その他のお知らせ
研究力復活への取り組み
近年、我が国の科学技術力の低下について多くの懸念が表明されており、その一例として国際的な科学論文の競争力の低下が挙げられています。文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が2023年8月に公表した「科学技術指標2023」によれば、我が国のトップ10%被引用論文数は、2022年の12位から13位に後退し過去最低の順位となりました。これは研究活動の国際的な影響力を計る指標の一つに過ぎませんが、されど我が国の研究論文に対する国際的な注目度の低下を端的に示すものの一つであります。
こうした状況を打開するため、2024年3月11日(月)に「緊急シンポジウム ~激論 なぜ、我が国の論文の注目度は下がりつつあるのか、我々は何をすべきか?~」と題するシンポジウムを開催し、科学技術の研究者・関係者がそれぞれの立場から行うべきことについて議論を行いました。
JSTは、日本の研究力を復活させるため、ステークホルダーそれぞれが自分達ができることを行うことが最も重要であると考え、今回のシンポジウムにおける議論を参考にした取り組みを率先して行ってまいります。また、関係府省に対しても必要な申し入れを行うとともに、大学等研究機関、研究者コミュニティ、研究者個々人に取り組んでいただきたいことについてもJSTから積極的に発信してまいります。
シンポジウムでの議論、ご意見
今回のシンポジウムでは、世界と世界と伍して活躍されている各分野のトップ研究者を迎え、研究者の視点から我が国の研究の現状についての危機意識やその原因、この状況を打破するために何をすべきと考えられているかなどについて講演いただきました。また、パネルディスカッションでは、シンポジウム参加者も交えて意見交換を行い、「今、我々はどうすべきか」について議論を行いました。
- 開催報告
- 研究力復活へ、それぞれができることから取り組もう~JST緊急シンポジウム開催報告~ 2024年04月09日
- 資金配分機関向けのご意見等
- 資金配分機関に対する意見~研究力復活へ、それぞれができることから取り組もう~ 2024年05月24日
- 研究者・研究コミュニティ向けのご意見等
- 研究者の皆様へ~研究力復活へ、それぞれができることから取り組もう~ 2024年05月07日
JSTでの取り組み状況
今回のシンポジウムでは、JSTを含む資金配分機関において取り組むべき内容も多く議論いただきました。JSTでできることについては、検討し直ちに実施します。JSTでの新たな取り組みの進捗や、各事業における支援状況について紹介いたします。
研究時間の確保、研究者の負担軽減(取り組み中)
- ・申請書、報告書の合理化、簡素化
- ・研究費申請、審査の効率化と低負担化
シンポジウムでは、研究者の負担を軽減し研究時間を確保するため、申請書や報告書を合理化し、研究申請・審査の効率化と低負担化を図るべきであるとの議論がなされました。
この議論を受け、ファンディングの申請、報告にかかる時間短縮のため、全ての申請書、報告書フォーマットのゼロベースでの見直し・共通化に早急に着手し、研究者にも意見をいただきつつ実行いたします。
現在、JSTに部署横断の検討体制を構築し、国内外の事例調査やフォーマットの作成、研究者へのヒアリングを進めています。(2024年8月)
研究活動の国際化の一層の推進
・トップアカデミア、グローバル企業との連携
シンポジウムでは、グローバルな課題の解決には知恵の多様化が必須であり、国家を超えて連携協力をすることも重要であるとの議論がなされました。
<本項目に関連する取り組み例>
戦略的創造研究推進事業(先端的カーボンニュートラル技術開発)ALCA-Nextにおいて、イギリスの英国研究・イノベーション機構(UKRI)傘下の工学・物理科学研究会議(EPSRC)とともに、半導体分野で共同研究を支援する等の取組を行います。
・国際交流への支援、実施しやすい制度設計
シンポジウムでは、国際頭脳循環のサークルに入るため、国際交流への支援や実施しやすい制度設計が必要との議論がなされました。
<本項目に関連する取り組み例>
先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)において、国際共同研究を通じて我が国と科学技術先進国・地域のトップ研究者同士を結び付け、我が国の研究コミュニティにおいて国際頭脳循環を加速することを目指しています。日本側研究チームには相手国へ渡航する若手研究者等の参加を必須としています。また、最先端な研究開発につながる国際的ネットワークの構築・拡大や国際頭脳循環を促進し、国際的なトップ水準の研究機会を若手研究者等へ提供する等の若手研究者育成を目的として、直接経費の7割以上を目安に使用するものとしています。
日ASEAN科学技術・イノベーション協働連携事業(NEXUS)では、国際共同研究や人材交流・育成等、相手国ニーズに応じた柔軟で幅広い取組を支援予定です。
・国際ワークショップ主催のための組織的、包括的な支援
シンポジウムでは、日本のプレゼンスを高めるために国際ワークショップ開催は重要であり、開催のための組織的、包括的な支援も必要との議論がなされました。
<本項目に関連する取り組み例>
戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)CREST・さきがけ・ACT-Xにおいては、領域の責任者である研究総括が領域会議等で継続的に研究者に国際化を働きかけ、研究総括の判断により、各研究領域の予算から柔軟かつ効果的に研究費を追加配賦しています。また、同事業ERATOにおいては、プロジェクトの総責任者である研究総括のリーダーシップによる国際ワークショップ開催等を、研究総括の所属機関とJSTが協働でプロジェクト運営にあたる「協働実施体制」のもとで包括的に支援しています。
研究ビジョンの設計、共有
・審査者(PM等)の専門性の確保、各専門分野におけるビジョンの策定、提示
シンポジウムでは、各研究分野における第一人者が分野全体を牽引するビジョンを示すこと、競争的研究費の審査者として高い専門性を持つ研究者を選任し、分野を俯瞰するビジョンを持って審査を行うことの重要性が指摘されました。
<本項目に関連する取り組み例>
① 国全体における各種事業・プログラムの策定、戦略立案におけるビジョンについて
研究開発戦略センター(CRDS)に先端科学技術委員会を設置し、国内外の重要研究開発分野における最先端の科学技術に関する知見を共有し、国際的な視点を持って意見交換等を行うことを通じて、今後を展望するなど、JSTの事業運営や調査・分析活動に資する情報を収集・提供しています。
この情報は、CRDSにおいて実施している科学技術分野の俯瞰報告や戦略プロポーザル等の調査検討にも反映されるとともに、それらの成果は関係する府省や幅広い産学官の関係者に提供され、科学技術イノベーション政策の策定や、文部科学省が定める戦略目標等、関係府省における各種事業・プログラムの策定、戦略立案の基礎資料等として役立てられています。
② 個別事業の審査者の示すビジョンについて
戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)CREST・さきがけ・ACT-Xでは、戦略目標の下で各プログラムの特徴・機能を最適に組み合わせて研究領域が設定されます。各領域には分野の第一線で活躍する研究者が領域の責任者として研究総括に選定され、研究総括が研究領域の運営・選考方針を策定、提示し研究領域のマネジメントを行います。
次世代人材育成
・若手向け研究費の充実(独創性を活かす自由度の高いもの等)
シンポジウムでは、日本初の独創的な研究・アイデア創出には若手の活用が不可欠であり、若手向け研究費の充実が必要との議論がなされました。
<本項目に関連する取り組み例>
創発的研究支援事業、次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)、国家戦略分野の若手研究者及び博士後期課程学生の育成事業(BOOST)等において、若手研究者や博士後期課程学生の自由で挑戦的・融合的な多様な研究を支援しています。
戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)さきがけ・ACT-Xにおいて、我が国の重要課題の克服に向けて、若手ならではの独創的・挑戦的な個人型研究を支援しています。
次世代研究者挑戦的研究プログラム等、博士後期課程学生支援関連事業
・独立支援の拡充による独立意欲、向上心の醸成
シンポジウムでは、若手の活躍に向けて、独立支援の拡充による独立意欲、向上心の醸成が重要との議論がなされました。
<本項目に関連する取り組み例>
創発的研究支援事業においては、採択された研究者の所属機関に対して、研究者の置かれた状況に応じた、きめ細やかな支援を行うことを期待しています。研究者が創発的研究に集中できる研究環境を確保するため積極的かつ秀でた支援を実施した所属機関に対する審査の結果を踏まえ、研究環境改善のための追加的な支援(研究環境整備支援)を実施します。
また、戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)さきがけにおいては、独立を促すことにより、採択された研究者の能力をより一層伸ばしていただくことを目的に、採択時または研究期間中に研究者が自立的に研究を行うために必要な環境整備費を対象とした、研究費の追加支援(さきがけスタートアップ支援)を実施しています。
研究費の確保
・科研費以外の競争的研究費における自由発想研究の支援
シンポジウムでは、新たな研究・イノベーションが価値を生む状況において、新しい芽を作る研究も重要であり、科研費以外の競争的研究費における自由発想研究の支援が必要との議論がなされました。
JSTの実施する事業は科学技術イノベーション政策全体のポートフォリオの中でそれぞれ固有の目的をもって実施され、予算が措置されています。事業の趣旨を応募者・採択者にも明瞭にし、事業目的に沿った支援を行うことが重要であると考えています。
<本項目に関連する取り組み>
創発的研究支援事業は、既存の枠組みにとらわれない自由で挑戦的・融合的な多様な研究を支援するため令和元年度補正予算により開始した事業で、これまで約750名の研究者を支援してまいりました。令和4年度第二次補正予算により、令和5年度以降の公募継続が決定し、さらに多くの研究者の支援が可能となりました。