成果概要

台風下の海表面での運動量・熱流束の予測と制御3. 高風速時の海面を通しての運動量輸送機構の解明

2022年度までの進捗状況

1.概要

近年、台風進路の予測精度は向上していますが、その強度の予測精度は向上していません。その主な原因の一つとして、高風速で荒れ狂う台風下の海表面における運動量や熱の輸送機構が複雑で、台風強度の予測に必要な輸送量(フラックス)のモデル化が非常に難しいことが挙げられます。
台風下の海表面では、大気と海面の間に摩擦が発生し、台風がもつ運動エネルギは海面に輸送(台風からみれば損失)されます(図1)。この摩擦によるエネルギーの輸送は、台風の強度や進路に大きな影響を及ぼす可能性があります。
そこで、本研究開発テーマでは、九州大学応用力学研究所に設置されている世界でも最大規模の台風シミュレーション水槽を用いて、高風速の条件下で、大気と水面の間に発生する運動量の輸送量(フラックス)を正確に見積もるための測定方法を見出し、高風速条件での運動量フラックスの定式化および運動量輸送機構の解明を目指します。

図1:台風下の海面を通しての運動量輸送
図1:台風下の海面を通しての運動量輸送

運動量フラックスの検討は、これまでにも行われてきましたが、過去の研究では、使用された海洋シミュレーション水槽が小さく吹送距離が6.5 mと短かったため、実際の海洋での運動量フラックスを正確には反映できていない可能性があります。そこで本研究開発テーマでは、上記の大型台風シミュレーション水槽を用い、風速40 m/sまでかつ吹送距離30 mまでの状態における前例のない大規模での計測にチャレンジしています。

2.2022年度までの成果

2022年度には、上記の台風シミュレーション水槽において、運動量収支法(図2)およびプロファイル法を使用し吹送距離20 mでの風速に対する抗力係数CDを推算しました。運動量収支法には、本PIらが開発した4連水位計(図3)を用い、水位の変動のみから、大気と水面の摩擦状態を明らかにすることができる実験系を構築しました。
 抗力係数CDを計測したところ、CDは増加する低風速域では測定誤差が見られたものの、高風速域では測定誤差も僅かでCDは一定値をとりました。その値は過去の研究と概ね一致していたことから、運動量フラックスは異なる水槽での吹走距離の相違に依存しない可能性が示されました。

3.今後の展開

本研究開発テーマでは、吹送距離30mでの実験を目指し、より精度の高い運動量フラックスの定式化および運動量輸送機構の解明に向け研究を加速させていきます。そして運動量フラックスの観点から計算機シミュレーションによる予測精度の向上に寄与することで、ムーンショットプロジェクトの達成に向けて貢献していきます。

図2:台風シミュレーション水槽内の流動場における運動量収支の概要。
図2:台風シミュレーション水槽内の流動場における運動量収支の概要。図中の流動場の複数の運動量フラックス(図中のI1, I2, J1, J2, Tb, Tc)を測定することにより間接的に海面を通しての運動量フラックスTaを推定。
図3:運動量収支法で使用される4連水位計
図3:運動量収支法で使用される4連水位計