成果概要
スケーラブルで強靭な統合的量子通信システム[1] 強靭で大規模な通信網を実現する新しいネットワークアーキテクチャ・プロトコルの開発
2023年度までの進捗状況
1. 概要
多数の量子コンピュータを量子ネットワークで結合して大規模化する際、その目的は、接続された量子コンピュータの性能ひいては分散量子計算の潜在能力を最大限に引き出すことです。そのためには、賢いネットワーク設計が重要です。通信がボトルネックとなって分散量子計算の性能を損なわないよう、プロトコルやアーキテクチャで保証すべき性質や性能を検討し、経路の切り替え機といった通信資源の使用順序などを適切に管理する必要があります。分散量子計算は量子もつれを事前配布できるといった分散古典計算とは根本的に異なる特性があり、古典での解決法をそのまま使うことができません。初期の分散量子計算機は性能に余裕がないため、量子メモリの効率的利用やエラー訂正などの工夫も求められます。

本項目では、特にアーキテクチャ、プロトコル、古典制御の観点から賢いネットワーク設計を行うことを目的としています。実際のシステム設計とテストベッドでの計測に加え、対応するネットワークシミュレーションも駆使してシステムとして実際に実現できる性能がどのように決まるのかを明らかにしていきます。
2. これまでの主な成果
2023年度の主要な成果は以下の通りです。①量子ネットワークにおけるハードウェアに求められる指標を算出し、光技術を用いたプロトタイプの初期実装を開始しました。②古典制御系のプロトタイプ実装を進めました。特に光子検出信号の高速高時間分解読み出し、高速信号処理、ノード間で低遅延通信の開発をすすめました。また、多数ノード間でのタイミング同期の効率的仕組みについても明らかにしました。下図は低遅延通信のプロトタイプです。③レイヤー・モジュール分割のプロトタイプ仕様を決め必要な機能や仕様の調整を行いました。また、量子信号のみを用いたパルス番号同期といったシステム実装を効率化するアルゴリズムも実装しました。④量子ネットワークシミュレーションパッケージ QuISP の機能を拡張するとともに、他の量子ネットワークシミュレーションパッケージSeQUeNCeの開発チームと相互検証を始め、シミュレーションの信頼性向上を進めています。通信プロトコルの開発においては、通信開始、多重化、管理の方式についての仕様の文書化を進めています。

⑤大規模な量子ネットワークにおける量子メモリーの機能の重要性を数値的に示しました。エンタングルメントを制御することで、分散量子ネットワークにポジティブなフィードバックをかけることができ、結果量子的なクラスターを広げることができるという、分散古典ネットワークにはない性質を示しました。

3. 今後の展開
引き続き、理論、実証、シミュレーションを組み合わせて賢いネットワーク設計を進め、大規模分散量子計算機の効率的な実現に向けて開発を進めていきます。特に、量子光通信技術、量子メモリ・中継技術、分散量子アプリケーションでの開発要素を通信プロトコルや古典制御技術を用いて繋ぎ合わせ、テストベッドを通信システムとして動かすことを目指していきます。また、他のプロジェクトとも連携し、大規模分散量子計算アーキテクチャの観点から今後の開発指針を得ることを目指していきます。