成果概要
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主体的な行動変容を促すAwareness AIロボットシステム開発[1] Awareness AIの開発
2025年度までの進捗状況
1. 概要
私たちは、他者の動作を目にするだけで、たとえそれが日常の何気ない動きであっても、その人の感情の揺れや疲労の程度、さらには年齢や身体に抱える痛みの有無までを、驚くほど正確に推し量ることができます。しかし、その「なぜそう感じたのか」を言語化して説明することは容易ではなく、多くの場合、「なんとなくそう思ったから」という曖昧な表現にとどまってしまいます。
このように、相手の身体動作から心身の状態を推定する能力は、私たちの社会生活において極めて重要な役割を果たしています。こうした推定が無意識のうちに行えるからこそ、言葉にしなくても相手の気持ちを察して適切に手を差し伸べたり、円滑な人間関係を築いたりすることが可能になるのです。
今後、ロボットが人間社会により深く入り込み、共に生活していく存在となるためには、この「空気を読む」力、すなわち非言語的な情報から他者の状態を理解し、柔軟に振る舞う能力が不可欠です。人と同じように空気を読み、適切に反応できるAIをつくることができるのか——それこそが、本研究開発の中心的なテーマであり、私たちに課せられた挑戦的なミッションです。
人間が空気を読み合えるのは、互いに「暗黙の了解」と呼べる共通の認識を共有しているからだと考えられます。それは言語や文化、教養といった知識に基づくものにとどまらず、動作のリズムや構造、さらには筋肉の使い方といった身体的な側面まで、無意識のレベルで共有されている可能性があります。
本研究開発項目では、こうした無意識的な共有の現れとしての「自然な歩行」に注目し、その歩容の中から潜在的な問題を抽出し、ロボットによる介入が必要とされるタイミングや状況を適切に判断できるシステムの構築を進めています。目指すのは、単なる情報処理ではなく、人の振る舞いや状態を深く理解しときに改善点をそっと教えてくれる、「共に暮らす」ことのできるAIの実現です。
2. これまでの主な成果
概要で述べた通り、私たちは、人が歩いている姿を見るだけで、「疲れていそうだな」「足を痛めているのではないか」といった身体や心の状態を直感的に読み取ることができます。こうした人間の無意識的な観察能力を人工知能に実装することを目指し、「人らしさ」と「予測」をキーワードに、これまで研究開発を進めてきました。
前年度までの取り組みにより、自然な歩行の動きをAIが観察・解析し、健康上の問題や違和感を検出するシステムを構築しました。このシステムでは、「人らしさフィルター」と呼ばれる処理を通じて、現在の歩き方からごく近い未来の動作を予測し、実際の動きとのズレから異常や疾患の兆候を抽出することに成功しました。また、2024年度には、現在の歩行パターンから30年後の身体状態を推定するAIを開発し、ロボットによる介入や歩行補助が将来の歩行にどのような影響を及ぼすかを予測する技術の構築にも取り組みました。
2025年度は、これらの成果をさらに発展させ、単に「歩行に異常がある」「将来的に問題が生じる可能性がある」と判定するだけでなく、身体のどの部位の、どのような動きが問題となっているのかを、より詳細に可視化する技術の開発を進めました。具体的には、歩行中の頭部、頸部、体幹、上肢、下肢などの各身体部位の動きを分離して解析し、それぞれの動きが歩行全体にどの程度寄与しているかを定量的に評価しました。さらに、全身の運動データに対して特徴抽出を行い、歩行を構成する主要な運動成分を抽出しました。そのうえで、各運動成分に対して、頭部、頸部、体幹、肘、手首、膝、足首などの各部位がどの程度関与しているかをヒートマップとして表現することで、ヒトの動きの問題点を視覚的に把握できるようにしました。これにより、従来は専門家の経験や目視評価に依存していた「どこが不自然に動いているのか」「どの部位の協調が崩れているのか」といった判断を、AIによる定量的な解析結果として提示できるようになりました。
このように、2025年度までに、Awareness AI Systemは、歩行異常の有無を検出する段階から、ヒトの動きに潜む問題点を身体部位レベルで詳細に可視化・説明する段階へと発展しました。
3. 今後の展開
今後は、2025年度までに構築したヒトの動きの問題点を詳細に可視化する技術を、より実践的な健康支援・リハビリテーション支援へと発展させていく予定です。特に、AIが検出した歩行や身体運動の問題点を、医療者、セラピスト、あるいは利用者本人が理解しやすい形で提示し、具体的な運動修正や介入方針につなげる仕組みの構築を進める。
人の歩行は、脚だけでなく、頭部、体幹、腕振り、骨盤、下肢などが協調することで成立しています。そのため、見かけ上は足の運びに問題があるように見える場合でも、実際には体幹の使い方や腕振りの左右差、頭頸部の姿勢制御の乱れが原因となっている可能性があります。今後は、このような身体全体の協調関係をさらに詳細に解析し、問題の原因となる運動成分を特定することで、より個別化された介入につなげることを目指していきます。
また、将来的には、AIによる解析結果をロボットやウェアラブルデバイスによる介入と組み合わせ、歩き方や身体の使い方を適切に修正するシステムへと発展させていく予定です。これにより、現在の身体運動の問題点を明らかにするだけでなく、その問題が将来の機能低下や疾患リスクにつながる前に、予防的に介入することが可能になると考えられます。
