスの低い位相雑音がそのまま反映されるのではないかと期待されています。
またこれは一方で図に示したように パルスレーザー技術の大きな二分野 ・周波数コムによって高い周波数分解能や厳密な光位相制御を目指してきた分野 ・短波長もしくは短パルス巾を得るために光強度を上げて高調波発生を追求してきた分野
が統合されつつあることを象徴しています。 本研究ではこのような低位相雑音の真空紫外光源を開発し , 一方で研究者がこれまで培ってきた極低温原子の可視域における精密分光の経験とを組み合わせることによって、真空紫外域における中性原子の高エネルギー状態 ( 準安定状態・リドベルグ状態等 ) の高分解能分光を目指します 。 またこれらの状態を基底状態から真空紫外光によってコヒーレントに生成して将来の紫外域での量子操作技術の可能性を探求します 。 これは図に示したようにこれまで連続波レーザーとパルスレーザーで比較的独立に発展してきた極限レーザー技術を結集させて光科学の新たなフロンティアを開拓するものであり , その完全な統合への先駆けとなる可能性を秘めています。 |
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図 これまでの極限レーザー技術発展の模式図
(A)光周波数コムの発明及び(B)受動キャビティーによる高調波発生は従来比較的独立して発展してきた極限レーザー技術の統合を示唆しており, 本研究はその先の統合を目指します。 |
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