成果概要
大規模集積シリコン量子コンピュータの研究開発[2] 極低温複数チップ実装システム
2024年度までの進捗状況
1. 概要
本研究開発項目は、シリコン量子コンピュータの大規模集積化に向けた極低温回路実装基盤技術を担っています。本テーマの達成により、多数のシリコン量子ビットの高精度制御および高密度実装が可能となり、プロジェクトが目指す大規模集積シリコン量子コンピュータの開発、さらにはムーンショット目標6で掲げる誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現に貢献します。
その達成に向けて、次の3つの挑戦的な課題に取り組んでいます。まず、希釈冷凍機内部から多数の量子ビットを制御可能とする小型・低消費電力の極低温アナログ回路を開発します(課題4-1)。また、希釈冷凍機に量子ビットを格納する実装技術において、量子ビットチップとそのインターフェース機能をインターポーザ上に集積する革新的なパッケージング技術を開発します(課題4-2)。さらに、量子ビットの制御精度に影響を与える環境ノイズを監視し、制御回路にフィードバックする極低温環境モニタリング手法を確立します(課題5)。

2. これまでの主な成果
希釈冷凍機内の4Kステージからシリコン量子ビットを制御するため、16ビットのバイアス電圧生成回路を含む極低温量子制御回路を開発してきました。さらに高精度な制御を実現するため、量子ビットにより近い100mKの温度領域において信号の観測や量子ビットの読出しに適用可能な極低温AD変換回路を開発しました。本AD変換器では、極めて厳しい消費電力の制約を満たしつつ広帯域性能を両立することを目的に、新たな回路アーキテクチャを考案し、これに基づく試作チップを開発しました。希釈冷凍機に本試作チップを搭載し、100mK温度領域において、30μWの消費電力で正常に動作することを確認しました。さらに、本回路を環境モニタリングシステムにおけるパルス信号波形の観測に適用し、等価サンプリング手法を用いることで、量子ビット近傍におけるパルス波形を1nsスケールの時間分解能で取得しました。

極低温複数チップ実装技術では、量子ビットチップとインターフェースチップの統合パッケージングの開発に加え、量子ビット動作時に発生する熱を効率的に排熱するチップ実装技術の検討を行いました。シリコンインターポーザにシリコン貫通ビアを形成し信号伝送と排熱を両立する極低温パッケージング構造を開発しました。銅の貫通ビアに銅ピラーを形成し、Cu―Cuボンディングにより銅基板と接続するプロセス技術を構築しました。さらに本パッケージング構造の極低温耐性を評価するため、極低温冷凍機を用いて熱サイクル試験を行い、断面観察により正常に接合状態が維持されていることを確認しました。現在は、極低温温度センサーを活用した環境モニタリング技術を用いて本構造の排熱特性評価の準備を進めています。

3. 今後の展開
極低温量子制御回路や環境モニタリング技術を実際の量子ビット実験環境に導入します。量子ビット近傍におけるパルス信号の生成・観測を通じて、量子ビット制御精度の改善効果を検証します。また、極低温チップパッケージング技術では、インターポーザを用いた量子ビット実験を継続するとともに、TSVを介した信号伝送および排熱機構の効果について実証評価を進めます。これらの取り組みを通じて、大規模集積シリコン量子コンピュータの実現に向けた回路・実装基盤技術を開発します。