成果概要
主体的な行動変容を促すAwareness AIロボットシステム開発[2] Awareness AIの応用
2023年度までの進捗状況
1. プログラムにおける位置づけ
「Awareness AIの開発」の説明で、私たちはほかの人の動きを見て、情動や痛みなどが判断できるという話をしましたが、この能力を極めたのが、医師なのです。整形外科医に言わせれば、診察室に入って自分の前の椅子に座るまでが、正確な診察の勝負だ、よくおっしゃられます。それは、患者が自然に歩いている様子を観察して、その人の疾患が何なのかを直観的に感じることが何よりも大切であり、その感覚を基に問診や検査を進めなければ、正しい診察はできないそうです。そして、Awareness AIの開発で作られたAIは、この感覚に極めて違いものが出力されるようになりました。
本項目は、そのようなAIをどのように患者の治療や健康維持といった具体的な応用に生かすのかを議論していきます。2022年は、脳・神経科学の議論を徹底的に進め、このようなAIを活かし、利用するにはどういった情報を計測・抽出し、どういった入力をヒトに与えれば、これまで治療が難しかった疾患の治療の可能性があるのか、フレイルのような知らず知らずに進行する衰えを防ぐ事が出来るのかを検討してきました。さらには、ヒトとロボットが共進化するとはどのように定義できるのか、を生物の進化の特徴を踏まえたうえで、深めていきました。
その上で、それを実現できるための計測施設の設置や、一般の方とその有用性を議論する場の提供などを進めました。
2. 研究開発の概要及び挑戦的な課題
私たちは、自分には意識があると感じていますし、自分のこと・周りのことをきちんと理解していると感じています。しかし、私たちの意識に上ることは、全体の10%もなく、ほとんどを無意識の中で処理していることが分かってきました。そして私たちの無意識は次の3つが大きな役割であると考えることができます。
- 周囲の環境や状態への適応
- 環境情報の意味づけ
- 意識的に処理する事象の決定
さらに、このような無意識の処理は、脳深部のネットワークコミュニケーションにより実現されていることも明らかになりつつあります。
さらに、その脳深部へのDirect pathを持つ神経系は、意識には直接上りにくい、弱く優しい入力。すなわち閾値の低い感覚神経細胞を刺激することであることが分かってきました。
それに加え、Unmet Medical Needsと呼ばれる現代の医療技術では根本的な治療を施すことが難しい疾患のいくつかが、無意識を司る脳深部ネットワークの問題により起きている、言い方を変えるならば、私たちの無意識が作り出している問題であると言えることが分かってきました。
そこでAwareness AIを利用し、かつ平田PJで開発されている「優しいロボット群(Robotic Nimbus)」を用いることで、慢性的な腰痛を緩和するシステムと、「失行」と呼ばれる本来は動かせる能力があるにもかかわらず、うまく運動を生成できない運動麻痺患者に適応し、その効果を実証した。
また、健常者のフレイル対策のため自然な動きの中から問題点を見出す計測スペースであるAwareness AI LabをイオンモールNagoya Noritake Gardenに設置するとともに、月一度の市民公開講座を実施し、気づきの重要性の講演会を様々な角度から実施しました。
3. 今後の展開
今後は、Robotic Nimbusを利用したUnmet Medical Needsの実証を本格化させるとともに、イオンモールと協力しながらショッピングモールでの自然な動きを取得しながらその問題点を見つけるシステムの構築を実施していきます。


