月田細胞軸プロジェクト

月田承一郎

総括責任者 月田 承一郎
(京都大学 大学院医学研究科 教授)
研究期間:1996年10月~2001年9月

 

細胞が極性を形成するのは、個体発生における形作りの色々な場面でみられます。それぞれの細胞が極性形成、すなわち細胞内の部品をある方向に向かって配置する場合、それぞれの細胞は基本となる細胞軸を、自らの中に持っていると思われます。この様なすべての細胞に普遍的な座標軸を、細胞軸と呼びます。この軸の分子的基盤は何かについて、種々の生物の系で解析を行いました。

特に緑色蛍光タンパク質GFPを用いて、軸が変化する場合に何が、どのように動くかを調べたのが、この研究の特色であります。中心体に付属するPCM-1タンパク質より成る、中心体へ集積する全く新しい細胞内オルガネラの発見、癌抑制遺伝子産物APCの微小管に沿った運動の可視化、ショウジョウバエ多核性胞胚におけるカドヘリン-カテニン接着系のふるまいのライブ観察などの結果は、これまでなかった新しい動的な考えが細胞軸研究には必要であることを示した、画期的なものです。また、酵母を用いたアンフォルジンの同定と解析は、細胞軸の決定に全く新しいタイプの機能が必要なことを示しました。

 

成果

蛋白質の高次構造をほぐすアンフォルジンの発見

細胞内の構成成分は、細胞分裂のとき、オルガネラの膜を透過するときなど、一時的にほぐれた構造である必要がある。我々はこれに働く因子の出芽酵母の試験管内アッセイ系を作成し、これを精製した。この因子アンフォルジンは、酵母の分裂部位に環状に存在する。アンフォルジンを過剰発現させると、出芽軸が狂ったりする。

ガン抑制遺伝子APCの伸長期の微小管先端への濃縮

ガン抑制遺伝子であるAPCは、伸長期の微小管の先端に不定型の複合体として濃縮し、短縮期の微小管先端からは解離することが分かった。APC結合タンパク質EB1は間期の細胞では、すべての伸長期の微小管の先端に濃縮した。これは、微小管が短縮を始めると、直ちに脱落するが、APCとは行動を共にしないことが分かった。

ショウジョウバエの原腸陥入における細胞間接着のダイナミクスの解析

カドヘリン-GFP融合タンパク質を作り、ショウジョウバエの原腸陥入における細胞接着部位の変化を観察した。ゆっくりとした同調的な細胞の形の変化から始まり、競合的な細胞の形の変化へと進み、予定中胚葉細胞が胚内部への陥入する。その際、上皮性から間充織性の細胞に転換し、大幅な変化が起こることが分かった。

中心体に集積する新規非膜系オルガネラの発見

アフリカツメガエルの中心体に関連する抗原PCM-1をGFP融合タンパク質として観察したところ、PCM-1がダイニンモータータンパク質を用いて微小管のレール上を動いて中心体に集積することが分かった。免疫電顕によりこれは新規の非膜系オルガネラであること、マウス鼻粘膜上皮の繊毛形成時にも関与していることが分かった。

ガンマ-チューブリンのノックアウトマウスの作成

細胞分裂をするときに出来る紡錘糸のもっとも中心体側の末端に、ガンマ-チューブリンが存在することが知られている。マウスの胚性幹細胞(ES Cell)の系で、gamma-tubulinをコードしている遺伝子を欠失させたノックアウトマウスを作成したところ、ホモ個体では胚性致死であり、2.5日胚では細胞分裂が完成出来なかった。

脊索動物とそれ以外の後生動物でのカドヘリンの違い

脊索動物以外の後生動物のカドヘリンでは、細胞外領域にユニークなドメイン[原始的カドヘリンドメイン(PCCD)]が存在することを見いだした。DEカドヘリンの解析から、このドメインはカドヘリン分子が機能を果たすために非常に重要であることがわかった。PCCDの喪失が脊索動物の起源を知る手がかりになるかもしれない。

fig1

▲細胞構成の基本ステップ

fig2

▲細胞分裂軸形成途上の細胞(中央)と分裂前の細胞(左,右)

fig3

▲緑色蛍光タンパク質で標識したAPC(ガン抑制遺伝子産物)は細胞伸長部位の微少管の先端に集積する

 

研究成果

評価・追跡調査

プログラム

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