成果概要
安全で豊かな社会を目指す台風制御研究[2] 工学的アプローチ
2024年度までの進捗状況
1. 概要
気象学的アプローチによって、気象モデルを活用した台風制御のための効果的な介入方法が研究されています。しかしながら、想定している台風介入方法が現実的に可能かどうかを判断するためには、具体的な介入装置に関する検討を同時に実施する必要があります。また、影響評価チームが台風制御によって削減できる被害額を算定していますが、実際に制御するかどうかを判断するためには、台風への介入を実施するための費用の算定や実施可能性を検討する必要があります。工学的アプローチは、上記の課題に取り組むための研究を実施しています。
2. これまでの主な成果
現在、大型の帆を持つ船舶を大規模展開する方法が台風への介入方法候補のひとつとして挙げられています。この介入手法の実現可能性を評価するために、横浜国立大学の大型実験水槽にて、台風介入を想定した大型帆船の縮尺模型を用いて現状の設備で台風環境下を可能な限り再現した環境下で帆船のオペレーションが実施可能かどうかの水槽試験を実施しました(図1)。想定している大型帆船に対して発電用の大型タービンを船底付近に搭載することで耐航性能が向上し、荒れた環境下でもある程度安定的にオペレーションできることの見込みが立ち、同時に発電も実施できることを、模型船を用いた水槽実験で実証しました。また、過去の台風進路履歴データから、実際にどの程度船舶で台風に介入できるのかについて評価するためのシミュレータを開発し、一つのケーススタディとして台風へ介入した際の発電量を最大にするための発電船の仕様について検討を行い、搭載するべき具体的な発電装置の設計指針を得ることができました。

より発展的な台風への介入デバイス検討の一例として、面的に配置された風車による風量・温度制御によって、台風の勢力と進路により効率的に影響を与えることのできる制御方式について検討を実施しています。気象学的アプローチの研究課題と連携して、必要となる風車の容量、数、設置位置、冷却能力について検討を行い、さらに、台風の状態に基づいて風車制御を行う場合に必要となる状態変数の種類とその推定方法に関する研究を実施しました。図2に台風介入デバイスとして具現化したヒートポンプ船発電ユニットの構成例を示します。この構成例に対してヒートポンプ熱サイクルシミュレーションを実施し、冷却/加熱量に対する必要なエネルギーの試算を行いました。
また、海面からの蒸発抑制によって台風へ介入する手段として、界面活性剤を活用した方法の検討を実施しました。図3のように実験室内で擬似海洋空間を構築し、複数の界面活性剤の種類を対象に、水質・温度・風などの環境条件を変更させながら、水の蒸発抑制効率について評価を行い、それらの挙動を定量的に把握することができました。ただし、環境への影響を考慮すると、台風制御へのブレークスルーがない限り、界面活性剤の利用は見送るべきであるという示唆も得られています。
この他にも、防風ネットを活用した台風への摩擦を増加させる手法と、台風内部への海水散布手法に対して、現実に実施することを想定した場合に必要な技術の成熟度に関する評価と実施した際の費用を試算しています。


3. 今後の展開
これまで検討した手法を実現するための研究を実施するとともに、他に気象学的アプローチで提案されている様々な介入手法の検討を実施します。特に、2025年度は新たに航空機やドローンなどの飛翔体の活用に関して検討を開始する予定です。