成果概要

多様なこころを脳と身体性機能に基づいてつなぐ「自在ホンヤク機」の開発6. 「自在ホンヤク機」にかかわるELSIの検討

2022年度までの進捗状況

1.概要

研究開発テーマ6では、「自在ホンヤク機」の開発と社会実装に伴う倫理的・法的・社会的な課題(ELSI)を明らかにします。これにより、「自在ホンヤク機」が広く社会的に利用される環境づくりが期待されます。

プライバシーの問題
新たな差別への懸念

「自在ホンヤク機」は、こころの状態を読み取り、それを私たちのコミュニケーション支援に使います。この点について、プライバシー保護や、新しいコミュニケーションの形について、不安を抱く人がいるでしょう。
また、「自在ホンヤク機」の研究と開発には、発達障害がある人々(当事者)が参加します。当事者がおかれた状況への配慮、特に、「自在ホンヤク機」が発達障害当事者への新たな差別を生まないようにすることも必要です。
研究開発テーマ6は、「自在ホンヤク機」の研究・開発・社会実装のあらゆる場面で生じうるELSIを明らかにするとともに、その解決に取り組んでいます。

2.2022年度までの成果

  1. 「自在ホンヤク機」のELSIのリストを提案
  2. データマネジメント会議を設置・運用開始
  3. 「こころの操作」にまつわる倫理的課題の分析

成果1では、「自在ホンヤク機」の研究開発が直面せざるを得ない倫理的・法的・社会的課題(ELSI)を様々な観点から検討し、リストアップしました。
直近で重要な課題と、将来の社会実装にあたって重要になりうる課題は、内容が大きく異なるため、それぞれ分けて整理・提案しています。

「自在ホンヤク機」の直近・未来のELSI(抜粋)
▲ 「自在ホンヤク機」の直近・未来のELSI(抜粋)

成果2では、「自在ホンヤク機」の研究開発で使うデータを管理する部会としてデータマネジメント会議を設置し、運用をはじめました。
実際にデータを扱う科学者・工学者と協働することで、データをめぐるELSIを、研究開発の初期段階から中心的な考慮事項として組み込むことを試みています。

「自在ホンヤク機」の研究開発には、様々な生体データを使うため、データマネジメントは一層重要となります
▲ 「自在ホンヤク機」の研究開発には、様々な生体データを使うため、データマネジメントは一層重要となります

成果3では、「自在ホンヤク機」で特に問題となるELSIとして、人間のこころの操作に伴う基礎的な倫理的課題を整理し、目標9プログラム内にシェアしました。
「こころの操作」には、明らかに問題のある洗脳だけでなく、日常的な気分転換まで、様々なものが含まれます。こころを操作してよい条件を解明し、「自在ホンヤク機」に搭載すべき機能の範囲を定めています。
このように、研究開発の初期から科学者・工学者と協働してELSIを検討することで、「自在ホンヤク機」が社会的に受け入れられる環境づくりを進めています。

3.今後の展開

引き続き、「自在ホンヤク機」に伴うELSIの理論的分析および科学者・工学者との合意形成を進めていきます。
また、「自在ホンヤク機」およびコミュニケーション支援技術全般について、ELSIの観点からガイドブックを作成し公表することを計画しています。
(東北大学・大隅典子、原塑)