成果概要

多様なこころを脳と身体性機能に基づいてつなぐ「自在ホンヤク機」の開発[2] エクソソームからこころの状態を読み取る技術の開発

2023年度までの進捗状況

1. 概要

研究開発項目2では、体液中の物質を測定することで「こころの状態」を読み取る技術を開発します。読み取られた情報は、「自在ホンヤク機」のシステムに入力され、コミュニケーション支援の最適化に役立てられます。この開発によって、コミュニケーションの形がさらに豊かで多様なものとなることが期待されます。
血液などの体液には、エクソソームという小さな小胞が含まれます。エクソソームは、細胞の老廃物を運ぶことに加え、細胞間の情報伝達も担っているとされ、がんなどの疾患のバイオマーカーとして注目されています。
エクソソームは、脳内の細胞にも取り込まれ、脳の状態の維持・変化と何らかの関係があることが指摘されています。しかし、エクソソームと「こころの状態」の具体的な関係は、ほとんど解明されていません
研究開発項目2は、エクソソーム中の物質と脳機能の連関を、生物化学的検査と人工知能によるデータ処理を組み合わせて解析します。これにより、エクソソームを介した「こころの状態」の測定、すなわち体液中の物質からこころを読み取る技術の開発に取り組んでいます。

▲ 内分泌系・自律神経系を介した情報伝達により、こころの状態とからだの状態には連関があります。<br>そのほかに重要な役目を果たしているとして最近注目されているのが、エクソソームという小胞です。
▲ 内分泌系・自律神経系を介した情報伝達により、こころの状態とからだの状態には連関があります。
そのほかに重要な役目を果たしているとして最近注目されているのが、エクソソームという小胞です。
▲ エクソソームの概要図
▲ エクソソームの概要図
出典:星野研究室ウェブサイト
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/research/people/staff-hoshino_ayuko.html)を改変

2. これまでの主な成果

  1. 社会的ストレスによってエクソソームが大きく変わる可能性を示唆
  2. ASD者と定型発達者のエクソソームの違いを発見
  3. エクソソーム含有タンパク質の組成からASD者と定型発達者を判別することに成功

成果1では、マウスを用いて、社会的ストレスを受けることで血中エクソソームがダイナミックに変化することが分かりました。特に、脳からのエクソソームの産出が増えたことから、エクソソームと「こころの状態」との関係を探るための手掛かりとして、大いに期待される成果です。

▲ 成果1の研究概要図(資料提供:星野歩子教授(東京大学))
▲ 成果1の研究概要図(資料提供:星野歩子教授(東京大学))

成果2では、自閉スペクトラム症(ASD)者と定型発達者の血漿エクソソームに含まれる分子(マイクロRNA)を比較しました。その結果、両者で大きく異なる8つの分子が見つかり、バイオマーカーとしての期待が高まります。

成果3では、ASD者と定型発達者のエクソソーム中のタンパク質組成をプロテオミクス解析しました。免疫に関わる補体分子に違いがあることや、解析結果の機械学習によって両者を判別できることが分かりました。

このように、エクソソームと脳機能の連関を明らかにする基礎研究を進めています。

3. 今後の展開

今後は、どのようなエクソソームの組成の違いが「こころの状態」に寄与しているのか、さらに多角的に明らかにしていきます。
また、脳活動や他の生理シグナル(自律神経など)(研究開発項目1)をエクソソーム情報と統合的に解釈し、こころの状態を多次元的に読み取る技術の開発を目指します。
(東京大学・星野歩子、ナシリ・ケナリ アミアモハメッド)