成果概要
多様なこころを脳と身体性機能に基づいてつなぐ「自在ホンヤク機」の開発1. 脳・自律神経活動からこころの状態を読み取る技術の開発
2022年度までの進捗状況
1.概要
研究開発テーマ1では、脳や自律神経活動の測定によって「こころの状態」を読み取る技術を開発します。これを通して、言語表現に限らない豊かなコミュニケーションの可能性が生まれることが期待されます。
その達成にあたり、日常的コミュニケーションに使えるセンシング技術の開発が課題となっています。たとえば、fMRIは高性能ですが時間的・費用的なコストが大きく、心拍や呼吸(自律神経系)からのこころの読み取りは信頼性が高くありません。また、脳波から感情を読み取る技術は実用化されていません。
そこで、脳や自律神経活動を多次元的かつ高精度で測定するのと並行して、脳波やその他の生理シグナルからこころを読み取る技術の開発に取り組んでいます。これにより、日常的場面で高精度のこころの読み取りを目指します。
2.2022年度までの成果
- 「霊長類のうつ病」の病態モデル作出に成功
- 気分の調節にかかわる脳部位を特定
- ストレス感受性に関与する脳波パターンを解明
- 深部脳波と表面脳波の同時計測法の確立
- 脳波と自律神経活動の高精度計測技術を開発
成果1では、磁気刺激を用いてサルの脳活動を操作することで、うつ病の人工的な発症に成功しました。うつ病の脳内メカニズムの解明につながります。
成果2では、このモデルに基づいて、気分(快・不快)の調節にかかわっている脳部位を同定しました。
成果3では、ストレスを受けたマウスの脳活動を記録・解析することで、特定の脳波が精神症状(うつ)の発症に深く関与していることを明らかにしました。
成果4では、マウスやラットを用いて、脳の深部と表面でそれぞれ脳波を計測し、比較するための手法を開発しました。これは、侵襲度が大きな深部脳波を、侵襲度が小さな表面脳波を用いて推定するのに有用な技術です。
成果5では、ヒトを対象に、脳波とさまざまな自律神経活動(呼吸・心拍・眼球運動など)を高精度で同時に測定する手法を開発しました。
このように、主に動物実験とヒトを対象とした研究を組み合わせて、こころの状態と脳活動の連関を明らかにする研究開発を進めています。
3.今後の展開
今後は、動物研究からの知見をもとに、ヒトのこころの状態を読み取るための研究開発を進めます。
また、生理シグナルのひとつであるエクソソームの解析(研究開発テーマ2)を、脳や自律神経の活動と比較し、こころの状態をより多次元的に読み取ります。(東北大学・筒井健一郎、佐々木拓哉、生理学研究所・北城圭一)