研究開発の概要

拡張性のあるシリコン量子コンピュータ技術の開発

1.プログラムにおける位置づけ

本プロジェクトは、量子コンピュータの実現に向けて、拡張性のある半導体量子ビットデバイス技術を開発することを目指しています。この研究開発テーマの達成により、量子ビットの大規模化と誤り訂正の導入が可能となり、ムーンショット目標6で目指す「誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現」に貢献します。

2.研究開発の概要及び挑戦的な課題

本プロジェクトは、半導体量子コンピュータの実装に向けて、拡張性のある多重量子ビットデバイスの技術開発を目標としています。この達成のために、スパースな集積化と中距離量子結合からなる、量子ビットの単位構造を作製し、その繰り返しを高品質のシリコン・シリコンゲルマニウム(Si/SiGe)の半導体基板上に搭載することにより大規模な量子コンピュータの実装を目指します。この目標の達成のためには、産業と連携可能な量子ビットデバイスの作製技術の開発が課題となっており、この点を挑戦的テーマとして取り組んでいます。この取り組みは、中距離量子結合を組み込んだ量子ビット集積化という、従来とはまったく異なる発想に基づいています。また、新原理の量子コンピュータとして、伝搬する電子波束で定義される量子ビットを制御する方式を開発しています。

シリコン中に作製した3量子ビットの電子顕微鏡写真(左下)とデバイスの外観(左上)、同デバイスを設置する希釈冷凍機の内部配線構造(右)。
シリコン中に作製した3量子ビットの電子顕微鏡写真(左下)とデバイスの外観(左上)、同デバイスを設置する希釈冷凍機の内部配線構造(右)。

現在、初年度計画では、主として多重量子ビットデバイスを制御するためのエレクトロニクス、大型希釈冷凍機システム、結晶成長装置の導入を進めています。これと並行して、量子コンピュータの構成要素となる小規模量子ビット構造の試作、中距離量子結合に適した量子チャネルの設計、シリコン結晶基板の高品質化を達成するためのヘテロ界面の制御法の開発、電子波束を生成するための基礎実験を行っています。

中距離量子結合を作るための量子ビット伝送路の概念図。
中距離量子結合を作るための量子ビット伝送路の概念図。

2経路干渉計で作られる電子波束量子ビットのイメージ。
2経路干渉計で作られる電子波束量子ビットのイメージ。

3.今後の展開

今後は、まず小~中規模の量子コンピュータを構成する基本の量子ビットデバイスを作製し、特性を評価するとともに、問題点を把握します。この結果を基に、産業連携に適合する、拡張性のある多重量子ビットデバイスを実装するための技術開発に挑戦します。新原理の量子コンピュータに関しては、電子波束の安定な量子コヒーレンスの実証と量子ビット操作の実装により、有用性を示します。これらを実施することにより、誤り耐性量子コンピュータの実現に繋がります。

集積型半導体量子チップのイメージ(左下)と測定環境:電気的測定系(中央)と希釈冷凍機(右)。
集積型半導体量子チップのイメージ(左下)と測定環境:電気的測定系(中央)と希釈冷凍機(右)。