安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築 研究開発領域の設定について

平成27年度戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)における新規研究開発領域の設定及び領域総括の選定について

 平成27年度発足の新規研究開発領域については、平成26年度に社会技術研究開発センター俯瞰戦略ユニットに新領域設計チームを立ち上げ、有識者へのインタビューや事業の具体化に向けた検討を行ってきました。平成27年5月16日には、第12回社会技術フォーラム~新領域に関する社会との対話「公/私の空間・関係性の変容に応える安全な暮らしの創生」を開催し、領域設定に向け一般の方々と意見交換を行いました。
 これらの検討に基づき、文部科学省からJSTに対して、「戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)における新規研究開発の方針について」(平成27年5月21日 文部科学省 通知)が示されました。
 JSTでは、本通知を受けて社会技術研究開発主監会議(平成27年5月22日)及び理事会(平成27年6月8日)の審議を経て、下記の通り新規研究開発領域を設定し、領域の運営責任者である領域総括を選定しました。

  • 研究開発領域の名称:
    「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」
  • 領域総括:
    山田 肇(東洋大学経済学部 教授)

1.研究開発領域の内容

(1)研究開発領域の目標

本領域における具体的な目標は以下の通りです。

① 世帯の小規模化や高齢化、サイバー空間の拡大による親密圏の変容を踏まえて、発見・介入しづらい空間・関係性における危害、事故の低減・予防(予見、介入、アフターケア)に資する新たな手法を現実の問題とニーズに基づいて提示する。

② これらの成果をもとに、発見・介入しづらい空間・関係性における危害や事故の低減に資する制度・政策とその実現可能性を提示する。

③ 提示する取組や施策が継続的に実施されていくために、社会システムへの統合可能性という観点で、これらの手法を導いた思考・考え方を共有するネットワークを構築する。

なお、上記の領域目標に向けては、特に以下の二つの観点に留意して研究開発を推進します。

  • ICT等の活用による既存の社会システムの機能増強と新しい社会システムの提案
  • 発見・介入しづらい空間・関係性への配慮が行き届いた適切なアプローチ

(2)研究開発領域の設置期間

設置期間は、平成27年度から令和2年度の延べ6年間を想定。

(3)研究開発の種別・規模

各年度数件の新規の研究開発プロジェクト等の採択を想定しています。

  • ① 研究開発プロジェクト
     本領域の目標達成に向けて、「(4)取り組むべき研究開発プロジェクトのテーマ、要素」に掲げた手法、指標やそれらを活用した問題の解決策を提示するもの。それらが有効であることを実証しようとする取り組みが求められます。

    • 予算規模(直接経費):1課題 数百万円から30百万円以下/年
       研究開発プロジェクトの内容および採択方針に応じて、柔軟に取り扱います。
    • プロジェクトの期間:当初は、原則として3年
       なお、3年度目に評価を行い、実装段階にあるプロジェクトや自律的実装の可能性の高いプロジェクトを最大2年間延長する場合があります。また、研究開発の進捗等に応じて適宜、適正化を図るとともに、体制の構築が進まないなど目標達成の可能性が低いと判断された場合は期間途中で終了する場合があります。
  • ② プロジェクト企画調査
     優れた構想ではあるものの、有効な提案とするには更なる検討が必要なものについて、問題の関与者による具体的なプロジェクト提案を検討するための支援を行います。 今年度は企画調査としての提案を募集します。また、研究開発プロジェクトとしての提案をプロジェクト企画調査として採択する場合があります。

    • 予算規模(直接経費):1課題 3百万円以下
    • 企画調査の期間:半年以下(平成27年度は約4ヶ月間)
       なお、「プロジェクト企画調査」として採択された場合は、次年度に再度、研究開発プロジェクトの提案として応募することが期待されます。

(4)取り組むべき研究開発プロジェクトのテーマ、要素

 本領域では、領域目標のもと、以下の3つのアウトプットを目指した研究開発プロジェクトを推進します。なお、複数の要素を組み合わせたテーマや、記載以外についても本領域の趣旨に合致し、問題の解決に貢献し得る提案を歓迎します。また、個別の事象(特定の危害行為や事故)の解決にとどまらず、公/私の変容に起因する複数の事象に対して有効となり得る横断的なテーマを期待します。

  • 社会システム・制度の創生・伝承
     個別の事象の対策や施策にとどまらず、私的な空間・関係性で生じる問題という観点から、より共通的な社会システムや制度、考え方などに関わる課題と将来像を具体的に提示する取り組みを推進します。特に、個人情報やプライバシー、社会の変化をふまえた技術活用のあり方、社会資本の適切な配分、成果や取り組みを継続・共有するための評価指標など、個別の事象やある時点における問題の解決を超えて、より広く、長期的に有効となり得る方法を提示していくことを重視します。そのために、文化や慣習、あるいは国際比較といった観点からの検討が必要になることも想定されます。
  • 配慮が行き届き適切に介入・支援をする社会技術の創出 ~公/私が協力する 「間」の創生~
     親密圏の自助、自治を強調するあまり安全機能が低下しているという認識のもと、公/私が協力する「間(ま)」を創生することによって安全機能を補強する方策や制度について、実践的な研究開発を推進します。地域特性をふまえた取り組み、特区における実証など、現実の問題に対する取り組みが想定されます。法律・規制、慣習や運用における「思い込み」の壁を超えて、安全機能を強化する研究開発を歓迎します。
  • 情報通信技術などの利活用による新たな支援機能の構築
     インターネットやソーシャルメディアの普及・拡大、サイバー空間と実空間の一体化といった科学技術の展開をふまえ、これらの技術を活用した危害、事故の低減・予防のための方法論に関わる研究開発を推進します。利用者視点での、アクセシビリティとユーザビリティを意識した実装、担い手を十分に考慮したアプローチを重視します。

 なお、以下の観点で社会実装を重視して研究開発を推進することを望みます。

  • 成果の活用先として、立法府・行政府における制度などの立案のエビデンスとしての提示を意識すること
  • 特定の地域や組織にとどまらず他への普及・展開も視野に入れること

(5)研究開発の実施体制

 研究開発プロジェクトを実施するにあたっては、対象とする社会問題の解決に向けて、研究者にとどまらない、多様なステークホルダー(構想に関係する研究者や実践者、実装の担い手、成果の受け手など)から成る実施体制の構築およびマネジメントが求められます。研究代表者には、それらの参加者の統括や調整をはじめ、研究開発の実施期間を通じてリーダーシップを持って自ら研究開発を推進していただきます。そのため、研究開発を推進するための体制だけでなく、プロジェクト・マネジメント体制を明確化することが求められます。

2.領域総括について

 山田肇氏は、民間企業において、情報通信経済学、技術経営の分野における研究に従事されてきた。また、研究活動にとどまらず、研究成果に基づいて情報通信の利活用に関する政策提言を公表するなど、社会に向けた発信・応答を精力的に展開されている。2001年からは国際大学グローバル・コミュニケーション・センター、2002年からは東洋大学経済学部にて教鞭をとり、大学へと活躍の場を移してさらに研究、教育、人材育成に尽力されている。また、学会や特定非営利活動法人などの活動を通じて、産官学民の垣根を越えた実践的な社会貢献活動や議論の場の形成、ネットワーク構築に積極的に取り組んでいる。
 一方、「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域は、世帯構造の変化やサイバー空間の拡大といったダイナミックな時代の変化に対応し、発見・介入しづらい空間・関係性における危害、事故を低減するための予防機能(予見・介入・アフターケア)を強化し、安全・安心な社会の進展に貢献することを目指している。そのために、ICT等の活用による既存の社会システムの機能増強と新しいシステムの提案、及び発見・介入しづらい空間・関係性への配慮が行き届いた適切なアプローチという視点からの、社会実装を重視した安全・安心につながる研究開発を推進する。この実現に向けては、本領域が取り組む問題に対する広い視野と先見性とともに、多岐にわたる分野の専門家、実務家、関与者の連携・協働を促し、バランスの取れた領域運営が必要となる。
 山田氏は、前述の通り、情報通信経済学や技術経営に関する高い専門性と、グローバル・スタンダード、アクセシビリティやユニバーサルデザインといった技術と社会・制度のあり方を重視した豊富な社会活動をバックグラウンドとして、本領域と密接に関わる分野において多大な実績を有している。また、各関係省庁における委員会座長や委員を歴任しており、国内外の政策動向にも精通している。さらに、日本電信電話公社においては複数の部長職を歴任、2011~2015年に東洋大学大学院経済学研究科長も務めており、領域目標の達成に向けた効果的・効率的な研究開発の推進と適切なマネジメントを行うに十分な経験を有している。
 本領域は、多様な学術コミュニティ及びステークホルダーのネットワークとの連携・協働が必要となる。その点においても、社会における問題解決と実践を強く意識したこれまでの多面的な活動や、日本国内にとどまらず国際社会における活動経験・知見を本領域でも発揮していただけるものと考える。

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