成果概要

誤り耐性型量子コンピュータにおける理論・ソフトウェアの研究開発1. クロスレイヤー協調設計モデルの開発と拡張

2022年度までの進捗状況

1.概要

本研究開発テーマでは誤り耐性型量子コンピュータの設計を効率的に行う枠組みを構築します。通常の計算機には計算機の全体像を切り分け最適な設計を探求する種々の枠組みがありますが、誤り耐性型量子コンピュータにはこうした基盤が存在しません。このことが長期的な計画の立案や将来必要となる技術を先取りした開発を困難にしてきました。この問題を解決するため、本研究開発テーマでは誤り耐性型量子コンピュータで技術的なレイヤーを超えた協調設計を可能にするソフトウェア基盤「クロスレイヤー協調設計モデル」を構築します。このシステムを活用することで、誤り耐性型量子コンピュータの全体像を見据えた研究開発や、今後必要となる技術や要求性能を先読みした研究テーマの設定が可能となります。こうした取り組みはムーンショット目標6が目指す実用的な誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現を計画的に行う上で重要となります。

クロスレイヤー協調設計モデルの構想図
クロスレイヤー協調設計モデルの構想図

クロスレイヤー協調設計モデルの開発は以下のような手続きで進めます。まず、誤り耐性型量子コンピュータで必要となる要素を技術レイヤーごとに分解し、各レイヤーにおいて誤り耐性型量子コンピュータを構成するのに必要な構成要素を列挙したミニマルモデルを構築します。このモデルをもとに将来的な技術的課題を洗い出し、他項目の研究者と連携して課題を一つずつ解決します。そこで得られた結果をミニマルモデルに肉付けする形で還元し、複数の技術を組み合わせた現実的で洗練された量子コンピュータを設計する仕組みを組み上げます。

クロスレイヤー協調設計モデルにおける技術レイヤ
クロスレイヤー協調設計モデルにおける技術レイヤ

2.2022年度までの成果

  • ①超伝導量子ビットを前提としたミニマルモデルの構築
  • ②量子計算機の実行時間や速度の評価
  • ③量子計算機のアーキテクチャと回路設計
  • ④量子計算機の性能改善手法の提案

2022年までの主要な成果は、各レイヤーにおける要素を技術的に評価する基盤であるミニマルモデルの構築(成果①)、および、これを活用した早期に実用化が期待されるアプリケーションの性能評価(成果②)です。また、これらの評価基盤を土台としてロジックを緻密化し、主要な制御回路を具体的に設計し性能を評価しました(成果③)。設計の結果として計算機のボトルネックとなる箇所や、理想的な仮定の下では動作するが性能のばらつきや時間変化といった現実的な特性に脆弱な箇所があらわになりました。これを踏まえ、量子計算の設計に必要な資源のバランスをとり実用的な環境で高速に動作させるためのアーキテクチャとコンパイラ最適化の手法を提案しました(成果④)。これらの成果をもとに、得られたベンチマークを通常の計算機と比較し、量子計算機で優位性を得るために必要な資源量をシステムレベルで初めて定量的に見積もりました。
本課題の成果はレイヤーごとに網羅的に設計された評価基盤により可能となったものです。この成果は開発目標の具体化と性能の改善を可能にしただけでなく、技術的なレイヤーを跨いだ設計探索や計算機、物理、回路設計分野などとの深い連携の実現にも貢献しています。

量子誤り訂正を行う制御部の構造図
量子誤り訂正を行う制御部の構造図

3.今後の展開

引き続き計算機設計や回路集積化に取り組むグループとの連携を密にして、量子計算機の開発と性能改善に取り組みます。また、超伝導以外の量子デバイスのグループと連携を密にして超伝導の設計を横展開し、クロスレイヤー協調設計モデルの実現に向けた取り組みを進めます。これにより誤り耐性量子計算の柔軟かつ具体的な設計を可能にするとともに、その課題の解決にいち早く取り組みます。