成果概要
安全で豊かな社会を目指す台風制御研究[2] 工学的アプローチ
2023年度までの進捗状況
1. 概要
気象学的アプローチによって、気象モデルを活用した台風制御のための効果的な台風介入方法が研究されています。しかしながら、想定している台風介入方法が現実的に可能かどうかを判断するためには、具体的な介入装置に関する検討を同時に実施する必要があります。また、影響評価チームによって台風制御によって削減できる被害額を算定可能であるが、実際に制御するかどうかを判断するためには、台風への介入を実施するための費用を算定する必要があります。
工学的アプローチは、上記の課題に取り組むための研究を実施しています。2023年度は主に船舶・海洋構造物を利用した台風への介入方法についての検討を行いました。
2. これまでの主な成果
現在、気象学的アプローチによる台風制御研究によって、大型の帆を持つ船舶を大規模展開する方法が台風への介入方法候補のひとつとして挙げられています。この介入手法の実現可能性を評価するために、横浜国立大学の大型実験水槽にて、台風介入を想定した大型帆船の縮尺模型を用いて現状の設備で台風環境下を可能な限り再現した環境下で帆船のオペレーションが実施可能かどうかの水槽試験を実施しました(図1)。結果として、想定している大型帆船はある程度安定的にオペレーションできることの見込みが立ちました。
また、過去の台風の発生場所と進路履歴をもとに、大型の帆船を想定してどの程度台風に介入できそうかを見積もりました。台風の風から大型の硬翼帆によって得られた推進力によって帆船を動かし、水中のタービンを回転させて発電・蓄電を行う台風発電船の簡易的な数値モデルを作成し、過去の台風の進路履歴に対してどの程度台風に追従できるか、どの程度発電可能かについて定量的な評価を行いました。また、図2のように台風介入デバイスとしての大型帆船の総合的なコスト評価を実施しました。


(凡例のDの数値は、年間で発電を実施する日数)
より発展的な台風への介入デバイス検討の一例として、面的に配置された風車による風量・温度制御により、台風の勢力と進路により効率的に影響を与えることのできる制御方式の開発を行うとともに、必要となる風車の容量、数、設置位置、冷却能力について検討を行うこと、さらに、台風の状態に基づいて風車制御を行う場合に必要となる状態変数の種類とその推定方法の研究を実施しました。図3に台風介入デバイスとして具現化したヒートポンプ船発電ユニットの構成例を示します。この構成例に対してヒートポンプ熱サイクルシミュレーションを実施し、冷却/加熱量に対する必要なエネルギーの試算を行いました。

3. 今後の展開
2023年度に検討した手法を実現するための研究を実施するとともに、他に気象学的アプローチで提案されている様々な介入手法の検討を実施します。特に、2024年度は新たに化学的な介入手法として、界面活性剤などの利用による海面からの蒸発抑制技術の開発を実施する予定です。