[細胞内ダイナミクス]細胞内現象の時空間ダイナミクス

戦略目標

細胞内構成因子の動態と機能

研究総括

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研究総括:遠藤 斗志也(京都産業大学 生命科学部 教授)

概要

 本研究領域は、超分子複合体からオルガネラ、非膜オルガネラに至る細胞内の高次構造体の微小空間でのダイナミクスを観察・計測し、その機能相関を解析することにより細胞の統合的理解を目指します。
近年、クライオ電子顕微鏡や超解像顕微鏡、高速原子間力顕微鏡等の観察・計測技術の発展により、細胞内における微細構造や動態の理解が大きく進展しました。これにより、巨大膜タンパク質複合体等の構造情報が急増するとともに、生物学的相分離やオルガネラ間の相互作用等の新しい現象が見いだされ、従来の細胞の概念が見直されつつあります。
一方で、細胞の統合的理解のためには、上記のようなオルガネラ、非膜オルガネラレベルの細胞内高次構造体に関する精度の高い知見を、分子レベルと細胞レベルの双方向からのアプローチにより獲得し、それらを統合していくことが求められます。
 以上から、本研究領域では、上記課題を克服する細胞内現象の観察や計測、制御等の技術の開発と、それらを活用した細胞内高次構造体の機能解明を行い、それに基づく新たな生命現象の理解を目指します。

 本研究領域は、文部科学省の選定した戦略目標「細胞内構成因子の動態と機能」のもとに、2020年度に発足しました。

募集・選考・領域運営にあたっての研究総括の方針

1.背景

 ライフサイエンス分野では、これまで先進的技術に基づく多様なアプローチにより生命現象が解明されてきました。例えば、分子生物学の分野では、核酸やタンパク質を自在に設計、合成、制御することでそれらの分子の機能と作動機構が明らかになりました。また、構造生物学の分野では、様々な装置開発と技術革新、計算科学の支援によって多様な生体高分子の精密構造が決定され動態の理解が進みました。さらに、細胞生物学の分野では、様々な顕微技術の進展により細胞内構造の動態をベースとして、細胞内現象の新たな理解へとつながる生物学が発展しています。
 近年、これらに加え、分子と細胞の中間階層に位置づけられる構造体や区画、それらが連携して働くネットワークという視点から、細胞の機能と恒常性を統合的に理解しようとする研究開発の萌芽が認められます。例えば、生きた細胞内でタンパク質や核酸、それらの複合体のふるまい、高次構造体との相互作用を直接見ようという研究が進みつつあります。また、そのような分子を見るための解像度と情報量を高めるアプローチとは別に、細胞という場における不均一性や構成成分が生み出すメゾスケールの状態が生命現象に与えるインパクトを解明しようという研究も進みつつあります。例えば、細胞内で生物学的相分離(液-液相分離)が生み出すドロプレット(非膜オルガネラ)の理解が急速に進み、従来解釈が困難とされた多彩な生命機能を示すことが分かってきています。このように細胞内の多様な階層における高次構造体の構造、動態、機能を解明することは、分子から細胞という生命システムを統合的に理解するために極めて重要と考えられます。

2.期待される達成目標と具体的な研究開発課題例

 本研究領域では、動物、植物、微生物など全ての生物種について、細胞内の高次構造体を対象とした、(1)観察・計測技術、(2)操作技術、(3)モデル化技術、およびそれらを用いた(4)細胞システムの理解に資する研究提案を募集します。

(1)細胞内の高次構造体の構造・機能を理解するための観察、計測等の技術開発
 近年、細胞内現象の観察技術の進展は目覚ましく、例えば、顕微技術では従来実現できなかった高い空間分解能の解析が可能になりつつあります。しかし一方で、スナップショットでしか観察ができない、形態や動態情報を得るためにプローブが障害になる、十分な定量化ができないなど、得られる情報には多くの限界と克服すべき課題があります。そこで、本課題では、細胞内の分子やその複合体、オルガネラなどの形態、局在、動態、そして相互作用等を計測、定量化し、機能を予測するような革新的な技術開発を推進します。
以下に具体的な研究例を示します。これらはあくまでも例であり、これら以外の新技術の積極的な提案を期待します。
ア 細胞内の超分子複合体の構造や動態を解析する各種インセル構造解析技術の開発
イ クライオ電子線トモグラフィーで細胞内分子の位置情報を取得し、精密な細胞内構造情報を取得する技術の開発
ウ 非膜オルガネラ等のやわらかい構造体を、人為的摂動を最小限に抑えて捉える計測技術
エ 構造・動態情報の取得において干渉のない超解像顕微鏡用プローブの開発
オ 超分子複合体からオルガネラレベルの構造体の動態を高空間分解能、高時間分解能で捉える高速AFMやそれに替わる新しい観察技術の開発
カ 顕微観察で取得される画像情報を大量かつ高速に処理できる解析技術の開発

(2)細胞内の高次構造体の構造、機能、状態を操作、制御するための技術開発
 分子細胞生物学の分野では、遺伝子工学に基づき機能分子の同定や相互作用の解析などが進められてきました。一方で、クリックケミストリーや合成化合物、光技術などを活用して分子や細胞に摂動を与え、その機能を解析することも、細胞システムを理解するための重要なアプローチです。このため本課題では、細胞内の高次構造体等に摂動を与えるための化学や工学、光科学の技術やそれらに基づく細胞の操作・制御技術などに関する研究開発を推進します。
 以下に具体的な研究例を示します。これらはあくまでも例であり、これら以外の新技術の積極的な提案を期待します。
ア 細胞内分子やオルガネラ等に対して摂動を加える技術の開発
イ 細胞内のタンパク質複合体等を標的とした新規化合物の創成と細胞機能の制御技術の開発
ウ 非膜オルガネラの操作により疾患予防や治療法、ドラッグデリバリー等に応用できる技術の開発

(3)非平衡や複雑系の細胞内環境に共通する原理の解明
 不均一な細胞という場で起こる現象を数理学や物理学の視点からモデル化することができれば、細胞内現象(究極的には細胞そのもの)をシミュレーションすることが可能になります。また、生命システムのモデルに基づき、システムをデザインして人工合成により組み立てたり書き換えたりすることができれば、合成生物学的手法も細胞内の構造体レベルの現象を理解するために有力なアプローチとなり得ます。こうした研究の推進においては、計測技術で得られた情報を統合したりモデル化したりするために情報科学や数理科学、物理学との連携が求められます。本課題では、このように異分野融合による細胞内現象のモデル構築をめざした研究を推進します。
 以下に具体的な研究例を示します。これらはあくまでも例であり、これら以外の新技術の積極的な提案を期待します。
ア ソフトマター物理学による細胞内の高次構造体や不均一なメゾスケール反応場のモデル化技術の開発
イ 細胞内分子や構造体の構造・機能情報を集積し解析するための機械学習技術の開発
ウ 分子ダイナミクス計算を用いた高次の細胞内現象のシミュレーション技術の開発

(4)細胞内の高次構造体等の構造・機能解明による細胞システムの理解
 本課題では、細胞内の超分子複合体、オルガネラ、非膜オルガネラなどの高次構造体のダイナミクスとその機能相関にする研究開発を推進します。
 以下に具体的な研究開発例を示します。これらはあくまでも例であり、これら以外の新技術の積極的な提案を期待します。
ア 高次構造体がつくる細胞内ネットワークの実体と構造機能の分子レベルでの解明
イ 高次構造体の物質移動、情報伝達の実態、調節、生理的意義の解明
ウ 高次構造体の形成メカニズムと細胞内現象への関与の解明
エ 高次構造体がつくる構造機能ネットワークの恒常性維持機構とその破綻を起因とする疾患メカニズムの解明

3.提案に際してのチーム構成

 CRESTはチーム型研究ですので、技術開発を取り入れたり、先端技術を活用した機能解明研究、細胞内高次構造体の機能解明を意識した技術開発やモデル構築をめざした研究を推奨します。さらには、機能解明グループ、技術開発グループ、モデル化グループなどが連携して相乗効果を生み出すような体制のチーム研究も推奨します。このため、上記の4つの課題のうち、原則(4)を基軸として、(1)~(3)のいずれかの成果を積極的に応用する研究や、(1)~(3)のいずれかの研究開発を触発するような新規な視点をもった研究開発をご提案ください。
 ただし、(1)から(3)の技術開発単独であっても、独創的かつ汎用性が高く、実現した際に(4)をはじめとする領域内の他の研究開発に大きな貢献が期待される研究テーマはこの限りではありません。

4.その他の留意点

 本研究領域の応募にあたっては、「採択3年後・5年後の達成目標」、「終了後の成果の波及効果」について明確に示してください。研究費は総額3億円(間接経費を除く)を上限としますが、年度ごとに見直しますので、研究進捗に応じた増減があることを予めご了承ください。また本研究領域では、異分野や若手研究者の参画を歓迎します。このため、総額1.5億円程度の小規模課題もしくは1チームのみでの実施による研究開発提案なども歓迎します。

5.他の研究領域との連携・協働について

 領域運営においては、CREST「多細胞間での時空間的相互作用の理解を目指した定量的解析基盤の創出」、さきがけ「多細胞システムにおける細胞間相互作用とそのダイナミクス」、および、さきがけ「細胞の動的高次構造体」研究領域との連携推進を図り、必要に応じて領域会議やワークショップ等の開催を共同で行います。また、AMED-CREST/PRIME「プロテオスタシスの理解と革新的医療の創出」との連携や関連する学会や研究機関等との連携を促進し、シンポジウム等を随時開催し、新たな研究展開を積極的に図ります。

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