成果概要

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拡張性のあるシリコン量子コンピュータ技術の開発[2] 中距離量子結合技術

2025年度までの進捗状況

1. 概要

将来の大規模な量子コンピュータを実現するには、計算を担う量子ビットを半導体チップ内で安定に並べ、必要に応じてつなぐ技術が必要です。本研究開発項目では、ナノメートルの精度で集積できる半導体技術を活用しつつ、チップ内のマイクロメートルスケールで離れた場所にある量子ビット同士をつなぐ「中距離量子結合」の実現に取り組んでいます。

図1
図1 中距離結合で量子ビットをつないだ概念図

2. これまでの主な成果

1. 各種量子ビット伝送方式の実現可能性の検証

半導体の中で量子ビットを離れた場所へ運ぶ方式として、トンネル効果で受け渡す「バケツリレー方式」、動く電気的な閉じ込めに載せて運ぶ「コンベイヤーモード方式」、中継を担う量子状態を交換相互作用で移す方式などを比較しました。それぞれの方式について、電気的な効果や電子の動きを数値計算で調べ、高忠実度の伝送を保つ条件を検証し、注力すべき課題を抽出しました。共通するキーワードの一つとして操作の断熱性が挙げられます。

2. 多重量子ドットの測定と制御系の検証

中距離量子結合技術を実現するには、量子ビットを伝送するための構造と、それを制御する測定環境が必要です。量子ビットの移動を調べるための試料を作製し、極低温(10mK)で動作を確認する測定環境を整備しました。これにより、試料の構造、加える電圧、移動させる速さを組み合わせて調べるための基盤を整えました。

図2
図2 中距離量子結合実験系の設備
3. コンベイヤーモード方式へ向けたデバイス開発

これまでの検討により、周期的な電極構造と周期的な電圧信号を利用するコンベイヤーモード方式が、構造の規則性やスケーラビリティの観点から有望であることが分かりました。また、試作した多重量子ドットデバイスでは、ポテンシャルの不均一性の影響を受けたことにより、電子の安定な伝送には均一なポテンシャルを形成できる試料構造と、電極の間隔が重要であることが明らかになりました。これらの結果は砒化ガリウムデバイスを用いて実証しました。

図3
図3 多重量子ドットの電子顕微鏡写真と、10mKで測定された単一電子領域の量子ドット列形成の様子

今後は、実証対象をシリコンデバイスへと移行し、外部機関との連携による試作デバイスを活用し、伝送路の評価や、小規模設計による条件の抽出を行います。シリコンデバイスでは、電荷伝送の正確さだけでなく、電子を運ぶ間にスピン状態が乱れないように保つ技術が必要になります。

図4
図4 開発中の周期ゲート構造デバイスの例

3. 今後の展開

本研究で得られた成果は、将来的な大規模量子プロセッサの構築に向けた基盤技術となります。特に、制御配線の空間を確保しながら、離れた量子ビット列を結ぶためには、シリコン集積技術に適合する、高精度な中距離量子結合技術が必要です。今後は、コンベイヤーモード方式を中心に、シリコンデバイス中で電荷を断熱的に伝送し、スピン状態を保つ伝送を検証していきます。これにより、拡張性のある量子ビットの結合技術の確立を目指します。