養育者支援によって子どもの虐待を低減するシステムの構築

イラスト:困っている人々児童虐待の対策はこれまで被害児童の保護・支援に重点が置かれてきたが、問題解決には虐待してしまう養育者への支援が不可欠。


知の組み合わせ:自然科学(医学・脳神経科学)×人文・社会科学(家族社会学・法学・社会福祉学)×現場(地方自治体・医療機関・児童相談所・NGO/NPO・虐待の当事者)

背景

児童虐待の対策はこれまで被害児童の保護・支援に重点が置かれてきたが、問題解決には虐待してしまう養育者への支援が不可欠である。効果的な養育者支援を行うためには、虐待発生のメカニズムを科学的に理解し、その理解に基づいて支援現場で活用できる支援方策を開発すること、また、支援現場においては、養育者に関わるさまざまな専門職種が連携し、養育者の抱える問題に早期に「気づき」「理解」することなどが重要である。しかし、虐待発生は、養育者の要因、子どもの要因、環境要因、行政・法制度上の要因が複雑に絡み合っており、自然科学と人文・社会科学それぞれの専門的な研究領域を含んでいることや、分野によって児童虐待対策に関わる用語や概念に対する認識の差が存在することが多職種連携への障害になっていることなどから、多分野の研究者、専門職、当事者が協働することは限定的であった。

研究開発のアプローチ

本プロジェクトでは、多職種連携による養育者支援というテーマを据え、医学・脳神経科学などの自然科学と、家族社会学・法学をはじめとする人文・社会科学の研究者、さらに社会福祉分野の専門職や虐待の当事者の協働による研究開発を実施した。

成果

虐待が子どもの脳の発達や心身の健康に与える影響を自然科学の見地から明らかにし、経済的困難や家庭内不和、養育者の心の問題について人文・社会科学の知見により読み解くことで、虐待が発生するメカニズムを多面的に示しながら、養育者支援推進のための提言をまとめた。この研究成果に基づき、その一部を社会に定着させるための取り組みを、福井大学と大阪府こころの健康総合センター・豊中市・枚方市の支援現場のステークホルダーが協働して進めた。虐待よりも広い概念である大人と子の間での避けたいかかわりを指す「マルトリートメント(マルトリ)」の予防を、地域が連携して子育てをする「とも育て」で推進していくという共通言語・概念を設定し、母子保健・児童福祉・精神保健などの養育者に関わる多分野の支援者が共有し活用できる、養育者支援のための研修資材やプログラム、一般向け啓発資材の開発を行った。これらの資材・研修プログラムは、福井大学と一般社団法人日本家族計画協会(JFPA)による「マルトリ予防WEBサイト」から誰もが無料で取得でき、すでに1,000件以上の利用がある。WEBサイトを発展させつつ、JFPAがもつ全国規模の普及事業や支援者向け研修なども活用しながら、全国各地で「マルトリ予防モデル」が展開していくよう取り組みを継続している。

公私領域ロゴマーク 「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域
※本領域における研究開発予算規模(直接経費):1プロジェクト 数百万円から 3千万円以下/年
プロジェクト実施期間:2015年11月~2021年3月



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