JST Newsは、独立行政法人科学技術振興機構(略称JST)の広報誌です。JSTの活動と、最新の科学技術・産学官連携・理数教育などのニュースを、わかりやすくご紹介します。

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科学技術振興機構 理事長・北澤宏一コラム

10月号 理事長茶話

―新理事長 中村道治からのメッセージ 

 10月1日付けで中村道治が新理事長に就任しました。


「失敗を恐れず、果敢に挑戦を」 

 理事長就任に当たり、ふと小学生時代のことを思い出しています。
 1つは小学2年のときに、教員の父親からわたされた「湯川秀樹博士」と「ノーベル」の伝記を夢中で読んだことです。前者は基礎科学の美しさが、後者は社会に役立つ技術の姿と、それぞれ違うことが紹介されていました。進学や就職など人生の節目節目で、この影響を交互に受けたように思います。もう1つは小学校の恩師からの年賀状で、「将来の夢として、中村君はお年寄りを介護するロボットを描いたが、それは実現しましたか」との問い合わせをいただきました。私は50数年も前に介護ロボットを考案したことと、それを覚えてくれた人のいたことが嬉しかったのです。
 初めから個人的な話題を持ち出したのは、科学と技術のバランスをよくみることや、若者に夢を与えること、科学技術による社会への寄与を頭に描くことが、まさにJSTの中核事業に重なると思ったからです。


続きは10月号Front Line News01をご覧ください。

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9月号 理事長茶話

―今月号で「中高生の部活動振興事業」を取り上げていますが、科学技術につながるような子どもの頃の思い出はありますか。

 「小学生の頃は工作に夢中で、杉鉄砲や竹トンボ、それからブザーやモーターなどを作って遊んでいました。中学生になってからは、トランジスタラジオなどですね。作り方の本もなく、原理も理解していませんでしたが、試行錯誤しながら設計することによって、より望ましい結果へ自ら変えていけることは、素朴でしたが新鮮な喜びでした。今思い返すと、工学の“最適設計”のようなことをやっていたことになります」

―それがエンジニアを目指すきっかけになったのですね。

 「私が大学に入学した頃は高度成長期の最中で、日本が『三等国』と評されていた戦後から、目覚ましい躍進を遂げていく時期にありました。科学技術の成果は新しい工業製品となり、産業が興り、生活スタイルはどんどん変わっていきました。工学は日本の生活を豊かにする“エンジン”だったといえるでしょう。私もエンジニアになって、国を豊かにする礎石になりたいと考えたのです」

―これからの科学技術に求められることは何でしょう。

 「科学技術の役割は、その国や時代によって変わってきます。これからの日本の科学技術は、精神的な豊かさも追求していかなくてはならないでしょう。真理の探究をすることと、科学技術を人類の未来にどう利用していくかを考えること、大きく分けてこの2つが精神的な豊かさにつながっていくと考えています。科学技術の役割を実感しながら、世代を超えて地球の未来をいかに共有するか、子どもたちと一緒に考えていくことが、科学技術コミュニケーションの重要な課題だと感じています」


聞き手:研究開発戦略センター 武内里香

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8月号 理事長茶話

―政府が現在策定中の第4期科学技術基本計画で掲げられている「知識インフラ構想」の背景には“今後の科学技術研究は電子化された大規模な情報が共有されることにより新たな価値の創造が進む”という認識があります。「知識インフラ構想」をどう実現すべきでしょうか?

 「まもなく人類の作り出す情報のすべてをメモリーに残せるほどに技術は向上してきているので、あらゆる文化、文明を後世の人間が知ることができるよう、全ての情報をアーカイブしておくことが有用だと思います。『着想のもとになるデータ』が検索できる形で存在することは非常に価値があります。
 また、ライフサイエンスのように爆発的にデータが増えている分野もあるので、『知識インフラ』の実現のためには、科学技術情報に特化するJSTだけでなく、そのほかの情報も扱う国立国会図書館や国立情報学研究所など、あらゆる関連機関が力を合わせて、データを徹底的に集めていくべきです。そのために、JSTはデータの統合利用に向けて先頭に立つ気持ちで理想の姿を追求する努力が必要でしょう」

―Facebookに代表されるネットワークコミュニケーションは、研究開発の場でも有効でしょうか?

 「研究開発における、情報交換の場として、ネット上の『出会いの場』も有効だと考えています。
 JSTが独立行政法人国際協力機構(JICA)と共同で実施している地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)は、日本と開発途上国の研究者が共同研究を行うプログラムですが、そこでのグローバルな情報交換を実現するために「Friends of SATREPS」というソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の試みをスタートさせました。会員も増え続けており、今後に期待しています」


聞き手:情報企画部 黒沢努

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7月号 理事長茶話

―産業界も巻き込んだ研究拠点形成は海外では盛んですが、日本ではそれほど活発ではありません。

 「国内には、世界的に優れた研究を行っている大学等がたくさん存在します。そのような大学を結節点とした全国ネットワークにより、各地の研究成果が産業界に生かされて社会に役立つよう支援していくことが重要だと考えています。産学連携コーディネータも、地域に限定した活動ではなく、全国規模で産業界と大学の橋渡しをすることが求められるようになると思います。また、知的財産の取り扱いも重要です。JSTでは、今年度より開始した「知財活用促進ハイウェイ」で大学等が保有する特許を分析し、特許マップや特許群として情報を提供しています。最近、異なる大学の関連特許をパッケージにして民間企業に売却するという取り組みも開始しました。
 これらにより、単一の技術や特定の地域内だけでの産学連携よりもさらに大きな価値を生み出すようなオープンイノベーションの実現に寄与できると考えています」

―大学等発ベンチャーへの支援については、いかがでしょうか。

 「米国には、ベンチャー企業を育て上げた資金力のある研究者が、次世代のベンチャー企業の開発初期段階に投資し応援するというベンチャーエンジェルの文化がありますが、日本にはありません。
 JSTは、ベンチャー企業を起業することにより、技術を実用化したいと考えている大学等の研究者に対して、起業前の初期段階から技術開発支援を行っています。その技術が大きく羽ばたくよう、昨年度より(株)産業革新機構との連携も開始しました。加えて今後は、経済産業省や中小企業庁等との連携により、的確に次のステップに橋渡ししていくことがますます重要になると思います」


聞き手:産学連携展開部 増渕忍

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6月号 理事長茶話

―科学技術に対する意識は東日本大震災をきっかけに変化したと感じますか?

 「今回の大震災では、自然の大きな力の前に、科学技術があまりにも無力であるということが示されました。また、科学技術のもつ危険な面が現れ、私たちの生活を脅かす深刻な事態となったことで国民に科学技術に対する不安や不信をよんでいます。私個人としては、科学技術界はまず反省からスタートせねばならないと感じています。
 一方で、高度な文明を維持していくためには、これからも科学技術を利用していく必要があります。それには、科学技術を社会が上手にコントロールしていく仕組みが大切だと思います」

―被災地が復興するためにJSTが果たす役割は何でしょうか?

 「阪神・淡路大震災からの復興では、「被災地を日本の最先端医療の中心地に」と、神戸医療産業都市構想が推進されてきました。今回の被災地ではどのような未来が描かれるのでしょうか。私はそのなかに「新エネルギーの中心地」といった言葉が入ると、地域に新たな雇用が生まれ、そこで生活するための収入の道が開かれると期待しています。
 JSTは科学技術を振興する役割を担っています。被災地が復興するとき、どのような未来を選ぶことができるのか、さまざまな未来への提案をJSTの研究開発戦略センター(CRDS)や社会技術研究開発センター(RISTEX)、低炭素社会戦略センター(LCS)などが行っていきます。さらに、この困難な時期に国民と科学者をつなぐコミュニケーションの仕組みづくりをすることも、JSTの大きな任務の1つです」


聞き手:産学連携展開部 松本葵

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5月号 理事長茶話

―東日本大震災の復興に当たり、JSTはどのような貢献をしますか?

 「まず、海外と共同する震災や放射能の調査、被災研究室の研究支援を行います。また、復興には災害に強く、生活・文化や教育の未来を先取りする町の設計が必要です。社会と技術をつなごうとするJSTの人的ネットワークとこれまでの検討成果をもって私たちはその計画づくりに参加します。社会技術研究開発センター、低炭素社会戦略センター、研究開発戦略センターなどを始め、蓄えたポテンシャルが役立ってほしいと思います。これらセンターや日本科学未来館によるホームページ上での相談や提言も行っているほか、緊急対応として地震・放射線被ばく関連の文献データベース無料公開も開始しました。
 復興のグランドデザインにはこれまでの知識だけでなく、社会と連携するさまざまな討議の場が必要になります。社会が選択すべき将来プランの選択肢を検討し提供する必要もあります。省エネルギーや新エネルギーに関する最先端の技術が使われていくはずですが、さらにその先の研究開発の同時進行も必要です。
 また、残念ながらこれから長期にわたり、土壌や水、植物などからの放射性物質除染の戦いが始まるでしょう。そのための試験研究が迅速に必要です」

―復興にあたり、低炭素化技術を生かしたエネルギー戦略の役割が重要なのですね。

 「復興特別区構想と連動することで、家で使用するエネルギーよりも、作り出すエネルギーのほうが多いプラスエネルギーハウス、海岸線の風力発電、メガソーラー、ミニ水力など復興地をポジティブ・エネルギー地域にすることが議論されるでしょう。家庭用蓄電池としてのプラグインハイブリッドカーや電気自動車の導入が復興地域で先行し、電力のスマートグリッド化が試行されると予想します。復興は日本の新しい姿の先取り、イノベーションそのものでもあります」


聞き手:研究プロジェクト推進部 原田千夏子

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4月号 理事長茶話

―日本における産学連携の現状についてお聞かせください。

 「国立大学は法人化して7年が経ちますが、法人化前に比べて現在の大学では、特許出願件数、企業との共同研究件数、大学発ベンチャー企業の新設件数が、めざましく増加しています。企業にはこのような日本の大学の変貌ぶりに注目し、これらの成果を活用してほしいと考えています。
 一方で、企業にとって必ずしも大学で生まれた研究成果を十分に活用できていないという現実もあります。最大の理由は、日本の企業が置かれている環境にあると考えています。すなわち、円高の影響により、海外に製造拠点を移す企業が増えており、大学で生まれた新しい技術を企業が活用する機会が減っていることが背景だと思います。また、企業が大学の新しい知的財産を育てていくだけの余力がないといわれています」

―企業と大学の密接な連携を推進するために、JSTはどのような役割を果たしますか?

 「企業と大学の出会いの場が必要だと考えています。JSTは技術移転の早い段階(企業が関心を示す段階)から事業化段階までの幅広いフェーズについて、それぞれの段階に応じたタイプの研究開発費で支援する「A-STEP」、大学の知的財産を集めてグルーピングし必要な知的財産を束ねて企業が活用できるように支援する「科学技術コモンズ」、企業に向けて大学等の研究成果を発信する「新技術説明会」などのさまざまな産学連携支援活動を行っています。これらの仕組みに企業と大学が共同で参加することで出会いの場が生まれ、企業と大学との密接な連携の後押しになると考えています。また、全国には1500人ほどの産学連携コーディネータがおり、両者のマッチング活動を行っています。シーズ発掘を目指す「A-STEP探索タイプ」などはこのための好適なツールになっていると考えています。さらに、事業化を加速するために、投資機関である(株)産業革新機構との連携も走り始めました」


聞き手:産学連携展開部 東中資喜

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