成果概要

スケーラブルで強靭な統合的量子通信システム[3] 量子信号の中継・変換を実現する量子メモリ・量子中継

2024年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目では、光・マイクロ波などの電磁波と物質の量子系間の変換およびそれに基づく量子中継の研究開発を実施しています。
開発技術は、可視域の光子結合する量子メモリ系希土類添加物Pr:YSOやルビジウム原子、マイクロ波と結合する量子メカニカルメモリ、そして量子メモリと光をつなぐ周波数安定化や量子トランスデューサ技術などです。これらの開発は、量子メモリ間の量子もつれ生成とそれに続く量子中継、超伝導量子コンピュータと量子通信の接続へとつながります。

2. これまでの主な成果

量子中継ネットワークに向けた多重化量子メモリ開発

多数のPr:YSO結晶の吸収スペクトルに量子メモリ領域を複数生成し、図のように30以上のメモリ領域を作成しました。

図1
図1:Pr:YSOに作成された30以上のメモリ領域
中継用量子メモリ光源安定化技術の開発

量子中継において量子メモリと結合するために周波数安定化が必要な光源の安定化技術開発を進めました。特に今年度は、もつれ光子伝送用レーザーの周波数安定化と高信頼性光コムの開発を実施しました。その結果、もつれ光子伝送用レーザーの周波数変動を1kHz以下に抑えることに成功しました。また、光コムのキャリアエンベロープオフセット周波数の位相同期を実現しました。

スピン波によるもつれ光子発生の確実性向上に関する研究

ルビジウム原子をレーザー光で冷却して捕捉し、さらにその内部の状態をレーザー光で精密に制御できる技術を整備しました。これにより、量子メモリの基本動作に必要な原子の制御が可能となりました。さらに、高性能な鏡を使って光子を閉じ込めるための光共振器を作り、光と原子が効率よく量子情報をやり取りできる仕組みを構築しました。また、原子を光共振器内に安定的に留めるために必要な「一次元光格子」と呼ばれる原子トラップの準備も進めるなど、量子メモリの完成に向けた重要なステップを着実に積み上げています。

量子メカニカルメモリの開発

開発にあたり、ファブリケーションの最適化や,メカニカルメモリの時間の向上、量子トランスデューサにおける変換効率の向上を目指した測定環境の構築や設備の整備を行いました。3He温度におけるオプトメカニカルデバイスの評価のためHe冷凍機を導入しました(写真1)。

写真1
写真1: 導入した3He冷凍機

また量子トランスデューサ用リブ型光導波路の内部損失改善のため、CMPプロセス導入により表面荒れの減少を達成しました。(写真2)

写真2
写真2: 表面研磨された光導波路

そして、メカニカルメモリ時間の向上をめざした研究では、光デバイスと同じチップ上に作製できる圧電薄膜上のメカニカルメモリを開発しました(写真3)。

写真3
写真3: メカニカル共振器

3. 今後の展開

開発している量子メモリや周波数安定化技術を導入した量子メモリ間もつれの実証をふくむ量子中継技術へと発展させていきます。また量子メカニカルメモリ・量子トランスデューサの開発を通じて、超伝導量子コンピュータの量子通信環境との接続へと進めます。