成果概要

台風下の海表面での運動量・熱流束の予測と制御4. 高風速時の海面を通しての熱輸送機構の解明

2022年度までの進捗状況

1.概要

近年、台風の進路の予測精度は向上していますが、強度の予測精度は向上していません。この原因として、高風速で荒れ狂う台風下の海表面における運動量や熱の輸送機構が複雑で、台風強度の予測に必要なモデル化が非常に難しいことが挙げられますが、熱輸送モデルについては、特に開発が遅れています。
台風下の海表面では、温かい海面から大気に向かって熱のエネルギーが輸送(台風からみれば増加)されます(図1)。この熱エネルギの輸送は、台風の強度や進路に大きな影響を及します。
そこで、本研究開発テーマでは、九州大学応用力学研究所に設置されている世界でも最大規模の台風シミュレーション水槽を用いて、高風速の条件下で、大気と水面の間でやり取りされる熱の輸送量(熱フラックス)を正確に見積もる評価式をつくり、高風速条件での風波と水面の間での熱輸送の定式化をめざします。

図1:台風下の海面を通しての熱輸送
図1:台風下の海面を通しての熱輸送

 熱の輸送モデルの検討はこれまでにも行われてきましたが、これまでの研究では風洞の吹送距離(風の吹く距離)が短かったため、実際の海洋でおこる熱の輸送を正確には再現できていない可能性があります。そこで本研究開発テーマでは、熱収支法を用い、風速40 m/sまでかつ吹送距離30 mまでの高風速・長吹送距離における熱の輸送係数の測定にチャレンジしています。熱輸送機構を解明し、熱流体工学の観点から、実際の海洋に適用可能な輸送モデルを開発することを目標にしています。

2.2022年度までの成果

① 熱フラックスの測定と熱フラックス実験式の作成

本テーマでは、台風シミュレーション水槽を用いて伝熱実験が可能な環境を構築しました。水槽実験で使用する熱電対の校正により、水温場の正確な計測が可能になりました。水槽での伝熱実験では、まず水槽内の水を加熱し、その後送風し温度変化を追跡します。水槽内の温度を測定したところ、ポンプにより水を循環させているにも関わらず、加熱により成層(水深方向への温度差)が発生することが分かりました。この温度差は送風により減少していきますが、より正確な熱フラックスの測定には、より強力な水循環システムが必要になることが明らかになりました。

② 砕波強度特性量の測定

破波を伴う海面では、水滴の飛散や気泡の巻き込みが多く発生する(図2)ことから、より複雑な水面状況を想定した砕波強度特性量を把握しておく必要があります。そこで、砕波強度の特性量である液滴飛散量および気泡量を測定するために、ハイスピードカメラを用いて、粒子のサイズと数密度を検出することができるシャドウサイジングシステムを構築しました(図3)。これにより、水面における熱輸送をより正確に見積もる準備が整いました。

図2:飛散する液滴と水中に巻き込まれる気泡の様子
図2:飛散する液滴と水中に巻き込まれる気泡の様子
図3:シャドウサイジングシステムによる粒子検出、左:飛散液滴、右:巻き込み気泡。
図3:シャドウサイジングシステムによる粒子検出、左:飛散液滴、右:巻き込み気泡。

3.今後の展開

より強力な水循環システム導入により、水温の一様化を目指し、精度の高い熱フラックス計測を実現します。同時に、構築したシャドウサイジングシステムを活用し、高風速下でのより正確な熱フラックスの見積もりを目指します。
本テーマでは、熱輸送係数の高精度な測定により計算機シミュレーションの精度向上に寄与することで、これまでにない新しい台風制御の可能性を模索していきます。