成果概要
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拡張性のあるシリコン量子コンピュータ技術の開発[4] 新原理電子波束量子ビットの開発
2025年度までの進捗状況
1. 概要
本研究開発項目では、特殊な電子波束を量子ビットとして用いる新しい量子計算手法の実証とその基盤技術の開発を行っています。この電子波束は散逸を被ることなく形状を保ったまま半導体量子回路を伝播することができます。将来的には、電子源から生成した電子波束量子ビット列をループ回路に導入し、多数の電子波束が同じ量子回路を繰り返し、条件を変えながら伝播するようなシステムを構築し、少ない量子回路で多数の波束量子ビットを任意に制御することを目指します。
そのため、電子波束量子ビットを高密度で生成し、高い忠実度で操作する技術の開発(課題1)、及び電子波束の伝導の量子力学的な制御と電子波束の単一波束単位での読み出し技術の開発(課題2)に取り組みました。

2. これまでの主な成果
課題1では、量子干渉計における電子波束の伝導実験及び電子波束を用いた量子計算システムの設計に取り組みました。この研究では、量子干渉計にDC電流とパルス電流を同時に注入し、干渉の可視度を評価しました。干渉の可視度がDC電圧の大きさに強く依存する一方で、1mV程度以下の大きさのパルスについては、その振幅にはほとんど依存しないことが明らかになりました。この結果は、DC電圧によって注入され、個々の電子が独立した準粒子として振る舞う伝導電子の量子状態が短距離で緩和するのに対し、電気パルスで注入され、電荷の集団励起であるプラズモンとして伝播する短い電子波束の状態は、長距離に渡って保持されることを示唆しています。同時に、電子波束が、DC電流とは独立に伝播することがわかりました。一方で、ゲート電極で設計した従来の量子干渉計では、電子の反射(後方散乱)を完全に防げないことが問題になっていました。そこで、後方散乱を完全に抑制し、波束伝播を精密に制御できる量子ホール端チャネルを用いた集積可能な量子演算構造を考案しました。そして、それを用いた中規模量子計算システムを新たに設計し、その試作を行いました。

課題2では、電子波束の量子状態の制御手法として、電子波束の長さに対して適切な間隔で配置した局所閉じ込め構造を用いる新たな手法を考案し、実証しました。この成果は、電子波束の遅延回路や同期制御に応用できます。また、同手法は電子波束が持つ情報の周辺回路への漏れ出しを防ぐためにも活用することができ、電子波束の量子状態の高忠実度な制御の実現に貢献します。

課題2では、電子2個のスピン状態で定義されるスピン一重項・三重項量子ビットを電荷計として利用する電子波束の検出スキームの開発にも取り組みました。これまでに、極低温環境における高周波制御・測定環境を整備し、10 GHz帯域の電子波束の生成・制御に成功しました。また、スピン状態の読み出しに必要なパウリスピンブロッケードの観測に成功するなど、高感度な単一電子波束の読み出しの実現に向けた実験基盤を確立しました。
3. 今後の展開
これまでの成果により、電子波束を用いた量子計算手法実現に向けた技術的な基盤が整いました。今後は、ピコ秒オーダーの短い電子波束の精製技術の確立、電子波束の1mmを超える長距離回路での高い可干渉性の実証、高感度な単一電子波束の読み出しの実証などを行い、少ない量子回路で多数の波束量子ビットを任意に制御することが可能な電子波束量子コンピュータの実現に取り組んでまいります。