成果概要

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脳指標の個人間比較に基づく福祉と主体性の最大化[2] 社会における喜びと志の発見システムの開発と更新

2025年度までの進捗状況

1. 概要

福祉と主体性の観点から個人の主観的な喜びや志を最大化するための方策として、バーチャルリアリティ(VR)技術を活用した仮想体験の創出システムの実現を目指します。モビリティ体験における志と喜びの相互関係のモデリング、個人の福祉・主体性に結びつくような喜び・志を発見するための数理的方法論を、VR内の体験実験を通じて確立します。これにより、個人の体験の最適化からスマートシティで暮らすグループ全体の体験の最適化手法を確立すると同時に、リアルな生活環境における脳指標計測の場を提供します。最終的に、ユーザがAIシステムや他者によるサービスに過剰に依存するのではなく、自らの意志で主体的に社会活動を営む喜びの支援システムの実現を目指します。

図1
図1:構築したVR体験の呈示と行動記録システム

2. これまでの主な成果

仮想的な旅行体験中の自主性と志と喜びの相互関係の関係性分析

これまでに開発してきた、VR空間における仮想体験プラットフォーム(図1)を用いて、仮想旅行体験の後のユーザの心理的な状態(志や喜び)を分析する実験を研究開発課題3-2のメンバーと共同して進めました。
2025年度では、30名を超える参加者に体験していただき、仮想旅行体験の最中に写真を撮るという自主的な行動、頭の中に作られる場所の記憶(認知マップ)の正確さ、そしてその人が社会の中でどのような可能性を持って行動できるかを示す指標(ケイパビリティインデックス)との関係を分析しました。その結果、VR体験に強く入り込む感覚が高い人ほど、ケイパビリティインデックスも高い傾向があることを確認しました。また、認知マップの正確さそのものには大きな差は見られなかった一方で、場所を思い出す反応の速さについては、自ら主体的に行動した場合にやや高まる傾向が見られました。現在は、こうした行動データに加えて、旅行体験後に計測したMEG(脳磁計)やfMRI(機能的磁気共鳴画像法)の結果も踏まえながら、喜びや志に関わる脳活動の特徴を明らかにする研究を進めています。

教員の主体的な授業改善を支える行動の質の可視化と振り返り支援システムの開発

小学校における教員の授業を音声や映像から記録・分析し、授業改善に役立つ気づきを分かりやすく返す「授業センシングシステム」の開発と実践を進めました。これにより、これまで経験や勘に頼りがちだった授業の振り返りを、客観的で分かりやすい指標に基づいて行えるようになりました。実際の新任教員の授業で活用したところ、教室全体への目配りや問いかけの質に改善が見られ、教員自身が自らの授業を見直し、主体的に工夫を重ねる意欲を支える有効性が確認されました。今後は、このような人の行動や意欲の変化を丁寧に捉える技術をさらに発展させ、一人ひとりの主体性とよりよい社会参加を支える仕組みへとつなげていきます。

図2
図2: 授業の質の可視化と振り返り支援システムの概要

3. 今後の展開

今後は、VR環境における主体的な行動、体験への没入感、認知マップの形成、ケイパビリティインデックスの関係をさらに詳しく明らかにするため、MEGやfMRIを用いて計測した仮想旅行体験の後に生じた脳活動の変化データを分析し、喜びや志の主観的な体験が脳内でどのように表現されるかを分析していきます。また、社会実証実験として、教員の授業の質の振り返りシステムと脳活動計測分析を組み合わせることで、より科学的な観点から教員のウェルビーイングを支えるシステムの開発を目指します。加えて、従来の椅子に座ったまま、あるいはベッドに寝たまま行う脳活動計測から、実際に身体を動かしながら活動している状況での脳活動計測へとシステムを発展させ、仮想空間上でのモビリティ体験が喜びと志に与える影響をより深く分析していきます。
最終的には、これらの成果を統合し、2050年におけるウェルビーイング社会を支えるために、ユーザ個人にとって相応しい喜びと志の発見を支援するVR経験を提供できるアシストシステムの実現を目指していきます。

(稲邑 哲也:玉川大学)