成果概要

社会的意思決定を支援する気象-社会結合系の制御理論[A-2] 制御のための不確実性定量化

2023年度までの進捗状況

1. 概要

背景:
気象制御研究は制御介入手法の安全性が厳格に確認されるまでは、コンピュータシミュレーションを使った評価を行うことが大前提です。しかし、気象シミュレーションには多くの不確実性が存在しており、計算結果をそのまま信頼することは難しいのが現状です。
目的:
気象シミュレーションのあらゆる不確実性の原因を列挙し、観測を用いてその不確実性を最小化するとともに、なお残る不確実性を正確に評価してシミュレーションによる制御介入効果の正確な見積もりを実現します。
手法:
異なる設定の大量のシミュレーションと観測データを、機械学習を用いて解析しモデル開発者にもとらえきれていなかったシミュレーションの不確実性を定量化します(データ駆動型アプローチ)。一方で、高性能な人工衛星観測とシミュレーション結果を丁寧に突き合わせることで、不確実性が生じるメカニズムを明らかにし、気象学的知見を得ます(プロセス駆動型アプローチ)。(図1)
図1. 研究開発テーマの全体像。気象モデルのモデル構造やモデルパラメータの選択の恣意性から生まれる不確実性の定量化に挑みます。
図1. 研究開発テーマの全体像。気象モデルのモデル構造やモデルパラメータの選択の恣意性から生まれる不確実性の定量化に挑みます。

2. これまでの主な成果

  • ① [データ駆動型アプローチ]全球大気モデルにおいて過去に例のない9216個もの時空間分布するパラメータの推定に成功し、開発した不確実性定量化手法が気象シミュレーションにおいても有効であることを確認することができました。この手法を用いて、豪雨や台風の予測性能改善やその正確な不確実性定量化を実現しています (図2)。加えてこのような正確な不確実性情報を用いた水害対策手法に関する研究も積極的に推進しています。
  • ② [プロセス駆動型アプローチ]本研究開発テーマ及び他の研究開発テーマと連携し、様々な大規模アンサンブル実験データを解析しています(図3)。特に主要な不確実性要因であるとされる降水過程に着目し、データ駆動型のアプローチで生じた不確実性を解釈する研究を進めています。
図2. ベトナムにおける豪雨事例のシミュレーション。(左)私たちの不確実性定量化手法で作ったモデル選択の不確実性を考慮したアンサンブル予測、(中)降水観測、(右)ベトナム水文気象庁が出している現業天気予報。丸で示したところに着目すると私たちの新手法では観測された豪雨をより適切に再現できていることが分かります。
図2. ベトナムにおける豪雨事例のシミュレーション。(左)私たちの不確実性定量化手法で作ったモデル選択の不確実性を考慮したアンサンブル予測、(中)降水観測、(右)ベトナム水文気象庁が出している現業天気予報。丸で示したところに着目すると私たちの新手法では観測された豪雨をより適切に再現できていることが分かります。
図3.(左上)本研究開発テーマで行ったシミュレーションにおけるレーダ反射強度、横軸に反射強度、(右上)同様だがドップラー速度、
図3.(下)上と同じものを現場観測で描いたもの。横軸が物理量の値を表し、縦軸が高度になっていて頻度分布が示されています。このような比較をしてみると一見降水量などが正確に出ているシミュレーション結果でもその細かな表現には誤差があることが分かってきます。
図3. (左上)本研究開発テーマで行ったシミュレーションにおけるレーダ反射強度、横軸に反射強度、(右上)同様だがドップラー速度、(下)上と同じものを現場観測で描いたもの。横軸が物理量の値を表し、縦軸が高度になっていて頻度分布が示されています。このような比較をしてみると一見降水量などが正確に出ているシミュレーション結果でもその細かな表現には誤差があることが分かってきます。

3. 今後の展開

データ駆動型アプローチによる不確実性定量化のアルゴリズム開発はすでに終了し、実際の大規模気象シミュレーションへも適用が可能であると2023年度に示すことができました。今後はこの新手法を気象予測・気象制御に適用する応用研究を続けていき、気象シミュレーションに内在するあらゆる不確実性を発見・定量化・最小化することを目指します。加えて、そのような気象シミュレーションの不確実性、ひいては制御効果の不確実性をプロセス駆動型アプローチで解析し気象学的に理解することで「説明可能な気象制御」を目指していきます。