成果概要
多様なこころを脳と身体性機能に基づいてつなぐ「自在ホンヤク機」の開発[1] 脳・自律神経活動からこころの状態を読み取る技術の開発
2023年度までの進捗状況
1. 概要
研究開発項目1では、脳や自律神経活動の測定によって「こころの状態」を読み取る技術を開発します。これを通して、言語表現に限らない豊かなコミュニケーションの可能性が生まれることが期待されます。
その達成にあたり、日常的コミュニケーションに使えるセンシング技術の開発が課題となっています。たとえば、fMRIは高性能ですが時間的・費用的なコストが大きく、心拍や呼吸(自律神経系)からのこころの読み取りは信頼性が高くありません。また、脳波から感情を読み取る技術は実用化されていません。
そこで、脳や自律神経活動を多次元的かつ高精度で測定するのと並行して、脳波やその他の生理シグナルからこころを読み取る技術の開発に取り組んでいます。これにより、日常的場面で高精度のこころの読み取りを目指します。
2. これまでの主な成果
- サルの深部および表面脳波の同時計測法の確立
- 迷走神経と脳活動の連動がこころの状態の維持に重要であることを解明
- 嫌悪状態を判別する機械学習モデルの構築
- 自閉症傾向に関連する新たな脳波特性を発見
成果1では、サルを用いて、脳の深部と表面から脳波を同時測定し、比較するための手法を開発しました。これらを用いて、こころの状態が活動に現れる脳領域を同定するとともに、脳波からこころの状態を読み取るための基本原理の構築を進めています。
成果2では、内臓の情報を脳へ伝える迷走神経が脳活動と連動することで、正常な情動が形成されることを明らかにしました。ストレスや不安状態などのこころの状態を理解するための重要な発見です。
成果3では、計算論的手法を用いて、マウスの脳の深部と表面から計測された脳波からマウスの状態(平常あるいは嫌悪)を判別するための機械学習モデルの構築に成功しました。
成果4では、安静時のヒトから得られた脳波データの解析によって、自閉症傾向に関連する新たな指標となる脳波の周波数特性を発見しました。このように、主に動物実験とヒトを対象とした研究を組み合わせて、こころの状態と脳活動の連関を明らかにする研究開発を進めています。
3. 今後の展開
今後は、動物研究からの知見をもとに、ヒトのこころの状態をリアルタイムで読み取るための研究開発を進めます。また、生理シグナルのひとつであるエクソソームの解析(研究開発項目2)を、脳や自律神経の活動と比較し、こころの状態をより多次元的に読み取ります。
(東北大学・筒井健一郎、佐々木拓哉、生理学研究所・北城圭一)