成果概要
台風下の海表面での運動量・熱流束の予測と制御[1] 抗力係数と熱輸送係数のモデル作成と海面フラックス変化による台風制御の可能性検証
2023年度までの進捗状況
1. 概要
近年、台風進路の予測精度は向上していますが、その強度の予測精度は向上していません。その主な原因の一つとして、高風速で荒れ狂う台風下の海表面における運動量や熱の輸送機構が複雑で、台風強度の予測に必要な輸送量(フラックス)のモデル化が非常に難しいことが挙げられます。台風下の海表面では、大気と海面の摩擦抵抗や、温められた海面から大気への熱の輸送など、エネルギの輸送が台風の強度や進路に大きな影響を及ぼすと考えられます。
本プロジェクトでは、世界でも最大規模の台風シミュレーション水槽(図1)を用いて、台風に匹敵する高風速の条件下で、大気と水面の間でやり取りされる熱や運動量の輸送量を正確に見積もるモデル式をつくり、さらに海水面状態を変化させることで台風の制御(弱体化)が可能であるかどうかを海洋研究開発機構で開発されたMSSG(Multi-Scale Simulator for the Geoenvironment)モデルを用いて明らかにしていきます(図2)。


2. これまでの主な成果
① 水面状態を変化させた実験
界面活性剤水溶液を水槽にいれた状態での、送風実験を開始し、高風速下での有義波高の測定を実施しました(図3)。界面活性剤によって水面の表面張力は低下しますが、これによって風波の形状や、それに伴う気液界面でのエネルギ輸送が変化する可能性が示唆されました。

② 提案された実験式による数値シミュレーション
令和5年度の検討では、実験結果に基づいて提案された熱や運動量の輸送量の実験式を用いて、海表面状態に対する熱帯低気圧の応答の一般性を確かめるため、昨年度に対象とした台風事例(Haiyan, 2013)とは異なるハリケーン事例(Irma, 2017)について数値シミュレーションによる熱帯低気圧の再現性の確認を進めました(図4)。 Irmaは、2017年8月30日に北大西洋で発生し、アメリカ本土に上陸したハリケーンです。

提案された実験式をもとに複数の界面活性剤モデルを作成し、シミュレーションを行ったところ、条件により熱帯低気圧の強度に顕著な影響を及ぼすことが示されました。
3. 今後の展開
本研究開発テーマでは、界面活性剤を用いた場合の風波について新しい知見を得るとともに、他の研究開発テーマから提供される高精度の実験結果をMSSGモデルに組み込むことにより、台風下の海表面状態を考慮したより信頼性の高いシミュレーションを実現します。また、水面状態を変化させた海面の移流なども加味した、より現実的な検証に進みます。