成果概要

台風下の海表面での運動量・熱流束の予測と制御2. 新規のフラックスモデルを使用した台風シミュレーションの実施と台風制御法の提案

2022年度までの進捗状況

1.概要

この40年程度の間で、台風進路の予測精度は大きく向上した一方で、その台風強度の予測精度は十分には向上していません。原因のひとつには、海表面での運動量や熱の輸送が台風のエネルギを左右するにもかかわらず、高風速で荒れ狂う台風下での運動量や熱の輸送については、台風の高精度な数値シミュレーションに必要な定式化が困難であったことが挙げられます。
 本研究開発テーマでは、台風シミュレーション水槽を用いた実験結果から得られた詳細なパラメータ(抗力係数、熱輸送係数)を用いて、より精度の高い台風の数値シミュレーションの実現を目指します。台風の数値シミュレーションには、海洋研究開発機構で開発された数値モデルMSSG(Multi-Scale Simulator for the Geoenvironment)と、スーパーコンピュータである地球シミュレータを用います(図1)。このような数値シミュレーションにおいて、海水面状態の変化を反映させることにより、台風制御(弱体化)の可能性を示すことを目標にしています。

図1:マルチスケール数値モデルMSSGの概要
図1:マルチスケール数値モデルMSSGの概要

2.2022年度までの成果

① 台風強度予測計算

海洋研究開発機構で開発されたMSSGには海表面と大気との間での運動量や熱の輸送量の計算式が組み込まれています。そこで、PMらが2018年までに実施した実験結果に基づく輸送量の計算式(Komori et al., J. Phys. Oceanogr., 2018)をMSSGに新たに導入し、台風の進路や強度をどの程度正しく予想できるかについて検討しました。再現シミュレーションの対象事例としては、台風T1330 (Haiyan)を選定しました。この台風は、2013年11月4日にトラック諸島近くの洋上にて発生したスーパー台風です。

図2に再現シミュレーションによるT1330の進路を、図3に風速分布を示します。この台風T1330のデータはMSSGを用いて、地球シミュレータを使用して計算したものです。これらの結果により、台風が適切に再現されていることが確認され、プロジェクト内で実施されている他の研究開発テーマから提供される実験式を導入するための準備が整いました。

図2:再現シミュレーションによるT1330 の進路
図2:再現シミュレーションによるT1330 の進路
② 砕波/風波制御による台風制御法提案

数値モデルの中で、海表面での運動量と熱の輸送量の計算に関わるパラメータである輸送係数を調整し、台風のシミュレーションを実行しました。得られた最低気圧と最大風速の結果から、海表面でのエネルギ輸送を変化させることで、台風に影響を与えることができる可能性が示唆されました。

図3:再現シミュレーションによるT1330の風速
図3:再現シミュレーションによるT1330の風速

3.今後の展開

本研究開発テーマでは、他の研究開発テーマから提供される最新の知見を数値モデルに組み込むことにより、台風下の激しく乱れた海表面状態まで考慮したより高精度な台風の数値シミュレーションを実現します。また、海水面の人工的制御による運動量と熱の輸送量の変化を示す実験結果が他の研究開発テーマから提供される場合に備えて、海表面にどのような変化をもたらすことで、どの程度の台風制御が可能であるのかを提示することにより、ムーンショット目標の達成に向けて貢献していきます。