成果概要
スケーラブルで強靭な統合的量子通信システム[4] 量子情報の分散環境が可能とする分散量子アプリケーション
2024年度までの進捗状況
1. 概要
本年度は、単一ノード・リンク向けに構築した量子性評価理論を2ノード量子ネットワークへ拡張し、遠隔 CNOT 実装に必要な各ノードの量子性とベル状態忠実度を含む包括的指標を導出しました。併せて、量子インターネット・アプリケーションの準備・実行に必要な情報と手順を体系化するフレームワークを策定し、既存の RuleSet プロトコルを拡張してアプリ固有情報を組み込む新規ルールを定義しました。このフレームワークを検証可能な中間表現(IR)へ自動変換する機能も設計し、アプリケーション層から物理層までの通信プロトコルをシームレスに統合しました。具体的にはサンプリングコストを従来よりも減らして、離れたノード間のエンタングルメントを疑確率法で生成する手法を提案しました。また量子計算との統合に向けて、量子センサ、NISQに関して、量子センサネットワークの有用なアプリケーションを理論的に提案しました。具体的には、光を用いた量子センサネットワークにおいて、ドイチェジョザのアルゴリズムに触発されて、二値分類を行う方法を提案しました。エンタングルした光による高効率化が達成できることを示しました。
2. これまでの主な成果
(1) 本年度は、これまで開発してきた、単一ノード、単一リンクの量子セットアップで量子性を測定するために設計された新しい理論を、より複雑な2ノード量子ネットワークに拡張することを目指しました。この理論の拡張により、各ノードの量子性を評価しつつ、ネットワーク内の量子デバイスの全体的な品質を評価するための方法を提供することを目論みました。具体的には、リンク1本・1量子ビット計算機2台からなる物理系に対して、それらが遠隔CNOTゲートを実装するために必要な量子性を評価するための理論開発に取り組みました。また、リンクを形成するベル状態の忠実度推定まで考慮することで、量子ネットワークのより包括的な性能評価方法を模索しました。
(2) 量子インターネット・アプリケーションの実行に必要な情報と手順を定義するフレームワークを提案しました。既存のRuleSetベースのプロトコルを基に、アプリケーション準備・実行それぞれのノード間通信手順を明確化し、アプリケーション特有の情報をRuleSetsに組み込む新規ルールを導入しました。 この手法をプロトコル検証が可能な中間表現(IR)形式に変換する機能を設計しました。これによりアプリケーション層から物理層まで、全階層に渡る通信プロトコルのシームレスな接続が実現しました。

(3) 量子ネットワークにおける分散配置された量子センサと量子コンピュータのダイナミクスの解析について、分散型量子コンピュータにおけるdistillationの高効率化に成功しました。NISQにおける疑確率法を適用することで、比較的低いサンプリングコストで、離れたノード間のエンタングルメントを期待値レベルで生成する方法を提案しました。

(4)量子計算との統合に向けた量子センサ及びNISQの効率化に関する研究では、光を用いた量子センサネットワークによる二値分類の手法を提案しました。ドイチェジョザのアルゴリズムに近い考え方で、位相板の集合が与える位相の確率分布を分類するセットアップにおいて、エンタングルした光で高効率に分類を行う方法を提案しました。
3. 今後の展開
当項目は分散型量子計算の性能を最大限に活用するために必要なアルゴリズム・アプリケーション設計を目指しています。次年度は当ムーンショット目標の節目となり、これまでの研究成果を設計から運用へと展開する方策に取り組みます。これは実装プラットフォーム横断的に実施される予定です。分散型量子計算の具体的なコスト算出や、量子センシングなど実用を視野に入れた効能計測が可能となり、実社会への実装を目標とした量子情報処理に関する知見のさらなる深化・拡大を目指します。