成果概要
主体的な行動変容を促すAwareness AIロボットシステム開発[1] Awareness AIの開発
2023年度までの進捗状況
1. プログラムにおける位置づけ
私たちは、他人の動作を見るだけで、たとえそれが何気ない動作であっても、その人の情動や疲労度合い、さらには年齢や体に抱える痛みまでもが推測できてしまいます。そんな場合でも、なぜそう思ったのか、ということをきちんと説明することは難しく、「そう感じるから」という以上のことを説明することはなかなかできないものです。
このように相手の要するから状態を推定することは日常生活のなかで非常に重要な役割を果たしていると言えるでしょう。私たちは無意識のうちにそのような状態を感じ取る事が出来るからこそ、明示的に言葉なでてすべてを伝えなくとも、周りとの円滑なコミュニケーションが取れたり、必要なことを的確に手助けしたりすることが可能になるのです。
今後ロボットが私たちの社会の中に入りこみ、私たち人と一緒に暮らしていくには、このような「空気を読む」能力は必ず必要になってきます。ヒトと同じように空気を読むAIを作ることはできないのでしょうか、まさに「空気を読むことができるAIを作る」ことが、この研究開発項目に課せられた重要なミッションです。
人が空気を読めるのは、その人同士に暗黙の了解というべき「共通するなにか」あるからだと考えられています。この暗黙の了解は、文化や教養を背景とした知識的なもののこともありますが、そのようなものばかりではなく、運動の作り方、さらにはもっとこまかく、筋肉の使い方などのような、意識的にはよく理解していないことも、無意識の中で共有していると考えられます。
この項目の2022年成果は、この空気を読むAIの一端の開発に成功したことと言えます。
2. 研究開発の概要及び挑戦的な課題
どのような形で、空気を読むAIが実現できたのでしょうか。私たちは、ヒトの歩行からそれを実現しました。最初に述べた通り、私たちは人が歩いているところを見るだけで、「あの人疲れているな」とか「足が痛そうだな」などのことが分かります。このようなことが分かるAIの開発に成功しました。キーワードは「人らしさ」と「予測」です。
まず「人らしさ」について考えてみましょう。近年発達した既存のAIを使うと、人と同じような骨格を持つロボットに効率的な「動き方」を学習させることができます。しかし、その動き方は人間の歩行とは似ても似つかないものになってしまうことが良くあります。
もちろん私達も、一人ひとり歩き方は微妙に違うものです。しかし一般的な身体であれば、「右足と左足を交互に前に出す」といったような抽象的な表現はほぼすべての人に共通することになります。このような形でヒトの動きを抽象化して、観察データを整える「人らしさフィルター」を開発しました。
様々な人の動きを計測し、「人らしさフィルター」を通すことで、動きの重要な要素を抜き出した情報を利用して機械学習を行うことで、個々人の違いを消しつつ、歩行の特徴力だけを抜き出すAIを構築することに成功しました。その際、計測データの「少し先」を予測しながらその特徴力を見つけるというアプローチが歩行の特徴量を抜き出すことに大いに貢献しています。この特徴は、股関節人工関節を持つ患者のような、歩行に関連が強い疾患を的確に見抜けることが分かってきました。
3. 今後の展開
2022年に作り上げたAIは、人らしさを判断したうえで、少し先を予測することで、歩行の特徴を的確に抽出することができるようになりました。このやり方は実は私たちの脳が行っていることにとても近いのではないかと考えています。そのため、我々のアプローチが、なぜ的確に歩行の特徴を見出す事が出来るのか、が分かってくれば私たちの脳の働きの一端を解明することにつながるかもしれません。

