研究開発の概要

主体的な行動変容を促すAwareness AIロボットシステム開発

1.プログラムにおける位置づけ

ロボット技術の発展は、私たちに何をもたらしてくれるのでしょうか。危険な作業やつらい仕事を代わりにやってくれるロボット、いつでも一緒に助け合う最高の親友ロボット、身の回りのことを何でもやってくれるお手伝いロボットなど私たちが思い描くロボットはいろいろあります。その中でもロボットと共に生活する未来を、より楽しく前向きなものへと変えてくのが、私たちのプロジェクトの役目になります。ロボットと楽しく前向きに生きるためには、ロボットはどんなことをしてくれる必要があるのでしょうか。
その一つのキーワードは「気づき」です。「勉強しなさい!」と言われてやる気をなくした、といったことは誰しも経験することです。他人から言われたことには、人はなかなか前向きに取り組めないのです。しかし、自分で勉強をする必要性や重要性に「気づく」と、私たちはそれに主体的かつ前向きに取り組むことができ、とても大きな成果を得られることが分かっています。勉強に限らず、「自分にはどんな能力があるのか」「どんなことに取り組めばうまくいくのか」、そんなことに気づかせてくれるロボットがいたら、私たちの今よりも前向きに活発な生活になるのではないでしょうか。

このプロジェクトでは、ロボットが陰ながら我々を見守り、能力に応じた適切な気づきのサポートをしてくれるAIを開発していくことを行っており、これから私たちと一緒に生活していくロボットともに、みんなが前向きに生きていける社会の実現を目指しています。

2.研究開発の概要及び挑戦的な課題

私たちを前向きにしてくれる「気づき」を、ロボットの補助により生み出すことはできるのでしょうか、私たちがこのプロジェクトで目指すのは、自分の持っている能力を同定し、それに適切に気づかせてくれるAIです。そのためには、私たちの脳の中で、どのように気づきが起きなぜ前向きに取り組めるのか、を正しく理解し、ロボットで補助できるようにする必要があります。この実現のため、次の3つの研究課題を設定しています。

  1. ヒトの行動データから脳内活動を推定するAIの開発
  2. 1.のAIを利用し適切な気づきを促すシステムの開発
  3. 気づきを促すための無意識のモデル化

1つ目の課題の、脳内活動推定のためのAIの開発では、日常生活の中で計測可能な生体情報を利用し、気づきがどのように処理されてるのか、本来はどのような能力を持っているのか、が分かる脳内活動を推定するAIを開発します。私たちは、ちょっと痛みがあったり、何か違和感があったりするとすぐに気づきます。初めに、そのような気づきに至る脳内活動を、ヒトの行動から推定することを目指します。その際、周囲環境との相互作用やロボットの介入による影響を考慮し、「ヒトらしい動作」「違和感のない行動」をキーフレーズとし、潜在能力としては何ができるかを判定し、ロボットによるそれに気づきの補助につなげていこうと考えています。(研究開発項目1)
2つ目の課題の、気づきを促すシステム開発では、「優しい刺激」を与えることで、気づきを与える手段を確立します。これまでに、ヒトが直接知覚できないような優しい刺激が、気づきを促すことに優れていることが分かっており、1.のAIを応用しながら、優しい刺激を加えることで、能力を把握し気づきを促すことで対処可能な慢性疼痛や運動麻痺といった極端な例から取り組み、ヘルスケアやフレイル対策といった、一般的な問題に拡大していくことを考えています。(研究開発項目2)
3つ目の無意識のモデル化では、課題1、2を進めていく中で明らかになる、生体情報と脳内活動の関係、無意識への介入手段をもとに、私たちの無意識とはどういったものであるかを、心理学・数理科学を基に具体的なものとして生き社会実装していくことを検討します。それに加え、生体計測の際の個人情報の問題なども扱っていきたいと考えています。(研究開発項目3)

3.今後の展開

ロボットは、今後社会の中でどのような存在になっていくべきなのでしょうか。当然、私たちの欠かせないパートナーとして共に生いくことができるロボットを作りたい、というのは多くのロボット開発者の夢でしょう。もともとロボティクスは、ロボットの身体、制御器、行動目標、環境を含む全体をシステムとしてモデル化し、適切な動作を生み出していく学問でした。しかし、特に環境のモデル化の困難さゆえ、安定した環境中では人を凌駕するほどの能力を発揮するロボットが、様々な予期しない変化の起きる実環境では全く無力な存在となってしまっていました。目標3全体として、この問題を乗り越え、ロボティクスを「システムの中で足りない部分を適切に補う学問」に進化させていかなければならないと思っています。