成果概要
安全で豊かな社会を目指す台風制御研究[1] 気象学的アプローチ
2023年度までの進捗状況
1. 概要
台風の内部構造を詳細に表現する高精度数値予測モデルを開発し、それを利用して有効な台風制御が可能な手法を数値的に提示します。具体的には、シーディング、海面付近の気温を低下させての台風制御方法、海上に障壁や風車をおいて海上風を弱めたり風向を変化させたりする方法等が考えられますが、小さい外力で台風強度に大きな変化を生む手法や、持続的な弱い介入によって台風に変化を与える手法を定量的に解明します。航空機からのシーディングを想定し、対流雲における雲物理の詳細を調べる室内実験を実施します。また、台風制御の実施にあたっては、災害をもたらす可能性がある事例を事前に予測して選択し、人為的な介入の影響の効果を判定できる程度にまで予測精度を高めます。このため、高解像度モデルによるデータ同化システムに航空機・船舶観測データを同化し、台風の進路・強度・内部構造の高精度な再現と予測の改善を行います。
2. これまでの主な成果
2023年度は、日本に大きな災害をもたらした顕著台風を対象に様々な台風制御方法の効果を数値シミュレーション上で検討しました。また引き続き、台風の高精度予測を実現するための高精度数値予測モデル開発、雲物理実験研究、データ同化システム開発に取り組みました。
2021年台風第14号Nanmadolを対象として、2km格子間隔の数値モデルCReSS-4ICE-CCNを用い、シーディングの効果を調べる数値シミュレーションを実施しました。シーディングなしケースでは雲凝結核CCN数を空間一様に5x107 個/kg、シーディングありケースでは特定の場所でCCNを3x109個/kgまで増加させました。シーディングを台風の北象限の水平風が強い場所に実施することで、台風の内部コア中の対流活動の非軸対称化を狙いました。シーディングなしの実験(図1左)で台風中心の東側に大きく広がる降雨域(アウターレインバンド)が、シーディングありの実験(図1右)では縮小しています。今後、シーディングに対して感度が高い場所の特定や、降雨分布が変化した時の台風の強度を調べ、より精緻な台風制御技術開発へつなげます。

2019年台風第19号Hagibisを対象に、高度1km以下の特定の範囲に、海水くみ上げ蒸発による冷却が及ぼす影響を調べました。最小格子間隔1.4kmの数値モデルstretch-NICAMを利用し、初期値10月10日0時UTCに対し台風経路上の一定の場所に冷却を与えた実験を行いました。図2は、半径50kmの範囲に冷却率10, 20 K/hに対する効果を示します。計算開始後24時間の時点で強制の位置は概ね台風の中心に位置します。台風の中心付近に強制の大きさにほぼ比例した気圧変化量が見られます。今後、冷却率1K/hまでの強制の強さ、半径1kmまでの強制の大きさの依存性、強制を動的に台風の眼内に沿って強制を与える方法などを検討することで、より効果的な強制の効果を検討します。
台風全域の水平解像度100mのラージ・エディ・シミュレーション(LES)実験において、海面付近に船舶に対応する抵抗体を配置する計算を実現しました。図3では、高解像度計算によって解像可能となる台風境界層の現実的な乱流構造に加え、100m四方の抵抗体の風下後流にウェーク(弱風域)が生じている様子が再現されています。


3. 今後の展開
プロジェクト開始3年目には、数値シミュレーション実験により、台風制御のための介入の有効性を様々な角度から調べることで、社会が受容可能な程度に台風被害を軽減する介入手法候補を特定します。理論的・数値的な検討を加え、台風事例を対象とした数値シミュレーションを実施し、外部強制の強度と台風強度へのインパクトとの関係を系統的に調査します。人為的に介入が可能な強制力に対して、有意な台風強度の変化(最大風で5m/s程度)を得るための手法を検討します。数値予報モデルにおける台風予測精度向上の課題を明らかにし、数値予報モデルの開発改良を進めます。台風の強度変化をもたらす台風内部構造の変化メカニズム、壁雲交換、レインバンド等のメカニズム解明を進めます。小さい外力で大きな効果を生むような数理的研究を進めます。