成果概要

安全で豊かな社会を目指す台風制御研究1. 気象学的アプローチ

2022年度までの進捗状況

1.概要

台風の内部構造を詳細に表現する高精度数値予測モデルを開発し、それを利用して有効な台風制御が可能な手法を数値的に提示します。具体的には、シーディング、海面水温を低下させての台風制御方法、海上に障壁や風車をおいて海上風を弱めたり風向を変化させたりする方法、などが考えられますが、小さい外力で台風強度に大きな変化を生む手法や、持続的な弱い介入によって台風に変化を与える手法を定量的に解明する。航空機からのシーディングを想定し、対流雲における雲物理の詳細を調べる室内実験を実施します。
また、台風制御の実施にあたっては、災害をもたらす可能性がある事例を事前に予測して選択し、人為的な介入の影響の効果を判定できる程度にまで予測精度を高めます。このため、高解像度モデルによるデータ同化システムに航空機・船舶観測データを同化し、台風の進路・強度・内部構造の高精度な再現と予測の改善を行います。

1kmメッシュモデルでの令和2年台風第10号Haishenの予測実験例。九州南方において北上する台風の二重壁雲の内部構造が再現されています。

2.2022年度までの成果

2022年度は、台風制御方法の検討、台風を詳細に表現する高精度数値予測モデル開発、対流雲における雲物理実験研究、高解像度モデルを基礎とするデータ同化システム開発、航空機データを利用した台風の高精度な再現と予測の改善に取り組みました。
プロジェクト初年度において、可能な台風の強度に影響を与える可能な制御方法を検討し、候補の手法を下記の図のようにまとめました。主として航空機からのシーディングにより対流雲に変化を与える方法、海面水温の低下や海面からの蒸発を抑制する方法、無人船等で1km以下の境界層の風速・温度・湿度に変化を与える方法が提示されました。

台風の断面図の模式図と可能な制御方法です。図の中央が台風中心で、その両側から斜めに情報に伸びる灰色領域は台風の壁雲および上層雲です。壁雲付近の下層で半時計周りの最大強風があり、台風制御により強風の弱化を図ります。

具体的制御方法の理論的検討例:Horinouchi and Mitsuyuki (2023) 。台風の強風下の海上に多数の帆船を設置することで台風強度を変化させます。風(wind)の向きに対する帆船(sail)の向きにより、抵抗(drag)の強度・方向が定まります。帆船が大気に及ぼす効果を定量的に評価すると、100 km四方の海域に大型硬帆船を400隻展開すると台風の最大潜在強度(MPI)で約10%の低下が期待できることを示しました。現実的な数値シミュレーションで有効性を確認すること、さらに効率的な手法を検討することが課題です。

3.今後の展開

今後、理論的・数値的な検討を加え、具体的な台風を念頭においた数値シミュレーションを実施し、外部強制の強度と台風強度へのインパクトとの関係を系統的に調査します。人為的に介入が可能な強制力に対して、有意な台風強度の変化(最大風で5m/s程度)を得るための手法を検討します。数値予報モデルにおける台風予測精度向上の課題を明らかにし、数値予報モデルの開発改良を進めます。台風の強度変化をもたらす台風内部構造の変化メカニズム、壁雲交換、レインバンド等のメカニズム解明を進める。小さい外力で大きな効果を生むような数理的研究を進めます。