成果概要
拡張性のあるシリコン量子コンピュータ技術の開発[4] 新原理電子波束量子ビットの開発
2023年度までの進捗状況
1. 概要
本研究項目では、半導体量子回路を緩和・変形せずに伝搬する電子波束の状態で定義される量子ビットを用いた新しい量子計算手法の実証とその基盤技術の開発を行っています。将来的には、電子源から生成した電子波束量子ビット列をループ回路に導入し、多数の電子波束が同じ量子回路を繰り返し、条件を変えながら伝搬するようなシステムを構築し、少ない量子回路で多数の波束量子ビットを任意に制御することを目指します。

この達成のため、電子波束量子ビットを高密度で生成し、高い忠実度で操作する技術の開発(課題1)、及び電子波束の伝導の量子力学的な制御と電子波束の単一波束単位での読み出し技術の開発(課題2)に取り組んでいます。
2. これまでの主な成果
電子波束量子ビットを高密度で生成し、高い忠実度で操作する技術の開発に取り組んでいる課題1では、単一伝導モードの干渉計を用いた電子波束の量子干渉実験を行うための試料開発と実験系の構築を行いました。設計した試料は電子波束量子ビットの1量子ビット演算に加えて2量子ビット演算も行うことができる構造となっており、実証実験の準備を進めています。また、実験系については特に高周波線のセットアップを整え、40 GHzまでの帯域の信号を試料に印加することが可能なセットアップを整えました。また、並行して実験を進め、研究の進捗を加速させるため、従来の実験セットアップに加え、新たに希釈冷凍機の導入を行い、測定環境を整備しました。さらに、高密度な電子波束の生成技術として光パルスを電気パルスに変換する技術の開発に取り組み、実験に必要となるレーザーシステムを導入しました。

電子波束の伝導の量子力学的な制御と電子波束の単一波束単位での読み出し技術の開発に取り組んでいる課題2に関しては、電子波束の新しい速度制御法の開発に取り組みました。その結果、電子波束の長さに対して適切な距離で2個の局所的な閉じ込め構造を配置し、その閉じ込めを制御することで、電子波束の速度が制御可能であることを実証しました。この成果は電子波束に対する遅延回路などへの応用が可能です。また、単一電子波束の読み出し技術の実証に向けて、試料の設計を行うとともに、希釈冷凍機を始めとした実験セットアップの整備を行いました。2024年度には整えたセットアップで単一電子波束の読み出し実験を開始する予定となっています。

3. 今後の展開
課題1では、光パルスと電気パルスの変換に基づくピコ秒オーダーの幅の電子波束の生成技術の実証や高い忠実度の電子波束量子ビット操作の実証を行います。また、time-bin量子ビットとwhich-path量子ビットの変換技術の実証実験に取り組み、電子波束量子ビットの長距離コヒーレンスの実証を行います。課題2では、単一電子波束の読み出し実験に取り組み、10個以下の電子を含む電子波束の単発測定による検出を目指します。これらの技術は、電子波束を用いた量子コンピュータ実現に向けた基盤技術となります。