成果概要

多様なこころを脳と身体性機能に基づいてつなぐ「自在ホンヤク機」の開発[A1] こころのwell-goingにつながる長期的神経指標の開発

2024年度までの進捗状況

1. 概要

加速研究開発項目1では、こころのwell-goingにつながる長期的な神経指標となる脳波成分を同定し、リアルタイムに読み出す技術を開発します。
人間の感情には、喜怒哀楽などのほかに、これらの感情が複雑に混ざりあった高次の感情があります。私たちが開発を進めている「自在ホンヤク機」を使って人間のこころの状態を正しく読み取るためには、このような高次な感情の読み取りが不可欠です。

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そこで本研究課題では、脳波やfMRI、MEGのシグナルから「恐怖や不安の解消(安心感)」「感情の乱れに対して動揺しないこころ(レジリエンス)」に関わる成分を見つけ出し、それをリアルタイムに読み出す技術の開発に取り組んでいます。

2. これまでの主な成果

  1. 脳波とfMRIを同時計測するための装置を確立
  2. 人が感情的ストレス下でこころの安定を保つ様子を示す脳活動の指標を発見
  3. 視覚領域の興奮性の低下がマウスとヒトのレジリエンスと関連していることを発見

成果1では、カーボンワイヤーループ技術を用いた高度なEEG-fMRI同時記録システムを開発し、恐怖消去プロトコル中の脳活動と皮膚電気反応の計測に成功しました。これにより、MRIによる深部脳活動の高精度な空間情報と、EEGによる高時間分解能の信号を同時に取得可能となり、恐怖から安心への感情変化に伴う脳活動特性の解明が進みます。将来的には、この脳活動特性をウェアラブル機器で計測するなど、自在ホンヤク機の技術開発につなげます。

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成果1の研究概要図 画像提供:T. O. Bergmann(LIR)

成果2では、右下前頭回(IFG)と呼ばれる脳領域が、視覚野の活動を調節し、感情的な乱れの影響を軽減することで、感情的な状況でも集中力を維持するのに役立つことが分かりました。このことは、こころの安定を保つことを示す脳活動の指標として重要です。

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成果2の研究概要図 画像提供:E. Pinzuti & O. Tüscher(LIR)
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成果3の研究概要図 画像提供:E. Pinzuti & O. Tüscher(LIR)

成果3では、ヒトとマウスの両方において、視覚野における興奮性の低下が視覚パフォーマンスの向上と刺激干渉からの保護につながることを発見しました。これは、種を超えて共通の回復力をもたらす脳メカニズムを示唆しています。さらに、これらの一過性(バースト)活性化の役割をより深く理解するために、新たな解析ツールを開発しました。

3. 今後の展開

今後は、私たちのグループが開発した新しい計測系や分析ツールを活用しながら、ヒトやサル、マウスなどを用いて、安定状態とストレス状態、恐怖と安心の間の脳活動の状態遷移の特性を特定します。さらに、種間での脳のパターンを比較し、それをADHDやASDなどの様々なモデルにリンクして、安心感やレジリエンスに関する動物種をまたいで共通する神経指標の確立を目指します。
(LIR: T. O. Bergman, O. Tüscher & NIPS: K. Kitajo, Showa Medical U: M. Nakamura, Tohoku U: K.I. Tsutsui)