成果概要

脳指標の個人間比較に基づく福祉と主体性の最大化5. 個体間比較可能な報酬の主観的価値表現の齧歯類神経システムの包括的理解

2022年度までの進捗状況

1.概要

齧歯類を用いて、ヒトやサルよりもさらに詳細な神経メカニズムを調べるための準備を進めながら、課題実行中のラット(10頭)の前頭前皮質から高密度集積電極(ニューロピクセル)を用いて同時に多数記録した神経活動の解析を進めています。

2.2022年度までの成果

(1)古典的条件付けにおける報酬の主観的価値表現に関する脳指標計測のための機器導入及び、人員の配置と計測最適化の開始
①「脳皮質と脳深部の同時計測のための機器の導入」:脳深部用のニューロピクセルに加え、脳皮質計測機器としてワイドフィールド顕微鏡の導入を完了しました。
②「計測最適化のための予備実験の開始」:神経活動計測のための蛍光タンパク質であるGCaMP6を発現するアデノ随伴ウイルスベクターを大脳皮質に打ち込み、GCaMP6の輝度変化を開窓部から観察することに成功しました。
③「人員配置(研究員1名)の完了」:マウスを用いた視覚心理学的実験、光学装置を用いた測定実験、動物行動の課題設計などの経験豊富な博士研究員を、令和5年3月1日付で雇用しました。

(2)オペラント条件付けにおける行動や報酬への欲求に関する生理学的データ計測
ボタン押しによって即時に報酬を得られるFR1課題遂行中に内側前頭前野からの神経活動記録を行いました。十分な訓練→ボタンを押しても報酬が出ない「消去」→もう一度報酬が出る条件に戻すという、全タイムコースを通じて報酬の主観的価値が変化するような記録セッションを10頭のラットに対して行い、解析を継続しています。

3.今後の展開

報酬の主観的価値がどのように脳内で表現されているかをラット脳において高密度・高解像度に計測します。課題としては古典的条件付けなどラットでも実装可能な課題を用います。このために、遺伝的に導入可能な各種蛍光プローブ導入手法の確立を行います。また、オペラント条件付けで得られたデータの解析を引き続き進めます。さらに、仮想現実システムを利用してヒト研究と比較可能な確率探索課題を開発していきます。
(田中康裕:玉川大学)