JST newsは、独立行政法人科学技術振興機構(略称JST)の広報誌です。JSTの活動と、最新の科学技術・産学官連携・理数教育などのニュースを、わかりやすくご紹介します。
JST理事長 中村 道治
今月号で紹介した「第1回 科学の甲子園ジュニア全国大会」(昨年12月開催)では、中学生の柔軟な発想と優れたチームワークを知り、このような若い層が育ちつつあることに明るい希望を抱きました。ここで競い合った全国の子どもたちが科学好きの仲間として交流を深め、世界のトップレベルの学生たちとも競い合って、多くの才能が羽ばたいてくれることを期待します。
JSTでは、さらにこの春より、「日本・アジア青少年サイエンス交流事業~さくらサイエンスプラン~」を開始します。
アジア各国では、数多くの優秀な研究者が巣立っていますが、多くは日本を通り越して欧米に留学や赴任している現状があります。何とももったいないことで、ぜひ日本で活躍していただきたい。さくらサイエンスプランでは、このようなアジア各国の高校生からポスドクまでの若く優秀な青少年に、日本での短期滞在を通してわが国の教育や研究の現場の良さに触れてもらいます。この事業を通して、アジアの青少年に良さを知ってもらい、長期の留学生や研究者として来日するきっかけとなること、また、国内で国際的な交流の機会を作り出すことを目指しています。
事業を運営するJST中国総合研究交流センターでは、受け入れ機関を4月から募集予定です。年間2,000人以上もの来日を計画しているため、受け入れ先となる国内の機関も相当数になります。将来アジアから科学技術の人材を受け入れたいと考えている大学や地方自治体、企業などが、積極的に手を上げてくださることを期待しています。
JST理事長 中村 道治
我が国の科学者の意見をまとめ発信する日本の代表機関「日本学術会議」は、10年近く前からその構成員である会員の中の女性の比率アップに本気になって取り組み、平成23年度に始まった今期では、ほぼ4人に1人(23.3%)にまで達しました。女性会員が増えたことで、新しい視点が加わり、学術会議や関連学会の活動が活性化されてきたと伺っています。
JSTでも平成24年度から新たな男女共同参画推進計画に取り組み、さまざまな活動の活性化と業務品質の向上を目指しています。新しい研究領域の総括など女性のプログラムディレクターやプログラムオフィサーの招聘や、有識者の意見を伺う各種委員会の女性委員の増加など、JST事業への女性の参加比率を高めようとしています。
女性研究者については、平成21年度から実施している「なでしこキャンペーン」を通して、研究開発プロジェクトへの応募の呼びかけや、出産・子育ての支援、女性研究者のすそ野の拡大にも、具体的な数値目標を掲げて取り組んでいます。
特にこの1年は、JSTにもよい変化を生み出すべく「まだまだ本気度が足りない」と檄を飛ばし、従来からの固定観念を払拭するよう心を砕いて参りました。
今号では、そんなJSTの舞台で活躍する女性陣をご紹介します。どなたも華々しい成果をあげており、今後のさらなる活躍を期待しています。
JSTは今後も引き続き男女共同参画を強力に推進し、日本の科学技術を牽引する女性が着実に増えていくように努力して参ります。
JST理事長 中村 道治
戦後のわが国の発展は、欧米諸国の科学技術を積極的に取り入れ、新しい工業製品を産み出すところから始まりましたが、高度成長を迎えた1960年頃には、研究開発における独創性が重要視されるようになりました。資源の乏しいわが国が経済的に繁栄し世界に貢献できたことは、創造的な研究開発によるところが大きく、先人の努力に改めて感銘を受けます。
しかしながら、2011年3月11日に起こった東日本大震災とその後の東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、わが国の安全・安心ブランドが打ち砕かれ、国民の科学技術に対する信頼が大きく損なわれました。また、わが国の科学技術力の相対的な地位低下も近年明らかになってきました。私たちは、過去の延長の上に未来はないという気持ちで、原点に戻って科学技術創造立国を目指す必要があります。
国の総司令塔機能の強化
わが国の研究開発のあり方について、さまざまな改革が検討されてきました。例えば、国の研究開発の総司令塔機能の強化の一環として、日本医療研究開発機構(仮称)の設置が検討されています。また、府省連携や革新的研究開発の推進に向けて、戦略的イノベーション創造プログラムや革新的研究開発推進プログラムなどの新規プログラムも検討されています。研究開発法人のあり方に関しても、成果の最大化という観点から検討が進められています。これらが、新しい未来の創造につながることを切に祈念します。
健康・医療に関する研究開発は、新材料や情報など他の分野の研究と離れて存在しません。逆もまた真です。その意味で、JSTと日本医療研究開発機構の連携は極めて重要であると考えています。また、エネルギーや環境、防災、社会システムなどさまざまな分野で、総合科学技術会議や他府省との連携を深め、わが国の成長戦略や安心・安全な国づくりに結びつくように努力します。
JSTの挑戦課題
このような研究開発制度や体制の改革に並行して、新しい研究開発文化を醸成することが重要です。
わが国が現在目指している課題解決型イノベーションにおいて、革新的な技術(Quantum-Jump Technology)の創生と迅速な産業化が大命題になっています。JSTは、戦略プログラムパッケージをもとに、基礎研究から出口までの連続的、循環的な研究開発や分野融合的な取り組みに注力して、新しい研究開発文化を育てます。またこの中で、新分野に果敢に挑戦する次世代グローバル人材を、意識的に育てていきたいと考えています。
他国にはまねできない、信頼性の高い製品やシステムにこだわることが、ものづくり国家としてわが国の進むべき道ですが、そのためには「基盤技術の深耕と伝承」が欠かせません。基盤技術の弱体化は、大きな事故にもつながります。最近の論文重視の風潮の中で、ものづくりを支える基盤技術への取り組みが失われつつあることが指摘されています。われわれは、科学の基礎に立ち戻ったものづくり基盤技術の深耕とシステム安全工学の展開に光を当てていきたいと考えています。
JSTの運営
JSTは、「バーチャル・ネットワーク型研究所」運営を核に関連府省との連携のもと、科学技術政策の推進機関として未来の創造に貢献します。このために、長年培ってきた目利きやプロジェクト運営の能力を強みに、内外から最強のリーダーや研究者の参加を得て、最適な場所で最大の成果を生み出す研究所を、これからも運営します。
また、科学技術情報の収集・整備・提供や次世代人材育成、科学コミュニケーションの向上などの科学技術イノベーションの基盤形成に係わる業務を、先端研究開発との深い連携の上で進めます。日本科学未来館は、2017年に開催される世界科学館フォーラムを主宰し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックにおける「科学のおもてなし」においても重要な役割を果たす予定です。科学技術が社会と共に歩むために、科学者のアウトリーチ活動や市民参加の場として活用を図ります。
以上の考えのもと、JSTは社会と共に歩み、新しい未来の創造に向かって努力を重ねる所存です。本年も、皆様方のご理解とご協力をお願いする次第です。
JST理事長 中村 道治
先日、イノベーションに対する加速プログラム、通称ACCEL(アクセル)の第1号を発表しました。
JSTの戦略的な基礎研究から生まれる研究成果には、非常に有望だけれども、あまりに新奇で企業化がすぐには困難なものがあります。ACCELは、そのようなハイリスクな研究成果を選び出し、成果展開の将来ビジョンを基に設定した技術的成立性の証明・提示(Proof of Concept、POC)に向けて研究を推進することにより、企業や投資家などから驚きをもって迎えられるようなインパクトのある成果創出を目指す研究プログラムです。ここで非常に特徴的なことは、研究課題ごとに配置されるプログラムマネジャー(PM)が全体を取り仕切って、研究の実行隊長の役割を担うことです。
ACCELでは、JSTが得意とする、研究成果をだんだんと実用化につなげるやり方ではなく、このようなPMが出口側から発想してビジョンを描き、POCを設定して研究を引っ張っていく新たな方法を採ります。これまでとやや毛色が違いますが、私はこれもJSTが進めてきたバーチャル・ネットワーク型研究所の1つの発展形態になると思います。初めての取り組みですので試行錯誤しながら進めていきますが、その中で我々も育ちPMも育つということになると考えています。
第1号の課題に選ばれたのは、東京工業大学の細野秀雄教授が創り出した「12CaO・7Al2O3(C12A7)エレクトライド」という、多彩な可能性を持った全く新しい物質です。この研究開発を横山壽治PMがどのように牽引するのか、大いに期待しています。
JST理事長 中村 道治
物質・材料科学の未来を議論するワークショップをJSTが箱根で開催したのは2004年のことです。電子機器や高機能素材に欠かせない希少元素は、流通量も産地も限られるため、それらに頼らない夢の材料の実現を目指し、「元素戦略」というキーワードで日本全体が大きく動き出した、記念すべき会議でした。
来年はそれからちょうど10年にあたります。日本や地球社会が抱える資源問題の解決に向けて、JSTはERATOやCREST、さきがけなどでの課題達成型基礎研究はもとより、産学連携や国際共同研究も推進しています。さらに府省連携により、文部科学省が進める基礎研究の成果を経済産業省のプロジェクトで活用する体制も根づき、希少元素を代替する素材や、次世代自動車向けの高効率モーター用磁石などの研究開発が進んでいます。
最近新たな物質・材料づくりのコンセプトとして注目を浴びているのが、"すき間科学"と呼ばれる「空間・空隙制御材料」です。電子・分子が入るナノ構造のすき間をつくることで、従来にない機能の革新的な材料が生まれるのです。代表的な成果には、京都大学の北川進教授による常温常圧で気体を貯蔵・分離できる多孔性配位高分子PCPや、東京大学の藤田誠教授による生体高分子などの構造解析を容易にする結晶スポンジがあります。東京工業大学の細野秀雄教授のC12A7エレクトライドは、セメントの結晶のすき間に電子を入れたもので、電子材料としての応用や、100年来のアンモニア合成法を置き換え得る可能性のある画期的な触媒として注目されています。
日本のナノテク・材料研究は世界の最先端を走っており、次々と新しい概念を生み出し、それを実用化するための技術をきちんとつくりあげることに、国を挙げて取り組んでいます。
材料を制する者が世界を制す。JSTも大きなビジョンのもと、この分野での研究開発の遂行に力を尽くしたいと考えています。
JST理事長 中村 道治
夏休みに青少年が成長できる場づくりとして、高エネルギー加速器研究機構(KEK)とJSTの共同で、8月25日から1週間、つくばで「アジアサイエンスキャンプ2013」を開催しました。このイベントは、ノーベル賞受賞者の小柴昌俊東大名誉教授と李遠哲(Yuan T. Lee)元台湾中央研究院長の提唱により始まったもので、2007年に台北市で第1回目が開かれ、昨年はエルサレムで開催されています。高校生から大学2年生までの、アジアのさまざまな国や地域から来た生徒たちが合宿し、ノーベル賞受賞者や卓越した研究者の考えにふれ、生徒同士が交流をすることにより、向学心を高め視野を広げることを狙いとしています。7回目の今回は、23の国や地域から198名の生徒が参加して、ノーベル賞受賞者など7名の著名な研究者から話を聞き、じかに討論したほか、多国籍のチームを組んで、研究発表さながらのポスターを作成しました。
参加した生徒たち全員にとって、社会における自然科学の役割や独創性を追求する研究者の姿勢を学ぶ、またとない機会になりました。日本人の多くの生徒たちも、それぞれの個性を発揮して、研究者や仲間との交流を楽しんでいたようです。また、最終日に、講話の聴講やポスター制作などを共にした多くの参加者と連絡先を交換しあっていたと聞き、感慨深く思いました。
21世紀はアジアの時代といわれていますが、参加した生徒の皆さんが将来さまざまな分野のリーダーに育つことを期待します。また、来年のアジアサイエンスキャンプは、シンガポールで開催される予定であり、日本からも多くの生徒に参加してもらいたいと思っています。
JST理事長 中村 道治
わが国が、先進国の後追い型の研究開発から脱してフロントランナーを目指すようになったのは、経済大国になった1980年代からです。それが今世紀に入って数々のノーベル賞級の研究成果につながりました。さらに1995年には、科学技術基本法を制定し、科学技術を国の繁栄に結び付けるという姿勢を明確にしています。現在では、先進国のみならず新興国を含めて積極的な科学技術立国政策が展開され、世界中で繰り広げられる研究開発競争は、「大競争時代」の到来といえます。
この潮流の中で、わが国がとるべき道は、10年後、20年後を視野に「独創的な科学技術をもとに新しい価値を生み出し、持続的な人類社会の発展に貢献する」ことであり、これらを通じて「競争力を確保する」ことです。卓越した基礎研究の成果をもとにイノベーションを実現するという戦略が必要です。
JSTは本年度、「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」の立ち上げ、「COI(センター・オブ・イノベーション)」構想の実現などにより、ひとつ屋根の下で基礎研究から市場創生までを一貫して行う研究拠点の拡充とネットワーク化をさらに進めていきます。
JSTの特徴は、科学技術イノベーションの実現を目指して、バーチャル・ネットワーク型研究所を運営するとともに、情報事業、次世代人材育成、科学コミュニケーション等の基盤の形成事業を併せ持つことにあります。自然科学を中心に人文社会科学との融合にも注力して、新しい技術潮流を生み出し、研究開発、イノベーション、人材育成に総合的に取り組むことを方針に掲げています。イノベーションの実現には、組織を越えた開かれた連携が欠かせません。JSTは、これに向けた共創の場(エコシステム)構築の触媒役として、これからもダイナミックに活動を続けていきたいと思います。
JST理事長 中村 道治
ベルリンで5月末に世界中のファンディング機関の長が一堂に会する機会があり、私も出席しました。米国国立科学財団(NSF)のスレッシュ前長官の提案で始まったグローバル・リサーチ・カウンシル(GRC)という会合で、50以上の国・地域の有力機関が参加し、それぞれの研究の質を高めることを目的にしています。昨年のワシントンでの第1回年次総会では、透明性や公平性など研究評価の原則について宣言をまとめました。
今春の第2回会合でも熱い議論を交わし、研究者の行動規範について声明を採択しました。また、公的助成による研究成果の普及と活用のため、その成果物である学術論文を誰でも読めるようにする「オープンアクセス」化の取り組みに向けた行動計画をまとめました。これに先駆けた準備会合では、日本学術振興会(JSPS)とJSTでアジア・太平洋地域会合を共催しました。
JSTは、すでに具体的に動いています。
例えば、研究者の行動規範については、公正な研究が推進されるよう、昨年度より、新しく採択・採用された研究者に対し、研究倫理に関する講習やウェブ教材の履修を要請しています。
オープンアクセスについては、各研究機関が生み出す学術情報を保存する「機関リポジトリ」での著者最終稿の公開を推奨する方針を発表し、今年度のCREST・さきがけの募集要領にも盛り込みました。今後、多くの関係者の理解を得て定着させ、幅広い知識の共有と再利用を可能にしたいと思います。
来年5月の第3回会合では、オープンアクセスの議論を深めるとともに、若手研究者の育成を新たに取り上げることになりました。JSTは、これからもJSPS とともにGRCの活動に積極的に参加し、わが国の研究開発イノベーションの質の向上に役立てていきます。
JST理事長 中村 道治
この冬、「科学の甲子園ジュニア全国大会」を新たに開催します。
JSTでは、科学技術人材育成のための施策を体系的に推進しています。小学生には、広く「興味・関心」を高めるため、教員支援プログラムや教材を提供し、より魅力のある授業の普及を支援しています。中高生には、先進的な理数教育に取り組む高校であるスーパーサイエンスハイスクールや、意欲ある中高生の挑戦を支援するサイエンス・チャレンジ・サポートなどの事業を通して、「伸びる子を伸ばす」取り組みを進めています。後者では、学校内外での人材育成活動への支援と、科学好きな子どもたちが研鑽・活躍する場づくりをしており、3年目となる「科学の甲子園」は高校生チームによる全国科学競技大会という場を創出してきました。
高校生の「科学の甲子園」は、より「伸びる子を伸ばす」ことに重きを置いていますが、そのジュニア版は中学生を対象に、チーム戦の良さを生かしつつ、理科好きのすそ野を広げるため、楽しみながら理科や数学への関心を高める要素をより多く取り入れます。
理科や数学への関心は、小学校では多くの子どもたちが持っているのに、中学、高校と進むほど低下する傾向があります。野球に甲子園という目標があるように、科学に取り組む子どもたちにも目指す場所があり、協力する仲間や競い合うライバルたちがいる。そのような環境から、将来を担う子どもたちが科学に目覚め、科学への意欲を育んでくれることを期待しています。
8月から全国47都道府県において代表選抜が行われます。12月には中学生チームの日本一を決める全国大会を開催します。ぜひ「科学の甲子園ジュニア全国大会」にご注目ください。
JST理事長 中村 道治
ビッグデータをどのように活用するかが、国力そのものだと言われる時代になりました。ビッグデータは、例えばレジを通った時の売り上げ情報として、あるいは気象観測データとして、社会や自然の中からさまざまな形で、刻々と生み出されています。そのような大量のデータを高速に取得し、保存し、読み出すだけでも技術力が問われるところですが、そこから実用的な知識を取り出して共有していくことができれば、イノベーションに大きく寄与します。
JSTでは、ビッグデータについて、2つの面から取り組んでいます。1つは、膨大な情報をいかにうまく取り扱うか、またどのようなことに使うか、という課題に対し、「CREST」や「さきがけ」に新しい研究領域を設けて新技術シーズを生み出していくことです。本年度から公募を始めましたので、多くの研究者から良い提案が寄せられることを期待しています。
2つ目は、知識インフラを構築することです。JSTバイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)では、1000以上のデータベースを統合し、ビッグデータを創薬や品種改良に役立てようとしています。利用しやすいシステムとなるよう、使い勝手を含めて磨きをかけたいと考えています。
また、分野横断的な知識インフラ作りの新しい取り組みとして、画像や計測データをまとめて扱えるプラットフォームが望まれています。JSTでは、これまでも文献や研究者についてJ-GLOBALなどで統合検索を提供していますが、その専門用語辞書(科学技術シソーラス)をさらに改善するとともに、扱いの難しい画像などについても、類似検索や自動分類などの新技術を開発します。
JSTは、ビッグデータの多彩な「応用」の可能性の追求と、利用しやすい「基盤」の整備の両面から、今後も努力していきます。
JST理事長 中村 道治
ノーベル賞級の優れた研究成果をもとに、わが国からインパクトの大きなイノベーションを生み出すことが期待されていますが、JSTで支援したプロジェクトから、これまでにも数々の成果が生まれてきました。
間野博行教授(東京大学)は、従来困難だった遺伝子スクリーニング方法を開発して肺がんの原因遺伝子を発見し、それをもとにした肺がん治療薬は、4年という異例の早さで市販されています。
また、細野秀雄教授(東京工業大学)の「IGZO」とよばれる透明酸化物半導体もJSTのプロジェクトで開発され、スマートフォンなどの省エネ化に貢献しています。
私はJSTに赴任して、「基礎研究の優れた成果がもっと早く世の中に役立つようにできないものか、これを実現させるのが企業から来た者のひとつの使命だろう」と思いました。早くといっても基礎研究から世の中に出るまで通常は10年、20年もかかります。その期間を短縮し、世界に先駆けて社会に出していくために、JSTが率先して関係者に働きかけていきたいと思います。
たとえば、府省の壁を越えて、経産省系の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、総務省系の情報通信研究機構(NICT)など、JSTとは異なる強みを持つ研究助成機関とも積極的に連携する必要があります。多様な研究助成機関との連携を通して、ユニークな研究を、途切れさせることなく、柔軟に支援しながら、日本発のイノベーションを迅速に実現していきたいと考えています。
JST内部でも、基礎研究の中で実績の出てきたものをイノベーションに向けて加速し、応用研究につなぐようなことをダイナミックに進める必要があり、研究開発システムの改革を進めています。イノベーションの創生に向けてファンディング機関の責任は非常に大きいと感じています。
JST理事長 中村 道治
東日本大震災の発生より2年が経過しました。JSTでは、被災地における復興を科学技術の力で支えていくため、震災直後より、復旧・復興にすぐ役立つ研究成果を被害地域に実装する「緊急研究開発成果実装支援プログラム」や自然災害のデータの取得や問題解決のための緊急研究・調査を海外の機関と共同で実施する「国際緊急共同研究・調査支援プログラム」など、即効性を重視した取り組みを行ってまいりました。
そして、昨年度より、盛岡、仙台、郡山の3か所にJST復興促進センターを開所し、被災地企業のニーズと大学などの革新的技術を結び付ける「復興促進プログラム(マッチング促進、A-STEP、産学共創)」に着手しています。この3事務所には、現在18名のマッチングプランナー(目利き人材)を配置し、被災地の中小企業を中心に最適な研究開発に向け、産と学とのマッチング支援や「マッチング促進」への応募の支援などきめ細かな対応を行っています。これらの取り組みにより、水産・食品加工や農業などさまざまな分野で着実に成果が出始めています。「放射線計測・分析技術・機器の開発」では、米の全袋検査を行う機器など、すでに実用化されているものもあります。
被災地企業や産業団体、自治体からは、マッチングプランナーの活動に対し、大きな期待が寄せられています。震災からの復興・再生には、長期的な取り組みも不可欠です。じっくりと腰を据えて、被災地域の切実なニーズを見つけ、適切な技術シーズとの組み合わせに取り組んでいきたいと思います。