成果概要
スケーラブルで強靭な統合的量子通信システム[4] 量子情報の分散環境が可能とする分散量子アプリケーション
2023年度までの進捗状況
1. 概要
2022年度に完成した量子性評価理論をもとに、当プロジェクト目標達成であるテストベッドに関してその量子性を評価するための実験で実施するための実験手順の特定および必要な理論解析・数値解析を行った。また、2023年度にはテストベッドネットワークに適合した分散型アプリの設計を行った。他項目の課題推進者と継続的に情報を交換し、テストベッドネットワークに実装可能な運用プロトコルやアプリが必要とする実装要件の整備を行った。分散型量子コンピュータにおいて、局所性に着目することで、高効率にエラーを除去する方法を提案した。具体的にはvirtual distillationに必要な2量子ビットゲートの回数を減らすことで、分散型量子コンピュータに適した手法の提案を行った。また量子計算との統合に向けて、量子センサ、NISQに関して、比較的少数の量子ビットで実行可能な有用なアプリケーションを理論的に提案した。具体的には、高効率なAC磁場センサの検出法の提案、少ない量子ビット数で高い表現能力を持つ量子機械学習の提案、断熱量子計算における断熱的条件の実験的検出、を行った。
2. これまでの主な成果
(1) 2022年度に完成した量子性評価方法が、最も基本的な量子計算ネットワークに対して適用可能なことを検証した。当該年度では、評価法を当プロジェクト内で実施されることが想定される実験に適用することを念頭に、実験グループと協議し、評価法を実験で実装するための具体的な手順を特定した。その実験によって到達されると予測される量子性の評価を数値計算などを用いて算出した。

(2) 分散型量子アプリの運用プロトコル整備
分散型量子アプリケーションのプロトコル整備として、秘匿型変分量子計算アルゴリズムの量子ネットワークでの運用手法を設計した。各ノードをユーザやサーバに見立てたプロトコル設計とコストの定量的分析を通じ、将来の量子ネットワークアプリケーションの運用解析に貢献することが期待される。

(3) テストベッドネットワークに適合したアプリ設計
テストベッドネットワークに適合可能な分散量子情報処理シミュレータの実装・運用を進めている。このシミュレータはハードウェアから抽象回路まで量子通信の多層構成を網羅的に取り扱ったアプリとなっており、今後の新規参加者の速やかな知識・技術習得への活用も想定している。
(4) 量子ネットワークにおける分散配置された量子センサと量子コンピュータのダイナミクスの解析について、量子アルゴリズムの局所的な性能を評価した。特に、分散型量子コンピュータでvirtual distillationを効率的に実装する方法を提案し、量子通信の光子損失による影響を軽減する手法を開発した。

(5) 量子計算との統合に向けた量子センサ及びNISQの効率化に関する研究では、少数の量子ビットを使用しエラーが少なくdepthも浅い状態での新手法を開発した。特に、窒素空孔中心でAC磁場を検出する方法や、KPOを用いた量子機械学習の表現能力を高める技術、及び断熱量子計算の断熱的条件を実験的に計測する新たな方法を提案した。
3. 今後の展開
より複雑な分散型量子計算システムの研究に焦点を当て、遠隔CNOTゲートの実装のための量子性を評価する。過去のChoi演算子を応用した手法が有用であり、さらにベル状態の忠実度を評価して量子ネットワークの全体的な性能を高める。また、分散型量子アルゴリズムについては標準化とテストベッドネットワークで実装・運用を目指し、これまでの研究成果を基に、より詳細なコスト定量化・プロトコル開発を推進する。さらに、分散型アーキテクチャの性能評価やエラー耐性の向上を目指し、量子センサを組み込んで新たなアプリケーションの提案も進める。これらの取り組みにおいて他項目の研究者との連携を一層強化し、緊密な情報交換を行う。