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- 樽茶多体相関場プロジェクト
総括責任者 樽茶 清悟
(東京大学 大学院理学研究科 教授)
研究期間:1999年10月~2004年9月
電子を微小空間に入れると「電荷をもつ量子」としての姿が現れ、そこでは1個単位で電子状態を識別・操作することができます。プロジェクトでは、半導体の微小構造を作り、電子の量子力学的性質、特に低次元系特有の相関現象、外界の粒子(原子核、フォノンなど)との相互作用、量子計算の物理を探究しました。
研究では、原子に類似の単一量子ドット(人工原子),それを複数個結合した人工分子を作り、電子数を零から順に増やした時の電気伝導の変化を調べることによって、人工原子におけるフント則の一般性、人工分子におけるパウリ効果、分子的電子状態の存在などを検証しました。また、電子スピン状態を厳密に制御することにより、数々の多様な近藤効果を発見し、人工原子の近藤物理の世界を拓きました。さらに、スピン交換結合制御や単一電子スピンの読み出し実験に成功し、スピン量子計算実現へ道を開きました。
電子数、磁場の関数として、人工原子中の2電子スピン状態(1重項と3重項、及び両者の縮退)を自在に制御することに成功した。これにより、高スピン状態に作用するフント第1則の一般性を実証した。また、その要因として、クーロン直接項と交換項の寄与を解き明かした。
非対称2重ドットのスピン3重項状態を経由する単一電子トンネル電流が抑制される現象を発見した。これにより、伝導におけるパウリ効果を始めて実証した。この素子は量子力学的な単一電子整流器である。他に、非対称3重ドットを使って、古典的な単一電子整流器が実現できることを提案した。
人工原子の電子スピン状態、外部電極とのトンネル結合を厳密に制御することによりスピン1重項-3重項縮退による近藤効果増強、ユニタリ極限の近藤効果、非平衡系の近藤効果など、数々の新しいタイプの近藤効果を発見した。これにより、人工原子の近藤物理の研究分野を開拓した。
量子ドット中の単一電子スピンのゼーマン制御、及びゼーマン分離エネルギーの差を利用した単一電子スピンの判別(スピンの上向きと下向き)に始めて成功した。これにより、電子スピン量子計算の課題とされていた「結果の読み出し」の問題を解決した。
新しいトンネル結合2重ドットを開発し、電子軌道の混成に依存した結合度の変化、ドット間の対称-非対称性に合わせた電子の非局在-局在の変化を観測した。これにより、人工分子の分子的性質を実証することができた。この結果は、また、量子計算への応用の有用性を裏付ける。
自己形成ドットを内包する単一電子トランジスタを開発した。これを用いて個々のドットの単一電子トンネル分光を行ない、強い量子閉じ込めや大きい帯電エネルギー、また、電子状態の明瞭な殻構造などの特徴を抽出した。これにより、単一電子-光子変換素子や量子ビットへの応用の指針を得た。
評価・追跡調査