成果概要
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スケーラブルで強靭な統合的量子通信システム[1] 強靭で大規模な通信網を実現する新しいネットワークアーキテクチャ・プロトコルの開発
2025年度までの進捗状況
1. 概要
量子コンピュータの性能は発展し続けていますが、各時代における最高性能すなわち限界性能があります。分散型量子コンピューティングは、複数の量子コンピュータを接続することで、その時代の量子コンピュータの限界性能を超えた計算性能を実現するメカニズムです。この実現には、単に多数の量子コンピュータを接続するだけでなく、それぞれの処理能力を統合的に活用し、全体として一体的な量子アプリケーションを実行可能にする分散量子情報処理環境の構築が不可欠です。そのような環境を実現するため、本項目では、他項目から提供されるハードウェア性能や理論的な制約に関するデータ等を基に、分散型量子コンピュータアーキテクチャを設計するための研究を実施しました。PJ開始時において分散型量子コンピュータアーキテクチャの研究は世界的にも進んでおらず、そのデザイン空間は膨大でしたが、本項目の成果により、適切なデザインを絞ることができました。特に、大量の量子データを扱っても計算資源の競合による性能低下が起こらない効率的でスケーラブルな量子ネットワークの基本設計指針を得たことは分散型量子コンピューティングシステムの産業化に向けた大きな飛躍となりました。資源管理を行う量子コンピュータネットワークプロトコルを提案する研究は、量子情報工学における世界最大の国際会議IEEE Quantum Weekにおいてアワードを受賞しました。
2. これまでの主な成果
上述の量子ネットワークの基本設計指針として、Q-Flyアーキテクチャを提案し(図1)、この基本グループ(図1赤点線)を実装するための設計や仕様策定を行いました。これらを元に、量子ネットワークの制御に利用するTime-to-Digital Converter (図2)やデバイス制御ソフトウェア(PnPQ)を開発し、オープンソースとして公開しました(図3)。これを他の研究開発項目に提供して、プロトコルで複数ノードが相互に連携・制御して光子のスイッチングを行って任意の量子ノード間にもつれを生成する量子ネットワークのプロトタイプ実装に成功し、性能を評価しました。




量子光スイッチに適切なシリコンフォトニクスチップの設計(図4)も実施し、特許を取得しました。
量子もつれを大量に消費する量子エラー訂正符号ネットワークにおいて必要となる効率的な量子通信メモリ管理手法と、それに対応する量子リンクアーキテクチャを特定するための研究を行い、シミュレーションによって、10mといったデータセンター内距離通信においてMemory-Source-Memoryリンクアーキテクチャが高性能を発揮することを確かめました。また、比較的大きなノイズ環境において資源面での高効率を実現するEntanglement Ejectionを発案しました。さらに、リンク通信帯域が足りない場合に備えて複数のリンクを集約して量子エラー訂正ネットワークを実現する手法を開発しました。
副次的効果として量子リンクの異常診断結果を得られる量子もつれのエラー検知手法を開発し、高価な計算資源である量子もつれを量子ネットワーク管理のために消費する必要がなくなり、全てをアプリケーション実行に利用可能になりました。
さらに、分散量子計算の性能を見積もるための量子ネットワークシミュレータや評価ソフトウェアを開発し、今後の分散型量子コンピュータ研究を加速する下地を構築しました。また、ネットワークの設計・改善性能予測のために、ハードウェアコンポーネント性能をシミュレータで精緻にシミュレーション可能であることを確認しました。
3. 今後の展開
Q-Flyを始めとした本項目で生まれた技術は特に光技術との親和性が高いものであり、光を量子通信に利用する任意の物理系に適用可能であると予測しています。今回開発した技術を利用して、空間的に離れた場所に設置された量子コンピュータから発せられる量子もつれ光子をQ-Flyトポロジー上でルーティングし、任意の量子ビット間に遠隔もつれを生成するプロトタイプ実装と評価を行います。これにより大規模で効率的な分散型量子コンピュータを構築・産業化する道筋をより強固なものとします。