成果概要

社会的意思決定を支援する気象-社会結合系の制御理論4. 社会インパクトの予測・制御と気象制御の社会的意思決定

2022年度までの進捗状況

1.概要

背景:
気象制御の有効性を測るためには、台風の強度がどれだけ弱くなったかといった気象学的な量の変化を見るだけでは不十分であり、気象災害の社会へのインパクトそのもの気象制御によってどのように変化したかを推定する”Impact-based forecasting”を行うことが不可欠です。気象災害の社会インパクトは迫りくる気象災害に関する情報を個人がどのように受け止め、地域社会において人々がどのように行動するかによって大きく変わりますが、このような社会現象としての災害を予測することは現状極めて困難です。また、人間社会への深い理解に基づいて、気象制御技術を社会に根付かせるためにはどのような過程を経る必要があるかを理解する必要もあります。
目的:
①様々な気象予測情報が個人にどのように解釈されているかを理解します。
防災関連情報が社会全体にどのように伝達され、人々の行動につながっているかを理解・予測し、適切な行動変容を導くための方策を探ります。
気象制御の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)を整理し、技術導入是非の社会的意思決定に必要な論点を抽出します。
手法(図1):
①防災情報に関する個人の認知を調べるための心理実験を実施します。
②多様な社会統計の解析により、気象予報の性能と社会全体の減災行動の間に関係があることを実証します。また実証結果に基づいて社会全体の減災行動の数理モデル構築を行います。
③市民対話ワークショップを通じて気象制御のELSI論点を抽出します。
図1. 研究開発テーマの全体像。ある一つだけの気象予測に基づいて、自然現象としての災害を予測する状態から脱却し、様々な気象シナリオを確率的に予測すると同時に、そこに住む人々の行動を予測の視野に入れて社会現象としての災害を予測できるようになることを目指します。
図1. 研究開発テーマの全体像。ある一つだけの気象予測に基づいて、自然現象としての災害を予測する状態から脱却し、様々な気象シナリオを確率的に予測すると同時に、そこに住む人々の行動を予測の視野に入れて社会現象としての災害を予測できるようになることを目指します。

2.2022年度までの成果

  • ① 心理実験を実施するためのVirtual Reality環境を構築しました (図2)。このような現実の災害を模した動画によって減災行動が促される様子をつぶさに解析することで、減災行動につながる人間の情報処理の在り方を調べる研究基盤を整えています。
  • ② 防災情報が社会ネットワークを伝搬する過程を数理モデル化し、空振りの予報が続いて人々が災害予報を信じなくなる「オオカミ少年効果」の発現をシミュレーションすることに成功しました。
  • 市民対話ワークショップを高知県・和歌山県で行い(図3)、気象制御に係るELSI論点の抽出を進めました。
図2. 心理実験で使用するVR動画の一例。このような素材を被験者に見せることを通じて災害時の個人の意思決定プロセスの理解に迫ります。
図2. 心理実験で使用するVR動画の一例。このような素材を被験者に見せることを通じて災害時の個人の意思決定プロセスの理解に迫ります。

図3. 市民対話ワークショップの様子です。
図3. 市民対話ワークショップの様子です。

3.今後の展開

今後は他の研究開発テーマとも連携し、気象災害予測に反応する人と社会を深く理解することで、気象災害予測情報の価値を最大化して人々の行動変容を促す方策を導きます。その先に気象制御技術の価値を最大化するための社会制度の在り方をデザインするような新しい研究テーマを見出します。気象制御技術をどのように設計し、その技術をどのように市民に伝えることで健全な形で技術の社会実装がなされるのか、そのような議論をリードする研究開発テーマとなることを目指しています。