成果概要

誤り耐性型量子コンピュータにおける理論・ソフトウェアの研究開発2. 誤り耐性型量子コンピュータのハードウェア制御法の開発とその性能解析

2022年度までの進捗状況

1.概要

本研究開発テーマでは、誤り耐性型量子コンピュータを構築するために有望な候補となる物理系について、物理系の特性の理解を定量的に進めるとともに、特性を生かした新しい実装方式の提案を行っています。また、デバイス技術の研究推進に有用なシミュレーターや最適化手法などのソフトウェア技術開発も並行して行っています。

2.2022年度までの成果

①超伝導-マイクロ波光子間の量子ビット交換

真に有用な量子コンピュータを実現するには、伝播性のある量子ビットを用いて離れた固体量子ビット間を接続する「分散型量子計算」が不可欠です。本成果では、その要素技術である、超伝導量子ビット-マイクロ波光子量子ビット間の状態交換(SWAPゲート)を確認する手法を理論提案し、実験グループとの共同研究により実証しました。本ゲートの特長は、超伝導量子ビットに光子量子ビットを反射させるだけで、簡便にゲート動作が行える点です。光子→原子(原子→光子)状態転送の平均忠実度は0.829(0.801)に達しました。この値は量子ビット寿命を伸ばすことにより更に改善することができます。

②量子コンピュータに有用な新奇物理過程の開拓

量子ビットが高度に集積化されると、系と外部系の間の熱のやりとりを制御することが重要となります。これまでに、多くの量子ビットが揃ってエネルギーを放出する超放射という量子力学的な効果が知られていました。本成果では、量子ビット間の相互作用、および結合する外部系をうまく設計することにより、超放射の逆過程である「超吸収」が超伝導量子ビットなどを用いて実現可能であることを理論的に明らかにしました。さらに、原理的な限界として、関係する量子ビット数をNとすると、外部系への熱流は最大Nの三乗でしかスケールしないことも明らかにしました。この過程は、量子コンピュータにおいて、量子ビット系の冷却や初期化の効率向上などへの応用が期待できます。[Phys. Rev. Lett. 2022; Phys. Rev. Lett. 2023]

③量子コンピュータ開発支援ツールの拡充

QuTiP (the Quantum Toolbox in Python)は、開放量子系のダイナミクスをシミュレートするオープンソースの数値計算パッケージです。広く世界で使われており、2022年には累計100万を超えるダウンロードを記録しました。量子コンピュータの研究用にQuTiPをより使いやすくするための新しいパッケージ(qutip-qip)をリリースしました。これにより、ノイズを含む量子回路の制御パルスレベルのシミュレーションが可能になりました。[Quantum 2022]

3.今後の展開

超伝導量子ビットに対して、量子フィルタの数を増やし周期的に並べることで、より効率的に量子ビットを保護する方法を探索します。量子ビットの制御、測定の速度限界・散逸現象についても明らかにしていきます。また、開発支援ツールの拡充を幅広くすすめます。