成果概要

安全で豊かな社会を目指す台風制御研究[3] 台風制御の影響評価

2023年度までの進捗状況

1. 概要

台風制御によって生じる影響には、気候的影響と被害軽減の影響があります。台風制御の社会的および経済的な受容性を評価するためには、両社の影響を軽量化する必要があります。
影響評価では、台風制御を行うことによる環境場・社会へのサイドエフェクトが微小であることを示す必要があります。影響評価グループでは、これら気候環境場と台風に関連する風水害である強風、内水氾濫、外水(河川)氾濫、沿岸浸水についての被害を総合的に評価可能な統合的風水害被害評価モデルを開発し、台風制御による経済被害を推計します。また、台風制御が中長期的な社会経済活動へ与える影響の分析も実施します。

図1:影響評価グループの構成
図1:影響評価グループの構成

2. これまでの主な成果

気候学的影響については、プロジェクト共通対象事例である2019 年第15号を対象に、全球非静力学モデルの大アンサンブル数値実験データを用いて、台風の強度と環境場の関係についての評価を行いました。介入等により台風の強度を弱めた場合、降水量や強い降水イベントの出現確率が減り、その影響は台風が強いほど大きいことが示唆されました。
被害推計について、風災、高潮災害、河川水災の被害推計モデルの開発とその台風制御効果への簡易影響評価を行いました。また風水害3要素それぞれを統合する統合的風水害被害評価モデル開発について、各モデルを統合するためのインターフェースについて検討しました。
風災について、都道府県レベルの広域リスク評価モデルを開発しました。ついで、都道府県レベル程度の解像度で台風制御による風速の減少が被害額に与える効果を分析した。図2はその一例であり、5%風速を増加/減少させることで、建物罹災棟数と被害額が概ね2倍/半分となることを確認しました。詳細風災評価については、大都市圏の一部において航空機による空撮を行い、建物特徴を推定し、被害推定のために都市のデジタル化するアルゴリズムを開発しました。
高潮災害について、高潮の大規模浸水による被害額を推計可能とするため、津波浸水計算モデルの高度化を行いました。ついで、家屋の直接被害額を推計するためのフレームワークを大阪を対象に構築し、2018年台風21号Jebiを対象に再現計算を行い、直接被害額推計の精度の検証を実施しました。

図2:風災マクロモデルを用いた,台風制御による被害額に与える影響(2019年第15号)
図2:風災マクロモデルを用いた,台風制御による被害額に与える影響(2019年第15号)

河川水災について、水災害影響評価モデルの開発を進め、洪水氾濫面積率から浸水地域での被害額の推計を行うアルゴリズムを開発し、その検証を進めました。ついで、気象水文被害連成予測システムの開発を進め、特定の台風に対して人為介入を行った場合の洪水浸水面積推計を実施しました。図3はその一例であり、降水量が50%減少させると浸水面積がほぼゼロになることを推計しました。
台風制御が中長期的な社会経済活動へ与える影響の分析定性的評価について、台風外力が家計・企業・農林水産業に与える影響の分析に取り組み、台風制御に対する国民の受容性を高めるために必要な情報を得るため、大規模な社会調査によって過去の顕著台風がもたらした不安度と困難度を調査しました。さらに、災害対応機関、研究者によるミーティングにより、台風制御による即時対応について論点を整理しました。

3. 今後の展開

全球大気モデルを用いて台風制御による気候的影響を進めるとともに、被害推計のための各種風水害の高度化・広域化と統合化を進めます。気象制御グループの成果をもとに台風制御効果の被害額への影響を計量します。

図3:台風制御による浸水面積に与える影響(2019年第19号)
図3:台風制御による浸水面積に与える影響(2019年第19号)