JST Newsは、独立行政法人科学技術振興機構(略称JST)の広報誌です。JSTの活動と、最新の科学技術・産学官連携・理数教育などのニュースを、わかりやすくご紹介します。

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  • 理事長茶話
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科学技術振興機構 理事長・北澤宏一コラム

3月号 理事長茶話

―科学研究の「よし・あし」の判断はどのように下されるものですか。

 「科学研究の「よし・あし」は科学的価値(サイエンスメリット)によるものと、社会的課題を解決するものの2つの基準により判断されます。前者は研究者の自由な発想に基づく研究をピア・レビューにより判断し、科学研究の裾野を広げるもので、主に日本学術振興会(JSPS)の科学研究費補助金(科研費)による研究はこの価値で判断されるものと考えられます。
 JSTは、後者について支援します。なかでも、現在の日本の科学技術を展開することで解決できると考えられる研究領域を設定し、新しい着想をもった優れた研究者を支援して、世界をリードする研究を進めています」

―現在の科学技術で解決できるかどうかの判断は。

 「JSTは、日頃から研究開発戦略センター(CRDS)が中心となって、現在の科学技術全体を俯瞰(ふかん)するためのワークショップの開催や、俯瞰マップの作成などを行っています。これらを通して、研究を実施した場合の、海外と比較した日本の優位性や、成果のインパクトの大きさなどを大局的見地から見極めようとしています。この成果をまとめ、戦略目標を策定する政府に、提言しています。
 JSTは、このように科学技術全体を眺めることで、社会や産業界が解決を期待する課題について、その実現可能性を判断し、効果的に科学技術研究を支援します」

―日本が弱い分野についてはどうするべきだと考えますか。

 「人材、資金ともに限りがあるので、世界のトップを目指す研究を選択し、集中的に支援を行うという決断は、資源の有効配分という観点から重要と考えます。しかしながら、社会的に重要ではあるけれど現時点で研究者層の薄い分野もあります。そのような分野については、将来を見据えた人材育成の場を形成するアプローチが効を奏しそうです」


聞き手:研究領域総合運営部 中井祐輔

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2月号 理事長茶話

―日本が明るい未来を作るためには、「第4の価値」を創出すべきだとお考えだと聞きました。「第4の価値」とは、どういうものでしょうか。

 「「日本には閉塞感が漂っている」とよく言われます。なぜでしょうか。私は、若者に職がないこと、つまり失業率が高いことが大きな要因だと考えています。
 こうなったのは、輸出産業の国際競争力が弱くなったからだという考え方もあります。けれども私は、日本の貿易黒字と対外所得黒字が膨らんだからだと分析しています。その結果、円高となり、企業は海外に進出し、国内の雇用が減ってしまったのです。また、勤勉な国民が老後に備えてせっせと貯蓄に励み、投資したりモノを買ったりしないことも大きな要因です。
 これらを克服してGDPを持続的に伸ばすためには、内需が増えなくてはなりません。国民が喜んで買ってくれるものを生み出す必要があります。
 日本は既に、大量生産・大量消費に別れを告げつつあります。これからは新しい価値観による国内市場を作り出さなくてはいけません。この価値観こそが「第4の価値」です。
 「第4の価値」とは、「環境」「心」「美しさ」「正義感」などをキーワードとした、社会的・精神的価値です。私は、国民の間でこういった価値観の芽が出始めていると感じています」

―「第4の価値」のためにJSTはどういう貢献ができるのでしょうか。

 「例えば「環境」は失業をなくす規模の新規市場を開拓できます。
 JSTは2010年から低炭素社会づくりを目指した事業を開始しました。「環境」に貢献するのはこの事業にとどまりません。製品の小型化や材料の軽量化などにつながるさ まざまな研究開発の推進を通して、JSTは環境負荷の低減に寄与していけるでしょう。そして、国内にとどまらず、グローバルな環境問題の解決に役立っていきたいと考えています」


聞き手:産学基礎基盤推進部 嶋林ゆう子

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1月号 理事長茶話

―科学技術振興機構理事長・北澤宏一インタビュー  JSTが“専門集団”でなければならない理由

 1月号は理事長インタビューをお届けします。

 閉塞感が続く日本にあって、世界をリードする存在である科学技術にかけられる国民の期待は大きい。科学技術創造立国としてさらに飛躍するために、JSTはどんな施策にどう取り組もうとしているのか。JST理事長 北澤宏一に、さきがけ研究総括の佐藤勝昭が迫った。


本文は1月号Feature01をご覧ください。

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12月号 理事長茶話

―JSTは研究開発の推進だけではなく、科学技術情報の基盤整備や科学技術外交、科学コミュニケーションの推進など、さまざまな事業を実施しています。なぜ1つの組織でこのように多種多様な事業を実施しているのでしょうか。

 「「JSTとは何か」ということをまずお話しします。JSTは日本の科学技術を振興するうえで必要なことすべてを対象とする組織です。
 日本の科学技術を振興する、という観点から考えると、大学や研究機関、企業の研究所など、じつは日本にはプレイヤーとしての機能はほとんど備わっています。しかし一方で、既存の組織だけでは対応しきれず、その時々によって新たに必要となる機能というものもあります。民主主義の時代になり、国の健全な発展のために科学コミュニケーションの重要性が顕在化したことは、最たる例ですね。JSTは、このように時代によって移り変わる新たな要求に素早く対応することができる調整機能を持つ組織であり、これこそがJSTの強いアイデンティティーなのです。
 政権交代などによって科学技術政策の方針転換がなされた場合には、その方針に沿った運営をしていくこともまたJSTの役割です。政策に左右されない普遍的に重要な研究支援は日本学術振興会(JSPS)などの組織が担うといった形で、各組織がそれぞれの役割を果たし、全体として日本の科学技術政策を実施していくものと考えています。
 日本の科学技術振興に必要な事業を多角的に実施するJSTには、多くの経験や知識を有する豊富な人材がそろっています。このような人たちが異なる事業間で強く連携することによって、時代とともに移り変わる多様な要求への効果的な対応を可能にしているのです」


聞き手:経営企画部 小宮泉

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11月号 理事長茶話

―鈴木章氏、根岸栄一氏がノーベル化学賞を受賞しました。

「たいへん喜ばしいことです。おめでとうございます」

―2000年以降、自然科学系で9人の日本出身者がノーベル賞を受賞しました。これは米英に続いて第3位です。しかし、今後もノーベル賞を継続して受賞できるのか不安視する声もあります。

「今後も日本出身者のノーベル賞受賞は続くでしょう。2006年以降だけでも、大阪大学審良静男教授の自然免疫研究、京都大学山中伸弥教授のiPS細胞作製、東京工業大学細野秀雄教授の鉄系超伝導発見、京都大学北川進教授の「配位空間の化学」開拓など、世界をフィーバーさせる研究成果が日本から毎年出ています。また、ロベルト・コッホ賞という世界的な賞を、審良教授と山中教授、さらに東京大学河岡義裕教授が2年おきに受賞しています。彼らは現在進行形の研究で世界を興奮させるスーパースターです。私は、非常に心強く感じています」

―長期的にはいかがでしょうか。これからスターになるべき若手研究者の待遇が「ポスドク(任期付き博士研究員)問題」として指摘されています。

「近年、若手研究者の流動化によって、研究のポテンシャルが上がり、論文数も増加しています。また、さきがけなどの競争的資金制度、特任教員といった雇用制度を通じて、多くの若手研究者が独立して活躍しています。
 研究職は、漫画家やスポーツ選手などと似て、努力、実力、運が必要とされますが、自身の夢を追うことができる職業だと思います。研究者を志す者は覚悟を持ったキャリア選択をする必要があります。また、雇用する側や研究費配分機関は若手研究者に、多様なキャリアパスのチャンネルを提供できるシステムを構築すべきでしょう」


聞き手:研究推進部 眞後俊幸

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10月号 理事長茶話

―日本の科学技術は国際社会のなかでどのような役割を果たしていますか。

「文化やスポーツを通して世界の国々が交流するように、科学技術を通じて国同士が良好な関係を構築することができます。そのための科学技術外交の推進にJSTが貢献しています。
 外交の基本として国家間のvisibility(可視性)を向上させる必要があります。日本とある国の研究者が共同研究を行った場合、シンポジウムや共同作業を通してお互いの国のvisibilityが向上します。科学技術共同によって日本を存在感のある国にすることは大切な外交の一歩です。」

―JSTが国際社会に貢献している取り組みについてお話ください。

「国境を越えた地球規模の課題に対して、国際社会が同じ方向を目指すことが理想です。JSTは国際社会に1つの目標を設定し、それを目指すスキームを作る役割を果たそうとしています。たとえば、今年5月にJSTが開催した国際シンポジウム「低炭素社会を目指すグリーン・イノベーション促進のための国際協力」では、世界各国の公的研究費配分機関(ファンディング機関)の代表が集まり、「ファンディング機関間の国際協力によってグリーン・イノベーション促進のための課題や方策を検討する」という提言を出しました。
 また、JSTと国際協力機構(JICA)が連携して行う地球規模課題対応国際科学技術協力事業は科学技術研究と政府開発援助(ODA)が融合した世界初の取り組みです。この事業は相手国からの評判も良く、日本の研究者の研究にも有効なため、規模も拡大しています。そして、現在では機関をこえた連携の仕組みに各国が関心を持ち、学ぼうとしています。
 JSTはこのようないわゆる国際事業にとどまらず、あらゆる事業において国際化を進め、国際社会に貢献していきたいと考えています」


聞き手:国際科学技術部 吉田有希

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9月号 理事長茶話

―高齢化社会の問題にJSTはどのように貢献できるのでしょうか?

「JSTの研究は課題解決を目的として知を創出していくことが特色です。これまでにも人工股関節の開発をはじめとする個別のプロジェクトでは大きな成果を上げてきました。しかし今、この問題に対してはもっと深く考え直す時期に来たのではと思っています。
 いずれは世界各国で高齢化社会への対処が必要となるでしょう。この問題に一足早く直面した日本は、実は世界の研究動向をいち早くつかんだとも言えます。ですから日本が対応策を確立できれば、それは10年、20年先において強みになります。公害問題やオイルショックを経験した日本がクリーンでエコな産業で世界を牽引したように、高齢社会に適応するシステム・技術でも世界をリードするようになるのです。
 JSTは産学共創・S-イノベという、大学や産業界の異なる視点を持つ人々が考えを交換するプラットフォームを整えています。この制度を充実させて、産学官の知を結集することで、JSTは高齢化社会に対処しようとしています。特にこの問題の解決には、要素技術だけではなく、総合的なシステム技術の創出も必要になるので、JSTのこの制度が有効です」

―科学技術と共にある高齢社会についてお話しください。

「医療の進歩で健康に過ごせる期間が延びており、まだまだ社会に貢献したいと思う人が増えています。これからは、そのような『元気な時間』をより長くする科学技術が必要でしょう。JSTでもまず、健康状態の観察から技術開発が進んでいます。
 たとえば自宅で簡単に健康状態をチェックできるセンサ。それを記録分析し、必要とあればかかりつけの医者に通信・相談するシステム。健康に関する膨大なデータの蓄積をもとに、病気にかからないようにガイドする『予防医学』。
 さまざまな技術を駆使することで、これらのある未来を創ることができます。私たちは今、その入り口に来たところです」


聞き手:研究プロジェクト推進部 米澤崇礼

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8月号 理事長茶話

―研究情報の発信・流通においてJSTはどのような役割を担っていきますか?

「科学には先人の業績の積み重ねの上に発展するという特徴があります。したがって、研究成果がまとめられた論文や特許をはじめとする情報の流通は科学の発展に欠かせません。
 世界の情報流通を取り巻く環境はここ20年で大きく変わりましたが、日本は国全体の戦略を定めることができず、出遅れてしまいました。しかし、それを取り戻すための取り組みが始まっています。
 たとえば、ライフサイエンス分野は遺伝子や病気に関する大量のデータを解析して研究が進んでいきます。JSTでは、オールジャパンでライフサイエンス分野のデータベースを統合するための準備室を設置して、研究者がデータを利用しやすい環境を整えていきたいと考えています。
 また、論文をデジタル化し、流通・利用しやすくすることも大切です。日本の論文のデジタル化率は欧米や中国よりも低いのですが、JSTでは日本で発行される論文のデジタル化を進めるJ-STAGEというシステムを10年前から提供しています。加えて、過去に発行された論文についてのデジタル化も進めています。ともにそれぞれの論文に全世界で利用できる固有のIDをつけ、文字情報を検索できるかたちで世界に向けて発信し、一般に公開しています。さらに、世界最先端の電子ジャーナル編集・公開機能を備えた次期システムを、学協会をはじめ、大学や関係機関とも連携し、開発していきます」

―文献情報提供事業についてお聞かせください。

「第2回目の事業仕分けで『民間の判断に任せる』という裁定を受けた科学技術文献情報データベース JDreamII等の有料サービスについては、民間の外部有識者の意見をもとに方向性を検討していきます。企業が実施するビジネスと国が担わざるを得ない公共サービスとを上手に線引きして、より合理的に進めていきたいと思います」


聞き手:研究基盤情報部 日高真子

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7月号 理事長茶話

―科学技術人材の裾野を広げるにはどのような取り組みが大事だとお考えですか。

「科学技術に対する家庭での明るいイメージが欲しいところです。1つは、科学技術を家庭でも身近に楽しみ、話をする感覚が欲しい。もう1つは、科学技術関係の進路や職業を選択することが子どもたちの夢の実現につながると思えるようにしたい。そのためには子どもの成長にあわせて科学技術にふれあう機会がたくさん欲しいですね。例えば、野球が好きな子どもの場合は、甲子園出場やプロ野球選手を夢見て、日々、汗を流せる草野球の環境があります。将来のキャリアを形成するうえで多感な中学、高校時代はとりわけ重要です。
 JSTでは、先端の科学技術を分かち合うための日本科学未来館を運営し、また青少年のためにサイエンス・パートナーシップ・プロジェクト(SPP)やスーパーサイエンスハイスクール(SSH)、国際科学オリンピック支援などを通じて、未来の科学技術人材育成を応援しています」

―JSTというと最先端科学技術の支援をしているというイメージがありますが。

「JSTは課題解決型基礎研究を積極的に支援し、これまでかなりの成果をあげてきました。人材育成という視点で別の言い方をすると、科学技術に携わると未来を変えることができるというロールモデルを示してきたと言うこともできます。京都大学 山中伸弥教授によるiPS細胞作製の成功は大きなニュースとなり、これを機に国民の科学技術への関心がおおいに高まりました。JSTには、このようなロールモデルを示し続けることが求められています。科学技術に携わる職業は、プロスポーツ選手などと同じように社会に夢を与え、大きな影響を及ぼす素晴らしいものです」


聞き手:国際科学技術部 海邉健二

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6月号 理事長茶話

―サイエンスコミュニケーションについて、考えを聞かせてください。

「サイエンスコミュニケーションはいま、新しい局面を迎えています。理科のおもしろさを伝えるにとどまらず、社会の課題解決に向けて、ポジティブな未来像を若い人たちと一緒に描いていくという新たな役割が生まれています。
 鳩山政権が「二酸化炭素(CO2)を2020年までに1990年比25%削減」という目標を掲げました。「新エネルギーと資源リサイクルで夢の地球環境を実現しよう」と若い人たちに思ってほしいですね。
 “科学技術は国の礎である”と無条件で受け入れられる時期が、一国の成長過程には必ずあります。いまの中国がそうでしょう。日本も1970年代まではそうでした。しかし、国が発展して豊になると、忘れられてしまうようです。この傾向を適度にコントロールできた国を私はまだ見たことがありません。サイエンスコミュニケーションが挑戦する課題はとても大きいといえます。」

―JSTは低炭素社会実現に向けてどのような役割を果たしますか?

「低炭素化に向けて社会を変革していこうとする、さまざまなムーブメントのプロデューサーとしての役割を果たしたいですね。サイエンスコミュニケーションを通じて。JSTは研究開発資金を配分するだけの組織ではないのです。たとえば、低炭素社会戦略センターは、持続可能な明るい低炭素社会の姿を具体的に描き出し、社会にムーブメントを引き起こそうとしています。
 こうしたムーブメント作りと並行して、研究開発投資も、世界の期間と協力しながら行っていきたいと思います。先日(5月17日)の国連大学でのシンポジウムで、世界9カ国のファンディング機関が集まり、低炭素化研究で協力していこうと確認し合ったところです」


聞き手:研究開発戦略センター 嶋田一義

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5月号 理事長茶話

―第2回目の事業仕分けが終わりましたが、率直な感想をお聞かせください。

「大きく分けて、2つの結論が出たと考えています。1つは、JSTの事業は全体として継続する、しかし、科学技術戦略の策定方式そのものを抜本的に見直し、そのなかにJSTを位置づけていくということ。もう1つは、事務所、職員数なども含めて、整理統合を図り、管理経費縮減を継続するということ。そして、情報事業は全体として縮減・高効率化、有料の文献情報提供事業については『民間の判断に任せる』という仕分け結果でした。
 科学技術政策全体を見直すという作業は、じつはJSTの任務の範囲外です。私たちは、政策の決定を受けて、それを実施する組織だからです。しかし、JSTの事業仕分けの時間帯で、この『総合科学技術会議の在り方を中心に科学技術戦略を抜本的見直し』という議論が出たということは、日本の科学技術政策を実施するうえでJSTが重要な役割を担っているとの認識が浸透してきたからだと思います」

―もう1つの、事業の効率化はどうでし ょうか?

「科学技術といえども、聖域ではありません。税金を使っている以上、ムダは徹底的に削減するべきです。JSTでは数年前から外部領域事務所の廃止など、管理コストの削減を続けてきました。最近も、事務経費の25%削減による研究費への充当、公用車の全廃などを行いました。これからも、東京事務所の整理統合などを進めます。
 今後、日本の科学技術政策が見直されるなか、『科学技術は重要』という認識は、仕分けWG評価者とも共有できていると感じました。日本の科学技術研究をより実りあるものにしていくために、そして青少年が科学技術を通じて未来への夢を持てるように、事業の効率を上げながら、努力していく――この、JSTの果たすべき役割は重要だと思います」

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4月号 理事長茶話

―4月を迎え、新たに研究職に就く人たちがいます。一方、最近では、若者が理系・研究職に進みたがらない傾向もあると聞きます。

「国が豊かになれば、そういう傾向はあるのではないでしょうか。私たちが高度経済成長期だったときには、理系でさえあれば仕事がある、この国を支えていける、という気構えが若者にありました。いま、中国が同じような状況を迎えていますね。中国の若者たちの科学技術立国にかける思いは、たいへん熱いものがあります。こういう話をすると、すぐに「中国に追い抜かれるのでは」と危機論を唱える人もいますが、日本は長年、培ってきた技術を生かしていくことを心がけて、必要以上に騒ぐことはないと思います」

―雇用や収入面もありますが、そもそも、いまの日本の若者は研究職にあまり魅力を感じないのではないかという気がします。

「いま、世界で問題になっているのは低炭素社会の実現です。環境技術については、日本は世界のトップといえます。たとえば、ライフサイエンスの力で植物の光合成を促進し、二酸化炭素の吸収率を上げようという研究がありますが、この技術は、日本のみならず、中国やアメリカ、インドなどへも移転され、そこには新たな市場も生まれるでしょう。 これは、たいへん夢のある話です。大学や研究機関ではこんなことをやっている、世の中を変えるこんな研究がある、ということをもっと呼びかければ、若者たちも「よし、やるぞ!」という覇気をもって、理系や研究職に魅力を感じるようになるのではと思います。二酸化炭素削減は、科学が立ち向かうべき大きな壁ですが、同時に、日本の若者たちに未来への挑戦の夢を与えるものでもあるのです」

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編集発行/独立行政法人 科学技術振興機構 広報ポータル部広報担当
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