成果概要

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主体的な行動変容を促すAwareness AIロボットシステム開発[2] Awareness AIの応用

2025年度までの進捗状況

1. 概要

研究開発項目「Awareness AIの開発」では、人の動作観察に基づく無意識的な気づきをAIに実装することを目指し、歩行や姿勢などの身体的な動きから、個人の抱える問題や将来的に起こりうる疾患リスクを予測するAIシステムの構築に成功しました。
しかし、人の五感で感知できる情報には限界があります。身体の内部で起こっているごく微細な異変や、外見には現れない不調など、従来の観察ベースでは見落とされてしまうリスクもあります。そこで、本プロジェクトの応用研究フェーズでは、Awareness AIをより深く、より正確に活用するために、「見えない生体信号を可視化」する技術開発に着手しました。筋電図、皮膚電気反応などのセンシング技術を統合することで、人の内部状態を外部から読み取ることが可能となり、それをAwareness AIに組み込むことで、従来では検出できなかった問題点の把握や、病の予兆の解明が可能となります。
こうして明らかになった課題に対しては、Robotic Nimbusを用いた動作介入や、医学的な処置を組み合わせることで、これまで「治療が難しい」とされていた疾患へのアプローチや、フレイルのように知らず知らず進行してしまう身体的な衰えを未然に防ぐことを目指しています。
私たちの最終的な目標は、「治らなかった疾患が治る」「気づけなかった問題に気づける」といった、次世代の予防・治療の実現です。さらに、それがなぜ可能になるのかを科学的に明らかにするため、脳神経科学に基づいた理論的な検討も進めています。
また、こうした研究成果を社会とつなげる取り組みにも力を入れています。科学技術が私たちの生活をどう変えていくのかを広く伝えるために、市民公開講座を継続的に開催し、分かりやすい言葉で研究内容と未来像を共有しています。
これら一連の研究と社会活動を通じて、私たちが目指すのは、「日常生活を送るだけで、Awareness AIが自然に不調を検知し、介入と回復をサポートしてくれる」社会の実現です。人とAI、そしてロボティクスが調和する未来の医療・生活支援環境が、いま着実に形になりつつあります。

2. これまでの主な成果

2024年度までに、私たちは、独自に開発した筋活動計測センサーとAwareness AIを組み合わせることで、自然な日常動作中に生じる深層を含む筋活動を可視化し、運動障害の原因となる異常な筋活動パターンを特定する技術を構築してきました。特に、書痙を含むジストニア患者において、症状が出現する瞬間の筋活動を解析し、問題を引き起こしている筋群を同定することで、神経ブロック注射などの標的治療につなげられることを示しました。
2025年度は、これまで個別症例で示してきた成果を、より再現性のある臨床応用へと発展させるため、計測、解析、治療標的の同定、介入、効果確認までを含む一連のプロトコルとして整理しました。具体的には、患者が症状を示す動作を自然な形で行っている間に筋活動を計測し、Awareness AIによって異常な筋活動パターンを抽出し、症状に関与する可能性の高い筋群を推定する手順を確立しました。さらに、治療後の変化を同じプロトコルで再評価することで、介入効果を客観的に確認できる仕組みを構築しました。このプロトコルを、2025年度には計7名のジストニア患者に適用しました。その結果、患者ごとに症状の現れ方や異常筋活動のパターンは異なるものの、Awareness AIを用いることで、従来の目視評価や問診だけでは把握しにくかった運動制御の問題点を詳細に捉えられることが確認されました。これにより、症状が特定の動作時にのみ現れるジストニアに対しても、患者ごとの問題点に応じた個別化治療の可能性が示されました。
また、ジストニアに加えて、パーキンソン病患者への実応用も進めました。パーキンソン病では、立ち上がりや歩き出しなど、動作の開始が困難になる症状がしばしば見られます。2025年度は、Robotic Nimbusなどのロボット支援技術とAwareness AIを組み合わせ、患者の動作状態を解析しながら、適切なタイミングで身体に刺激や運動支援を与える実験を行いました。その結果、動作を開始しにくい場面においても、外部からの適切な支援により自然な動作の流れを誘導できる可能性が示されました。
以上の成果により、Awareness AIは、筋活動を可視化する技術から、運動障害の原因を推定し、治療標的を明確化し、さらにロボット支援による介入へとつなげる臨床応用技術へと発展しました。2025年度は、ジストニア患者7名への適用とパーキンソン病患者への実応用を通じて、本技術が多様な運動障害に対する個別化治療・支援の基盤となり得ることを示しました。

3. 今後の展開

今後は、2025年度までに確立した計測・解析・介入プロトコルをさらに発展させ、ジストニアやパーキンソン病をはじめとする運動障害に対して、より実用的な診断・治療支援システムとして展開していきます。特に、患者ごとの症状に応じて、どの筋活動が問題となっているのか、どのタイミングで介入すべきか、どのような支援が有効であるかを、Awareness AIによって提示できるシステムの構築を目指します。また、今後は、病院や研究室内での計測にとどまらず、日常生活の中で自然に使用できるシステムへの発展を進めます。ジストニアやパーキンソン病の症状は、診察室内では十分に再現されない場合や、特定の動作・環境でのみ現れる場合があります。そのため、ウェアラブルな計測装置やロボット支援技術を生活環境の中に組み込み、患者が普段感じる不便さや症状の変化を継続的に捉えることが重要です。さらに、Awareness AIによる解析結果を、医療者だけでなく患者本人にも理解しやすい形で提示することで、自分の身体の状態や症状の原因に対する「気づき」を促すことを目指します。これにより、患者自身が日常生活の中で適切な身体の使い方を学び、必要に応じてロボットや刺激装置が支援する、新しい治療・生活支援システムの実現が期待されます。

図1
図1:パーキンソン病患者へのAwareness AIシステムの介入実験