成果概要
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安全で豊かな社会を目指す台風制御研究[5] 数理研究
2025年度までの進捗状況
1. 概要
本研究開発項目は、理論や数値モデルに基づいて、台風制御にとって最適な介入のタイミングと場所を特定することを主な目的としています。
その方法として、数理科学分野の最新の知見を導入することにより、小さな外力(摂動)で大きな変化をもたらす数理構造を明らかにするアプローチ、現実的な物理モデルに対応する随伴方程式を用いて大きな物理量を過去に遡って割り出すアプローチ、あるいは、小さなスケールの介入が情報としてどこまで残るのかといったことに関する研究を行っています。また、数理科学の先端的な知見を活かし、積極的に他の研究開発項目との連携も行っています。
これまで、非線形的に大きな変化をもたらす小さな外力の研究、現実的な台風の強度に影響を及ぼす領域の特定、外力の影響が残る時間スケールの調査が進んできました。
2. これまでの主な成果
数理研究は(1)随伴演算子の高度な活用法に基づく制御に最適な摂動の導出、(2)小さな入力で大きな制御効果をもたらす数理構造の解明、(3)階層間相互作用に基づく大域運動の制御可能性という3つの研究開発課題からなります。
(1)では、現実的なモデルを用いた台風への応用を重視した最適化の研究を行っています。この中では、台風強度やレインバンドに伴う降水量といったターゲットを決め、それに対して影響の大きな物理量を探索しています。2025年度には、航空機や船舶からのシーディングを想定して、台風弱体化に資する相変化をどこで起こせばよいか、という最適化問題の解析を行いました。その結果、台風の壁雲の外側の一部の領域で水蒸気を雲や雨に変えることで、2-3日先の台風を弱体化させられることが分かりました。さらに、やや大きな有限エネルギーで介入を図る場合には非線形最適撹乱を解析することにより、より効率的に対流活動に影響を与えられることも明らかとなりました。これは、(1)の基礎研究から得られた成果とも整合的です。
(2)では、数理科学の最先端の知見を簡単なシステムに適用し、わずかな外力が有限時間後に大きな変化をもたらす仕組みや望ましい状態にどのように到達させるかという観点での基礎研究を行っています。2025年度は、対流を模した数理モデルを用いて、「目標とする状態に最も効率よく近づく摂動」の性質を調べました。その結果、摂動の大きさを増やしていくと、その最適な空間パターンが、単純で秩序だった構造から、複雑で入り組んだ構造へと自発的に変化することを発見しました(図1)。この変化は、系の線形的な振る舞いが支配的な領域から、非線形性が本質的な役割を果たす領域への移行として理解できることを明らかにしました。この知見は、単なる成長最大化ではなく、「安全に望ましい状態へ導くための介入設計」に向けた新しい理論的基盤を与えるものです(図2)。
(3)では、気象学的アプローチで得られた全球非静力学モデルによる台風の数値実験データを解析しました。介入による影響は、本解析条件では台風周辺(1~2日以内)、総観規模の波列(3~6日)、偏西風帯に沿った波動(>7日)と段階的に変化していくものの、介入度合いに比例する有意な変化は6日頃までであるということが分かりました。さらに、実験データをDMD解析と呼ばれる手法で定量化した結果、総観規模の波列に対応する気圧パターンの時間変化モードには、介入量と振幅に線形的な関係があることを確認しました(図2)。大規模大気場はカオス的ですが、特定のモードに着目すると、介入による影響はある時間スケールで減衰するということができます。


3. 今後の展開
先端的な数理科学の知見に基づいて、従来手法より大きな変化をもたらす摂動が解析できるようになり、その理解が深まってきました。また、現実的な気象学データの結果の解析なども進んでいます。今後は、数理研究の成果を台風制御に有効に活かしていくため、他の研究開発項目との連携を更に深め、高解像度化や適切な縮約、新しい計算手法の導入にも取り組んでいきます。