成果概要
多様なこころを脳と身体性機能に基づいてつなぐ「自在ホンヤク機」の開発[6]「自在ホンヤク機」にかかわるELSIの検討
2023年度までの進捗状況
1. 概要
研究開発項目6では、「自在ホンヤク機」の開発と社会実装に伴う倫理的・法的・社会的な課題(ELSI)を明らかにします。これにより、「自在ホンヤク機」が広く社会的に利用される環境づくりが期待されます。

「自在ホンヤク機」は、こころの状態を読み取り、それを私たちのコミュニケーション支援に使います。この点について、プライバシー保護や、新しいコミュニケーションの形について、不安を抱く人がいるでしょう。
また、「自在ホンヤク機」の研究と開発には、発達障害がある人々(当事者)が参加します。当事者がおかれた状況への配慮、特に、「自在ホンヤク機」が発達障害当事者への新たな差別を生まないようにすることも必要です。
研究開発項目6は、「自在ホンヤク機」の研究・開発・社会実装のあらゆる場面で生じうるELSIを明らかにするとともに、その解決に取り組んでいます。
2. これまでの主な成果
- 部有識者とのELSI検討会の実施
- 究開発担当者との意見交換と懸念点の聴取・分析
- 在ホンヤク機のあり方や使用方法の検討と国際的な法規制の現状把握
成果1では、2023年3月に仙台にてELSI検討会を実施しました。利益相反関連のリスクマネジメントとデータ利活用の研究・実務を専門とする明谷早映子先生(東京大学)と生命倫理学を専門とする中澤栄輔先生(東京大学)をお招きして、「自在ホンヤク機」利用に際しての想定事例など、本格的な議論を行いました。本検討会により、自在ホンヤク機を実装するためにさらなる検討が必要であることが分かり、第2回のELSI検討会を計画しています。

成果2では、令和5年9月と令和6年3月に開催されたプロジェクト全体会議にて、研究開発者との意見交換を行いました。全体会議での研究発表を受けてELSI上の懸念点・課題点を分析し、研究開発者と共有しました。また、その内容を目標9の会議で発表・共有しました。

成果3では、「自在ホンヤク機」の実装において、使用者が購入・使用・利点・リスクを自律的に判断できるような枠組みが重要であることが分かりました。また、国際法規制の現状を見ると、EUによるAI Actに基づく研究への規制に大きな懸念があることが明らかになりました。これらの知見は、文章化し、研究チームでシェアしました。
このように、研究開発の初期から科学者・工学者と協働してELSIを検討することで、「自在ホンヤク機」が社会的に受け入れられる環境づくりを進めています。
3. 今後の展開
継続して、「自在ホンヤク機」に伴うELSIの理論的分析および科学者・工学者との合意形成を進めていきます。
また、「自在ホンヤク機」およびコミュニケーション支援技術全般について、ELSIの観点からガイドブックを作成し公表することを計画しています。
(東北大学・大隅典子、原塑)