成果概要

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安全で豊かな社会を目指す台風制御研究[1] 気象学的アプローチ

2025年度までの進捗状況

1. 概要

台風の内部構造を詳細に表現する高精度数値予測モデルを開発し、それを利用して有効な台風制御が可能な手法を数値的に提示します。人為的介入手法として、シーディング法等が考えられますが、小さい外力で台風強度に大きな変化を生む手法や、持続的な弱い介入によって台風に変化を与える手法を定量的に解明します。航空機からのシーディングを想定し、対流雲における雲物理の詳細を調べる室内実験を実施します。また、台風制御の実施にあたっては、災害をもたらす可能性がある事例を事前に予測して選択し、人為的な介入の影響を判定できる程度まで予測精度を高めます。このため、高解像度モデルによるデータ同化システムに観測データを同化し、台風の進路・強度・内部構造の高精度な再現と予測の改善を行います。

2. これまでの主な成果

2025年度は、数値シミュレーション上でシーディング法を中心に、人為的介入が可能な効率的な手法を探求しました。図1は、2018年台風第21号(Jebi)を対象として、全球非静力学モデルNICAM(14 km解像度)を用いた「凝結核シーディング」による介入実験を実施した結果です。台風発生前および発生時の異なるタイミングで、上空6–8 km、高度半径50 kmの領域に対して24時間にわたり雲粒数を増加させ、その影響を調べました。その結果、台風発生前に介入を行った場合には、台風の進路や強度に大きな変化が生じうる可能性が示されました。これは、台風がまだ発達初期段階にある際には、雲微物理過程のわずかな変化が、その後の対流組織化や循環形成に大きな影響を与えるためと考えられます。一方で、台風が十分に発達した後では、非常に大量のシーディングを行った場合でも進路変化はほとんど生じず、成熟した台風の構造が外部からの微小な摂動に対して比較的安定であることが示唆されました。
本結果は、台風発生前の雲微物理過程への介入が、将来的な台風進路や強度に非線形かつ増幅的な影響を与えうることを示唆しています。同時に、介入タイミングが極めて重要であり、発達初期段階には特に高い感度を持つ可能性があることが明らかになりました。

図1
図1. 2018年台風第21号Jebiを対象としたシーディング実験における台風経路の変化。左:台風発生時にシーディング、右:台風発生2日前にシーディングを与えた実験。色は台風の強度に対応、等値線は地上気圧、ベクトルは風速。

図2は、理想化台風を対象として、過冷却水滴凍結シーディング実験の結果を示します。実験には雲解像モデルCReSS(2 km解像度)を用い、台風内部に存在する過冷却水滴に対して人工的に凍結を誘発する介入を与え、その影響を調べました。具体的には、半径50 km程度の領域において過冷却水滴の強制凍結を行っており、これはヨウ化銀散布量に換算すると約10トン規模に相当する条件です。
その結果、介入後には台風の最大風速が最大で約10 m/s低下し、中心気圧も最大で約40 hPa上昇するなど、一時的に減勢することが確認されました。これは、過冷却水滴の凍結によって潜熱放出や降水形成過程が変化し、台風内部の対流構造や眼壁循環に影響を与えたためと考えられます。本結果は、台風強度が雲微物理過程、とりわけ氷相過程に対して一定の感度を有する可能性を示すもので、効率的な手法の一つの候補となりうると理解されます。
さらに、シーディングによる雲物理過程を詳細に表現可能なNHM-CHEM(3 km解像度)を用いた実験を実施しました。2019年台風第19号を対象とした実験において、硫酸塩エアロゾルを人工的に散布することで、台風強度に与える影響を調べました。散布量は数十トン規模であり、現実的に想定可能な介入条件を意識した設定としました。その結果、散布条件によっては中心気圧が最大で約4.5 hPa上昇し、台風強度に有意な変化が生じることが確認されました。特に、北東象限への介入や、散布半径を変化させた場合に応答特性が異なり、台風が比較的小規模な外部摂動に対して高い感度を持つ可能性が示されました。

図2
図2. 理想化台風を対象とし過冷却水滴の凍結を誘発させるシーディング実験。左:台風内に誘発された凍結粒子の水平分布、右:台風の気圧、最大風速の時間変化:縦線の時点で介入を実施。シーディング無の実験(黒)に対して、シーディングを与えた実験では、一時的な減勢がみられます。

3. 今後の展開

プロジェクト4年目の2025年度は、シーディング法を中心に人為的介入が可能な効率的な手法を探求しました。今後は、数値シミュレーション実験を進め、台風の全体的または局所的被害を軽減させるための介入手法を定量化します。数値実験・航空機観測・室内実験・工学手法を統合し、減災に着目した台風制御の実現可能性評価を進めます。また、人間が実施可能な小規模介入による台風応答メカニズムを解明し、屋外実験に向けた基盤構築を進めます。