成果概要

スケーラブルで強靭な統合的量子通信システム[2] 量子光の精緻な制御を可能にする量子光通信技術

2023年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目では、量子コンピュータネットワークシステムの統合実証に向けて、主に量子ネットワークのハード面で求められる要素技術の開発を行っています。特に量子もつれ光を使って量子計算ノード間を量子的に接続するハード技術は分散型量子コンピュータ実現のための根幹技術のひとつであり、アーキテクチャ、量子メモリ、全体システム実証といった他の開発テーマと連携を密にとりながら研究開発を進めています。
技術的には2つのアプローチから研究に取り組んでいます。1つは、光子2つが量子的に干渉する「2光子干渉型」の量子もつれ光源の開発と、分散型量子コンピュータシステムの構築です。2光子型は比較的技術が確立している方式で、システム実証の開発テーマと連携し、本研究開発項目で開発された技術を実装した分散型量子コンピュータシステムの原理実証を進めています。
もう1つは、0光子(真空)と1光子の量子重ね合わせからなる「1光子干渉型量子もつれ光」を用いたネットワーク構築です。この方式は、位相同期など2光子に比べ高度な技術の開発が必要になりますが、光損失に耐性を持つ、波長多重型の量子メモリと親和性が高い、など優れたポテンシャルを持った次世代の量子光技術です。開発要素は多岐にわたっており、たとえば、1光子型量子もつれ光源、量子もつれ光源間の位相同期技術、量子もつれ交換方式、光子ルーティング法の設計などの研究をおこなっており、将来的なネットワーク実証を目指し研究開発に取り組んでいます。

図1. 量子もつれ光実験系
図1. 量子もつれ光実験系

2. これまでの主な成果

量子計算ノード間を量子もつれ光で接続する際、様々な技術的理由により光損失が生じます。このため、損失に耐性がある効率的な光接続の手法の開発が重要になります。また、3つ以上の複数のノード間を接続する場合、2者間の量子もつれでノードを1つずつ接続した方がよい場合や、多者間の量子もつれ状態を使って一気に接続した方がよい場合など、様々なケースが考えられます。本課題では、1光子干渉型の量子もつれの性質を使って、スター型の量子ネットワークにおいて2者間や多者間の様々な種類の量子もつれを、従来よりも効率的に(より光損失に強く)各ノードに配信、またはルーティングする新しい手法を提案しました(Phys. Rev. A 2023)。本手法は、線形光学素子からなる比較的小規模な光回路と光子検出器で構成され、現在の技術でも十分実現可能な方法です。本成果により、その設計指針が得られ、原理実証実験に向けた本格的な技術開発の取り組みが可能となりました。また、この手法を拡張していく際に必要になる量子もつれ光源間の位相同期技術や、量子メモリの波長と通信波長の間をつなぐ量子もつれ光源などの要素技術の開発にも成功しました。さらに、より簡便な2光子型量子もつれ光源を開発し、全体システム実証に必要なハードウェアを構築しています。これらの成果は、それ自体が新技術の実現であるとともに、プロジェクト内の様々な開発テーマを支える基本要素技術となっています。

図2. スター型ネットワークでの量子もつれの配信手法
図2. スター型ネットワークでの量子もつれの配信手法

3. 今後の展開

引き続き、2光子干渉方式の開発を進め、プロジェクト全体のシステム実証実験に貢献します。さらに、次世代方式として1光子干渉型の様々な要素技術開発し、本格的な分散型量子コンピュータに必要な量子ネットワーキングの技術を探求します。