成果概要

安全で豊かな社会を目指す台風制御研究2. 台風制御の影響評価

2022年度までの進捗状況

1.概要

台風制御により気候学的影響が生じる可能性がある一方、被害軽減効果が期待できます。総合的な社会受容性を評価するためには、両者の影響を計量化する必要があります。
気候学的影響については、台風制御を行うことによる環境場(北西太平洋域)への副次効果を見積もる必要があります。また、主な台風被害には、人的被害だけでなく経済的被害(直接被害・間接被害)があります。台風制御による経済的被害の軽減効果の推計は、被害額の推計とほぼ同義ですが、風速や降雨量等の気象外力を被害額に変換することができる精緻な評価手法を構築する必要があります。
台風制御の影響評価グループでは、これら気候環境場と台風に関連する風水害である強風、内水氾濫、外水(河川)氾濫、沿岸浸水(以下、風水害)についての被害を総合的に評価可能な統合的風水害被害評価モデルを開発し、台風制御による経済被害を推計しています。また、台風制御が企業活動や避難行動や中長期的な社会経済活動へもたらす影響の分析も実施しています。

影響評価グループの構成
影響評価グループの構成

2.2022年度までの成果

北太平洋域への台風の強度変化による影響を見積もるため、2019年台風第15号を対象とした大アンサンブルシミュレーションデータの解析を行いました。台風の東京付近通過に伴い、太平洋高気圧の強さや水蒸気の分布が台風の強弱によって異なることを確認し、台風制御による微小な強度変化の及ぼす影響範囲をさらに詳しく調べています。
被害推計については、河川洪水によって引き起こされる冠水・氾濫と被害額が推計できるモデルの開発を行いました。2019年台風19号を対象に洪水の再現計算及び浸水域のダウンスケーリングを実施し、浸水被害が出た341市町村のうち、99%の捕捉率で浸水を再現しています。また、強風被害の評価モデルに必要な都市の建物データ取得のために、大阪を対象にドローン及び航空機による測量を行い、建物特徴を推定し幾何学的形状を再現するための3次元都市・建物データを作成しました。さらに、都道府県単位で強風被害を推計可能なマクロモデルの構築に向け、過去の台風被害データを収集しました。沿岸被害評価についても開発を進め、市街地の高潮氾濫を計算可能なモデルの開発を行っています。これらの風水害3要素それぞれを統合する統合的風水害被害評価モデル開発に着手し、各モデルを統合するためのインターフェースを検討しています。
この他、社会経済活動影響評価に関して、災害研究者間で論点を整理し、想定される主要な影響範囲を検討しました。さらに、過去の顕著台風に関する新聞記事や景況調査等を収集し、社会経済への影響を多面的に調査しました。

台風制御により想定される環境場への影響の模式図
台風制御により想定される環境場への影響の模式図

3.今後の展開

全球大気モデルを用いて台風制御による気候的影響の評価を進めるとともに、被害推計のための各種風水害モデルの開発と統合化を進める予定です。風水害推計モデルを元に、過去事例の浸水面積および浸水深の再現および被害額推定を行い、さらに制御効果の定量化に向かう予定です。また、中長期的な社会経済活動(企業活動等)へもたらす影響を分析するため、ヒアリング、アンケート等による調査を行い、広範囲に及ぶ社会影響の把握を行います。

台風水災害影響評価モデル開発の一例:2019年台風第19号浸水域のダウンスケーリング
台風水災害影響評価モデル開発の一例:2019年台風第19号浸水域のダウンスケーリング