成果概要

大規模集積シリコン量子コンピュータの研究開発[2] 極低温複数チップ実装システム

2023年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発テーマは、シリコン量子コンピュータの大規模集積化のための極低温回路実装基盤技術を担っています。この研究開発テーマの達成により、多数のシリコン量子ビットの高精度制御や高密度実装が可能となり、プロジェクトの目指す大規模集積シリコン量子コンピュータの開発、ムーンショット目標6で目指す誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現に貢献します。
達成に向けて、次の3つの挑戦的テーマに取り組んでいます。まずは、希釈冷凍機内部から量子ビットを制御する極低温回路において、多数の量子ビット制御を可能にする小型・低電力アナログ回路を開発します(課題4-1)。また、希釈冷凍機内に量子ビットを格納する実装技術において、量子ビットチップとそのインターフェース機能をインターポーザ上に集積する斬新なパッケージ開発に取り組みます(課題4-2)。さらに、量子ビットの精度に影響を与える環境ノイズを監視し、制御回路にフィードバックする極低温環境モニタリング手法を確立します(課題5)。

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2. これまでの主な成果

  • ①量子ビット制御用の極低温制御チップを開発
  • ②量子チップを積層するパッケージング技術を開発
  • ③量子チップ周辺環境をモニタリングする回路技術を開発

上記において、①ではシリコン量子ビットを希釈冷凍機の4Kステージから制御するためのチップ(バージョン2)を開発しました。量子ビットのバイアス制御電圧を生成する16ビット極低温DA変換回路と、チップ内部で信号を観測する11ビット極低温AD変換回路を設計し、それぞれ4Kの温度で正常動作することを確認しました。DA変換回路では新規補正技術により、小面積を維持したまま、線形性の向上を達成しています。これにより、59チャネルの高分解能バイアス生成回路を1チップに集積しました。また、極低温AD変換機を活用することで、RF生成回路で発生する信号の精度を改善することも確認しています。

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②では、シリコン量子ビットチップの極低温パッケージング技術を開発しました。シリコン量子ビットチップをインターポーザ上にフリップチップ実装したマルチチップパッケージを試作し、断熱消磁冷凍機を用いて極低温構造評価を実施するとともに、インターポーザを用いた量子ビットの特性評価を進めています。また、シリコンインターポーザに貫通シリコンビア(TSV)を形成し、効率的な信号引き出しと排熱を両立するパッケージング構造の実現に向けてウエハの製造加工を進めています。
③では、量子ビット近傍の温度、電源基板ノイズ、制御信号波形など、量子ビットの制御精度に影響を与える環境ノイズを取得する極低温センサー回路を開発しました。超低消費電力AD変換器をインターポーザ上に搭載し、シリコン量子ビットと同じ100mKの極低温において動作することを確認しました。

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3. 今後の展開

極低温制御チップと量子ビットチップを組み合わせて、量子ビットの制御実験を実施します。また、量子ビットチップを積層したマルチチップにおける廃熱特性の極低温評価を継続するとともに、環境モニタリング回路で取得した情報のフィードバック手法を検討します。以上のように、大規模集積シリコン量子コンピュータの実現に向けた回路・実装基盤技術を開発します。