本領域の考え方
このプログラムでは、「有限な環境・エネルギーの下では持続性を持ちえない、現代の技術・社会システム」を「脱温暖化・脱化石燃料・環境共生型」に作り直していくことを大目標に掲げています。そのために、プロジェクトの具体的設計・実施にあたっては、技術ありきの発想ではなく、その地域に「適正」な技術を、地域目線で、地域の多くの関与者とその目標を共有しながら、以下のような手順で行っていく必要があると考えています。
Step1 地域の状況や問題の構造的・横断的把握と中長期的目標設定
Step2 現状の課題整理と中長期目標達成のための中長期的全体シナリオの作成
Step3 プロジェクト期間内に何をすべきか、具体的な計画の設計と研究体制の充実
Step4 地域目線で、地域に寄り添ったかたちでのプロジェクト実施
なお、脱温暖化・環境共生社会へのシナリオは、仮に優れた技術的シナリオが提案されたとしても、社会的実現性、もしくはその普及速度が0に近いのであれば、実質的削減効果は乏しいでしょう。 本研究開発プログラムでは、各プロジェクトが取り組む課題を、図1で示すように、技術的シナリオ(温室効果ガス削減の物質・エネルギー収支のシナリオ)と社会経済的人的側面にかかわるシナリオ(技術的シナリオを社会的に実現するためのシナリオ)を結合した統合シナリオとして示されることが望ましいと考えます。また、両シナリオの相関関係を意識し、かつ2050年にCO2排出量を80%程度削減しているという目標設計を行ったうえで、「バックキャスト※1」手法で研究開発計画を設定するというプロジェクト設計が求められます。
※1 将来どうなっているべきなのかを先に考え、そこから今に逆流して考えて、当面何をするべきなのかを発見する方法
(図1)脱温暖化・環境共生社会への社会技術的シナリオ設計の考え方
プロジェクトの選考基準と領域マネジメント
本領域では、平成20年~23年の3年間にわたり、プロジェクト公募を行い、以下のような要件を満たしているかどうか、厳正な審査を行った結果、プロジェクトを採択しました。平成24年10月現在、12のプロジェクトが、進行中です※2。
領域総括と領域アドバイザーからなる領域アドバイザリーボードは、研究開発プロジェクトの状況を常に把握し、各プロジェクトが設定した挑戦的な研究開発課題について、相互学習的に目標達成へ向けてサポートに努めています。
※2 平成21年度3月:1プロジェクト終了
平成23年度3月:2プロジェクト終了
平成24年度9月:2プロジェクト終了
プロジェクトの選考基準
(a) 温室効果ガス大幅削減(60-80%)と、環境共生の視点について
- ふんだんな石油に依拠した技術、社会システムが生み出している多様な自然および社会の課題を横断的に把握しているか。
- オリジナリティ・新規性(単なる焼き直しではない、新たな視点や切り口)があり、技術的・経済的にも展望があると主張できる「新しい」提案であるか。
※「上記のCO2の80%削減」は、あくまでも2050年の全国平均値としてのマクロな目標である。個々のプロジェクトでは、グリーンエネルギーの域外輸出により100%以上削減する計画、あるいは、研究開発地域での人口増等により、当該地域での削減は80%に達しないが、他の地域での削減と一体になっており、総合すると大きな効果を有するものなどがありうる。いずれにしても、当該研究開発計画の実現により、全国での80%に向け十分大きな寄与が見込まれることを提示する。
(b) 地域レベルでの課題解決の視点について
- 地域レベルでの課題が明確に示され、新規な社会技術的アプローチによりそれを解決する具体的提案となっているか。
- 地域課題解決の手順が具体的に示されているか。
※(a)の中長期的大構想を地域に根ざして実現していくために、同時に地域目線で地域が抱える短中期的な諸課題、すなわち、過疎化・雇用問題・燃料価格乱高下・生物多様性保全の課題などを、分野横断・地域横断的シナリオの確立により解決する、新規かつ具体的提案となっていることが必須である。
(c) プロジェクトの必要性および類似の取り組みや研究開発との関係
- 類似、関連の取り組みの動向が整理されているか。
- それらとの補完、協力関係が示され、プロジェクトを開始するための準備ができているか。
- 研究代表者もしくは主要なメンバーに以下の経験があるか。
産官学市民の連携による研究チームの組織運営
地域に根ざした研究開発
人文社会系と自然科学系研究者の協働
関係自治体の組織的関与による研究開発
(d) シナリオの設計について
- 中長期的ロードマップと定量的積算表に独自性や工夫が見られるか。
- 中長期的CO2大幅削減目標と、提案プロジェクトの関係性が明確であるか。
- 技術的・理工学的シナリオ(定量的シナリオ)が具体的であるか。
- 社会経済的人的側面にかかわるシナリオ(実現性シナリオ)が具体的であるか。
- 上記二つのシナリオが結合して示されているか。
(e) プロジェクトの研究体制について
- 研究体制にプロジェクトの課題に応じた地元・現場の多様な主体の参画があり、その協働の方法が示されているか。
- 人文社会科学系、自然科学系研究者双方の参画があり、その協働の内容が明確であるか。
- 産官学市民の実質的連携・協働と、認識の共有の仕組みがあるか。また、グループリーダー等が個々にそのような経験を持っているか。
(f) プロジェクト終了後の持続性について
- 地域社会における持続性に対する貢献への工夫や展望が明確であるか。
- 経済的なシステムの実現、関係自治体の組織的支援、地域金融との連携など、プロジェクト継続性を何らかの形で確保する仕組みが示されているか。
(g) 予算計画について
- 提案内容に対し予算規模や予算配分が適切であるか。
- 予算の規模や配分に成果の実現性・継続性の考慮があるか。
- 予算の規模や配分に地元の視点が反映されているか。
(h)カテゴリーⅡのみ
- 示されているPDCAサイクルが具体的で現実的な計画であるか。
注)詳しくは、「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」研究開発領域 平成22年度募集要項、または以下募集説明会資料を参照。