成果概要

多様なこころを脳と身体性機能に基づいてつなぐ「自在ホンヤク機」の開発2. エクソソームからこころの状態を読み取る技術の開発

2022年度までの進捗状況

1.概要

研究開発テーマ2では、体液中の物質を測定することで「こころの状態」を読み取る技術を開発します。読み取られた情報は、「自在ホンヤク機」のシステムに入力され、コミュニケーション支援の最適化に役立てられます。この開発によって、コミュニケーションの形がさらに豊かで多様なものとなることが期待されます。

▲ 内分泌系・自律神経系を介した情報伝達により、こころの状態とからだの状態には連関があります。そのほかに重要な役目を果たしているとして最近注目されているのが、エクソソームという小胞です。
▲ 内分泌系・自律神経系を介した情報伝達により、こころの状態とからだの状態には連関があります。
そのほかに重要な役目を果たしているとして最近注目されているのが、エクソソームという小胞です。

血液などの体液には、エクソソームという小さな小胞が含まれます。エクソソームは、細胞の老廃物を運ぶことに加え、細胞間の情報伝達も担っているとされ、がんなどの疾患のバイオマーカーとして注目されています。
エクソソームは、脳内の細胞にも取り込まれ、脳の状態の維持・変化と何らかの関係があることが指摘されています。しかし、エクソソームと「こころの状態」の具体的な関係は、ほとんど解明されていません

▲ エクソソームの概要図
▲ エクソソームの概要図
出典:星野研究室ウェブサイト(https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/research/people/staff-hoshino_ayuko.html)を改変

研究開発テーマ2は、エクソソーム中の物質と脳機能の連関を、生物化学的検査と人工知能によるデータ処理を組み合わせて解析します。これにより、エクソソームを介した「こころの状態」の測定、すなわち体液中の物質からこころを読み取る技術の開発に取り組んでいます。

2.2022年度までの成果

  1. ASD者と定型発達者のエクソソームの違いを発見
  2. 血中エクソソームのサンプルからASDの療育効果を評価できる可能性を示唆

成果1では、自閉スペクトラム障害(ASD)と診断された人々と定型発達者のそれぞれ数十名について、血中エクソソームの性質を比較しました。その結果、定型発達者に比べて、ASD者のエクソソームは

  • 粒が大きい
  • 血漿中の数が多い
  • タンパク質の含有量が少ない

という特徴をもつことが明らかになりました。
成果2では、エクソソーム中のタンパク質の機能・構造を解析(プロテオミクス解析)し、ASDの療育効果を評価できる可能性を示唆しました。
このように、エクソソームと脳機能の連関を明らかにする基礎研究を進めています。

3.今後の展開

今後は、「こころの状態」(脳機能)とエクソソームの連関を、さらに多角的に明らかにしていきます。
既に、マウスを用いて、社会的ストレスを受けた個体のエクソソームの分析を進めています。この研究を通して、ストレスという負の経験がエクソソームにどのように反映されるかが明らかになります。
また、脳活動や他の生理シグナル(研究開発テーマ1)をエクソソーム情報と統合的に解釈し、こころの状態を多次元的に読み取る技術の開発を目指します。
(東京大学・星野歩子、ナシリ・ケナリ アミアモハメッド)