成果概要
誤り耐性型量子コンピュータにおける理論・ソフトウェアの研究開発[4] 分散型構造を持つ誤り耐性型量子コンピュータの研究開発
2023年度までの進捗状況
1. 概要
本研究開発テーマは、分散型構造を持つ誤り耐性量子コンピュータの可能性を理論的に探究することを担っています。この研究開発テーマの達成により、分散構造を持つことで初めてスケールアップが可能な物理系を用いた量子計算や、モノリシックで開発が進む量子計算機の結合による更なるスケールアップの可能性が明らかになり、プロジェクトの目指す誤り耐性量子コンピュータの設計に新たな指針を与え、ひいてはムーンショット目標6で目指す2050年の誤り耐性型量子コンピュータの実現に貢献します。
この達成に向けては、離れた量子ビットや集積化チップとインターフェースで構成されるモジュールを通信ネットワークで結ぶ基本スキームの設計を始め、分散型に適合する量子誤り訂正符号や誤り耐性量子計算方式との結合が課題となっており、この点を挑戦的テーマとして取り組んでいます。従来とは異なり、クロスレイヤー協調設計と照らし合わせ、誤り耐性量子計算のみならず、量子通信の先端知識を導入することで、この課題の解決を目指しています。
2. これまでの主な成果
①コヒーレント状態伝送に基づき、一種類のエラーしか持たない量子もつれを離れた量子ビットに最適に供給する方法を同定[K. Azuma et al., PRA 105, 062432 (2022)]
分散型誤り耐性量子計算において基本とされるのは、離れた量子ビットに対しCNOT演算を施すことで、これは、離れた量子ビットに忠実度の高い量子もつれを供給することで実現されます[(CNOT演算レート)≒(量子もつれ産出レート)]。本成果では、量子ビットと量子もつれ状態にあるコヒーレント状態を、損失通信路を通じて伝送することで、離れた量子ビット対に一種類のエラーしかもたない量子もつれを供給する方式を考え、それらの方式が与え得る量子もつれの産出レートの原理限界を導出しました。その結果、遠隔非破壊パリティ測定に基づいて量子もつれを供給することが最適であることが明らかになりました。また、この最適方式のように、量子もつれ生成方式が十分効率的な場合、従来必要とされた「量子もつれ蒸留」ステップなしに分散量子計算を行う方が効率的で優れた設計である可能性が見出されました。
②チップレベルの破壊的な誤りに対する分散型量子誤り訂正手法を提案[Q. Xu et al., PRL 129, 240502 (2022)]
大規模な量子コンピュータでは、飛来した宇宙線によるデータの破壊が問題となることが指摘されています。本成果では、分散型の構造を持つ量子コンピュータにおいて、複数のノードにまたがって量子誤り訂正を実行する方法を提案しました。複数の量子コンピュータチップを相互接続し、さらにデータ復元用のスペアノードを接続することで、ひとつのチップのあらゆるデータが破壊されたとしても、消失誤りの訂正技術により、データを回復できます。この手法により、壊滅的なデータ破壊の頻度を、例えば10秒に1回から1ヶ月に1回に削減できると見積もられます。
3. 今後の展開
今後は、分散量子計算の候補となる物理系の特性を踏まえた基本スキームの現実的な理論モデルを作り込み、それを、分散型に適合する量子誤り訂正符号や誤り耐性量子計算方式に結合することで、分散型構造を持つ誤り耐性量子コンピュータの青写真を描きます。