- JST トップ
- /
- 戦略的創造研究推進事業
- /
- ERATO
- /
- 研究領域の紹介/
- 終了領域/
- 十倉スピン超構造プロジェクト
総括責任者 十倉 好紀
(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
研究期間:2001年10月~2006年9月
固体中で強く相互作用する電子集団は、波動関数の強い重なりを保ちつつも、原子サイトまわりになかば局在して、スピンや軌道のナノメートル周期の秩序構造を示し、これらは、しばしば、量子論的な興味深い性質を現出する。
プロジェクトでは、このようなスピンおよび軌道超構造体の示す特異な電気磁気応答の研究に、理論、物質、物性開拓の統合的な観点から取り組んだ。その結果、互いに傾いたスピン集団が示すカイラリティに起因する巨大な電気磁気効果や異常磁気電流効果、スピンと分極の組み合わせとしてのトロイダルモーメントが誘起する特異な電磁波応答といった新現象・物性を発現させることに成功した。さらに、遷移金属酸化物の超格子作製技術による興味深い電磁応答を示すスピン超構造体を設計・開発する一方、電子線、放射光X線、中性子散乱といったさまざまな手法を用いた機能性スピン超構造の計測にも成功した。
ディスオーダーによるランダムポテンシャルの効果がCMRマンガン酸化物の電子相図における2重臨界点の性質を劇的に変え、巨大磁気抵抗におけるディスオーダーが重要な役割を果たしていることを明らかにした。
ペロブスカイト型RVO3における磁気・軌道状態相図の全貌を明らかにし、擬一次元的な軌道鎖の振る舞いを描写する擬スピノンが、実験的に観測された2-オービトン励起を生み出す元となっていることを明らかにした。
2次元的なMn-Oネットワークを持つ単一層状ペロブスカイトマンガン酸化物(ホール濃度x=0.5)における電子相図の全貌を明らかにし、スピン-電荷―軌道秩序に対する乱れの効果を明らかにした
GaFeO3などの分極性磁性体がトロイダルモーメントを有する結果、吸収方向二色性、方向2色性電気磁気散乱・発光、x線電気磁気散乱(電気磁気回折)、磁気第二高調波発生と非線形磁気カー回転などさまざまな新規の電気磁気光応答を示すことを実証した。
人工スピン超構造体として、強磁性体を含む三種の異種物質をABCABC型に積層した有極磁性体を設計・作製し、磁気第二高調波発生と方向性電気磁気散乱の検出に成功した。この効果を応用して界面強磁性が光学的電気磁気効果によって検出できることを提唱し、実証した。
高感度スピン分極走査電子顕微鏡を用いて、サブミクロンの分解能でのスピン分極の表面構造観測に成功した。また、ローレンツ透過型電子顕微鏡を用いて、らせんスピン秩序の観察にも成功した。これにより、らせんスピン秩序における転位の存在や磁場応答などがリアルタイムで明らかとなった。
共平面的でないスピン超構造を持つパイロクロア型強磁性体金属において、従来のスピン‐軌道相互作用に起因するものとは異なるスピンカイラリティ機構による特異な異常ホール効果・異常ネルンスト効果・磁気光学効果の実験的・理論的解明に成功した。
従来よりさまざまな機構が提唱されてきた強磁性金属における異常ホール効果について、固体中電子のバンド構造の詳細に依存したベリー位相機構によって統一的に理解できることを示した。特に、「共鳴異常ホール効果」とよばれる機構が広範囲の物質群について成立していることが明らかになった。