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- 細野透明電子活性プロジェクト
総括責任者 細野 秀雄
(東京工業大学 フロンティア創造共同研究センター 教授)
研究期間:1999年10月~2004年9月
酸化物は、資源的に豊富で、大気雰囲気で安定であり、環境にやさしい化合物群である。こうした酸化物のもつ光学的透明性という本来的な特徴を生かしつつ、そのアクティブな電子機能を探求することを目標に研究を行った。特に、層状化合物、ナノポーラス化合物など自然ナノ構造を内蔵する化合物に着目して材料の探索を行い、「広範囲に亘って電子キャリヤの制御可能な複合酸化物(InGaO3(ZnO)m)」「p型高伝導率化合物(LaCuOSe)」,「紫外透明伝導体(Ga2O3)」、「真空紫外透明ガラス(フッ素ドープシリカガラス)」、「光誘起で導電体化する透明典型金属酸化物(C12A7:H-)」、「活性酸素を大量に含んだ化合物(C12A7:O-)」,「室温・大気中で安定なエレクトライド」などの機能性化合物を見出すことに成功した。さらに、「反応性固相エピタキシャル法」と名付けた独自の方法などにより、それら化合物の高品質エピタキシャル膜を育成し、「紫外発光ダイオード」、「高性能透明薄膜トランジスタ」、「O-ビーム発生装置」、「深紫外光ファイバー」などの新機能デバイスを試作し、「透明酸化物エレクトロニクス」の新しいフロンティアを開拓した。
ナノポーラス構造を有する12CaO・7Al2O3(C12A7)のケージ中に包接される自由酸素イオンを、O-、O2-、H-など通常では安定に存在しない1価のアニオンで置換することに成功した。C12A7:O-に外部電場を印加する事により、高輝度・高純度のO-ビームを得た。また、C12A7:H-では、紫外線照射による絶縁体-半導体転換を見出した。CaOとAl2O3という教科書類に典型的絶縁体と記述されていた軽金属酸化物において、これまで不可能と考えられていた伝導性制御をナノ構造の工夫で可能であることを示した。
C12A7中の自由酸素イオンをすべて電子で置換することにより、1983年の発見以来の課題であった室温・大気中で安定なエレクトライドを初めて実現した。エレクトライドは、半局在化し、アニオンとして機能する電子が高密度に存在するイオン結晶で、その電子の移動により100S/cmという高い電気伝導度を示した。また、電子は、結晶に緩く束縛されており、室温で容易に高密度の電子を放出することを見出した。
「高温PLD法」、「高温固相エピタキシャル法」および「反応性固相エピタキシャル法(R-SPE)」を化合物により使い分け、高品質な透明酸化物半導体エピタキシャル膜を育成することに成功した。特に、自己整合化プロセスである「R-SPE」法により、InGaO3(ZnO)m,LnCuOChなどこれまで育成困難であった層状複合化合物のエピタキシャル薄膜成膜に成功した。これらのエピタキシャル薄膜において、自然多重量子井戸構造に基づく「室温安定な励起子」「三次光学非線形感受率の増大」「透明縮退P型伝導」(デルタードーピングの実現)などの特性を見出した。
p型電気伝導を示すZnRh2O4,LaCuOSe、紫外域透明酸化物半導体Ga2O3など新しい機能性透明酸化物半導体の発見、p型SrCu2O2/n型ZnOを用いて初めての酸化物紫外発光ダイオード、InGaO3(ZnO)5を活性層とした高性能透明薄膜トランジスタの実現などにより、透明酸化物エレクトロニクスのフロンティアを開拓した。
フェムト秒レーザーパルスの干渉を利用して、透明酸化物表面および内部に周期ナノ構造を記録する手法「シングルパルス干渉露光法」を新たに開発した。この手法を用いて、LiF結晶中に、発光センター、光導波路および反射用回折格子を書き込み、室温で発振する微小分布帰還型レーザーを実現した。
シリカガラスのナノ構造や含有ガスとF2/ArFエキシマレーザーとの相互作用を明らかにした。そして、その成果に基づき、真空紫外域透明で、且つ優れたレーザー耐性を有するシリカガラスを開発し。さらに、得られたガラスをベースにArFエキシマレーザーを高効率で透過し、耐性に優れた光ファイバーの実用化に成功した。
▲図1 透明酸化物半導体のフロンテイアの開拓
▲図2 ナノポーラス結晶C12A7
▲図3 細野透明電子活性プロジェクトの成果
左図 上 透明酸化物TFT
中 透明酸化物内部に記録された回折格子
下 LiF中に形成されたDFBレーザー
中図 反応性固相エピ法で育成したInGaO3(ZnO)5単結晶薄膜
左図 上 C12A7エレクトライド
中 フェムト秒レーザーのより周期ナノ構造
下 深紫外光ファイバ